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世界から見た中国の評価と日本が取り得る選択肢

連載の最終回(第6回)では、中国が世界からどのように評価されているのか、米国の研究機関が公表している情報をベースに述べた上で、アジア経済発展への貢献の観点から、AIIBに対して日本が取り得る選択肢について考えてみたい。

1.日本人の対中感情について

近年、感覚的にも日本人の嫌中感情が急速に高まってきたのを感じる。メディアで盛んに報道される尖閣諸島を巡る諍いや、南シナ海問題のような近隣国との領海紛争、紛争地域にある有資源国での開発推進のイメージ等から、中国は世界中で嫌われているに違いないという思い込みが日本人の中で浸透しつつあるのではないだろうか?

2009年に米国に次ぐ世界第2位の経済大国という「心地よい」地位を中国に奪われ、その後も差が年々大きく開いていく一方であるという事実があり、傷つけられたプライドの癒し場所がないことが、嫌中感情が日本人の間に広まるベースにあると想像される。そのような日本の対中感情が、国際比較してみると、世界の中で相当「浮いた感情」と言わざるを得ないことを、データをもとに指摘しておきたい。

米国のPew Research Centerが、2002年以降で確認されている中国に対する好感度調査結果をWeb上で纏めたものを公開しているのでこちらを利用した。

1度でも調査データのある国は60カ国に及ぶが、時期や頻度にもバラツキがあるため、2013年以降に調査データのある53カ国で比較した。

まず、中国に対する直近の好感度である。

自国愛が凄いのが中国の特徴であるが、中国自身を除いても、7割が中国を好感している超親中国な国は12もある。

また、5割以上が中国に好感度を持つ国まで含めると、53カ国中32ヵ国に及び国別の数で6割に及ぶ。

そして、嫌悪感を持つ人の割外が5割を超える国は、決して多くは無く、日本の嫌中感情が飛び抜けて高いという事実である。

日本語にニュースに触れる機会に多い筆者も、ここまで突出しているとは正直思っていなかっただけにショックであった。国別ランキングにすると、国毎の人口の大小が考慮されておらず比較的小国の回答が過大視される傾向があるとは言え、調査結果を見る限り、全体の傾向として、中国に対して日本のような見方をしている国は少数派であると認識しておいた方がよいだろう。

また、対中感情の悪化の度合いについても、好感度を持つ人が55%を占めたピーク時(2002年)から5%(2013年)と50%もの差があるのは日本だけあることも指摘しておきたい。


2.日本としてのAIIBへの関わり方

中国が、AIIBを自国にとって都合が良く、自身が決めたルールに沿ったインフラ投資を行う為の基金として設立したことは、経緯からみても明白である。

しかし、主要国の中でAIIB設立に関わらなかったのは、アメリカと日本のみで、2015年3月12日の英国の参加表明後、雪崩を打ったように主要国の参加表面が相次ぎ、結果57カ国が創立メンバーとなった。最後まで調印を見送っていたフィリピンも2015年12月31日に署名している。中国の意図が明白であったにも関わらず、最後には「中国寄り」に靡いたのはなぜなのだろうか?


理由は明白で、参加の是非は、好き嫌いではなく、現実問題として、今後、中国が「覇権国」になるかどうかについて、どう見ているかに依存しているからである。

以下は、好感度評価でも参照した米国のPew Research Centerが出している2015年春時点での「中国が覇権国になるか?」を問うた結果の国別国際比較である。

[Source] US Pew Research Center, "People Think China Will or Already Has Replaced U.S. as Superpower:Spring 2015 Global Attitudes Survey"

サンプル数が少ないという問題はあるものの、好き嫌いとは別に「将来の覇権国としての可能性」を見据えるしたたかな欧州諸国と、そうは見做さない(させたくない)アジア諸国(除く韓国)という対比が明確になっているのではないだろうか。

1,000億ドル(11.3兆円)の資本金に対して、AIIBの船出に当たる第1回目の理事会融資承認(2016年6月24日)は、以下の4件で、計5億900万ドル(520億円)と非常に控えめだった。

①単独 バングラデシュ送電線、1億6500万ドル
②世銀と協調融資 インドネシア貧困地区の再開発事業 2億1650万ドル
③ADBと協調融資 パキスタンの高速道路(64キロメートル)1億ドル
④欧州復興開発銀行(EBRD)と協調融資 タジキスタンのウズベキスタン国境結ぶ高速道路 2750万ドル

比較対象として、アジア開発銀行(ADB)の2015年融資承認額は165.8億ドル(1兆9600億円)である。

今後の融資計画(目標)も、2017年度が25億ドル、2018年度は35億ドルと非常に少ない。AIIBは今後も加盟国の拡充を予定しており、欧州や南米27カ国が加盟希望し、現在の57カ国からADBの67カ国上回っていくことになるのは確実であるにも関わらずである。

この理由は、融資をしたいインフラ需要がないのではなく、AIIBのスタッフの人数があまりにも限られ、単独で融資の実務が回せるだけの実務能力がないからである。創立時点で、AIIBの常勤の専門職員は39人、契約職員が20人で、2016年末には100人に拡充する計画であった。当然、融資実務の経験豊かな日本人幹部の参加を歓迎している。(顧問に就任した鳩山由紀夫氏ではなく)

ここで、今後を見据える当たって判断根拠とすべきことは何であろうか?決して、中国に恩を売ろうとか、媚びようといった、好き嫌いの話ではないだろう。むしろ、今後「中国抜き」もアジア地域秩序が可能と見るか、不可能とみるかではないだろうか。

即ち、経済面でも安全保障面でも、新しい地域秩序形成においても日中協力が(日本にとって)「害悪」であるとみるか、「不可欠」として積極的に関与するかを冷徹に考え抜き、今後をより良く生き抜く上での「世界観」をどう持つかである。

現状ですら中国はOECD(経済協力開発機構)、DAC(開発援助機構)のメンバーではない。援助や貸付にあたって国際ルールを守っておらず、貸付リスクや汚職の問題が指摘されている。

また、アジア地域のインフラ需要に世銀・ADBのみでは対応できないという指摘もある。これらの現実を見て、日本が、中国とともにAIIBの投資案件の支援と国際金融のルール作りを主導する機会を是非をどう見るかが問われているのではないだろうか。

トランプ米国大統領の上級顧問で元CIA長官のジェームズ・ウールジー氏(安全保障問題担当)は、2016年11月11日の時点で、AIIBへの不参加をバラク・オバマ政権の「戦略的失敗」と批判し、トランプ政権は中国の一帯一路に対する見方が「ずっと温かなものになる」との見通しを述べている。

世界の潮目が大きく変わる中、中国に対する好悪の感情や、ADBと比較した場合の現状での規模の大小にばかりに拘泥して、日本が戦略的判断を行う機会を逸し、自らの進路の選択肢を狭めていかないことを祈るばかりである。

(完)