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あしあと


 日曜日の昼下がり、あしあとを見つけた。コンビニへの道すがら、マンションの駐車場の前にひとつだけ。用水路のフタに濃い影のようなあしあと。

 一度は通りすぎたのだけれど気になる。
 どうしても気になる。誰のあしあとで、なぜ右足だけなのか。おとなかこどもか。
 俺は立ち止まって振りかえる。
 いや、どうでもいい。早く水道料金を払わねば。

 払込のついでに発泡酒と唐揚げを買った。マイバッグをさげて歩きだす。帰りには消えてたりして?と思ったけれど、まだあった。

 足を止めて息を吸う。
 ひと回り小さいそれに右足をかさねた瞬間、急に暗くなった。頭の上から引っぱられる。体操座りのように脚をかかえ、たぷんたぷんと揺れている。たぶん逆さで。

「ねぇ、唐揚げ2個だけちょうだい?」
「いいけどお酒はダメだよ」
「はぁい」

 くぐもっているけれど、この声を確かに俺は知っている。
 背中をとんとんされて振りむいた。

「あっ! 動いた!」
「触ってもいい?」

 うっすら赤い光を感じる。
 もしかして、ここは?

「ん? なんか変。足の裏ちょっと見てくれない?」
「え、靴底ないよ! どこで落とした?」

 見つけたよ。マンションの駐車場の前で。
 伝えたいけれど、あったかくて心地よくて、俺は。

 

 

了 

 

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 小牧さん、いつも癒やしのひと時をありがとうございます^^

 

水道料金は引き落としだし、お酒も唐揚げも買ってないけれど。笑

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ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!