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英国の欧州離脱の見通しについて

英国のEU離脱は誰も先を見通せない状況であるが、当初期限が3月29日に迫る中、当面延期になる見通しが濃厚になって来た。

3月29日での合意なき離脱(ハードブレグジット)も辞さない姿勢だったメイ首相が初めて短期間の期限延長を選択肢として認めたのは2月27日。それまで、3月29日に合意なき離脱が充分あり得る姿勢を崩さなかったのは、EUとの離脱交渉を有利に進める為であり、メイ首相の本意ではなかった。

合意なき離脱となれば、英国は通商面において、2016年6月の英国民投票のEU離脱決定以降に継続に合意した貿易協定を除き、離脱と同時にWTOルールに基づく貿易環境に置かれることになる。

メイ首相が交渉の末にまとめたEUとの離脱協定案に基づく離脱の場合には、EUの第三国・地域との貿易協定(英貿易全体の約14%)の恩恵を2020年末まで受けられる移行期間が設けらていた。しかし、同EU離脱協定案は3月12日の議会での採決で、EUとの再交渉の結果を踏まえてのものだったが、改めて大差で否決された。結果、EU側からは合意なき離脱を回避する最後のチャンスを逸したと認識されている。

経済界は、そもそもEU離脱を望まんでおらず、英議会は3月13日に「合意なきEU離脱」に反対する動議を可決させた。

英議会での当期限延長の可決は、残りのEU27加盟国の賛成を得る必要があるものの、否決されることは予想されていない。しかし承認されなければ3月29日に合意なき離脱を迎えることになる。

メイ首相は、離脱を延期するとしても6月末までが妥当と期限を切っている。これは期限を決めずに延期したり長期間の延期を明確化すると5月23日に始まる欧州議会選挙に参加する必要性が出て来るという事情があるためである。

しかし、そもそも短期間であれ長期間であれ、離脱期限を延期したところで、根本的な問題は何も解決しない。アイルランド共和国と北アイルランドの国境問題一つとっても具体的な案が浮かぶ訳でもなく、スコットランドがEU残留派を巻き込んで分離運動を活発化させるリスクもある。

また、通商面では、英国がEUを通じて結んでいる71カ国との計40の貿易協定(FTA、EPA、連合協定)を、6月末までに全ての貿易協定を結び直すのは非現実的である。

フォックス英貿易相が継続交渉を離脱期限までに完了させるとしていたが、英国際通商省(DIT)は交渉の遅れを認めており、現時点で継続合意したのは英貿易全体の3%弱に当たる6協定(9カ国)に留まっている。貿易協定の継続に向けた交渉を続けているものの、現状の進捗状況はノルウェーや韓国、カナダ、トルコなどに限られ、他のEU以外の主要な貿易相手との交渉が6月末までに完了させることは期待できない。

日本との関係においても、EUと日本の間で2019年2月に発効したばかりのEPA(経済連携協定)と同様の協定を6月末日と想定される離脱期限までに結ぶことは出来ないとの見解を示している。

英米FTAに関しては、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は2018年10月に、英国との通商交渉をEU離脱直後に開始する意思を明らかにしている。しかし、2月28日に公表されたUSTRの目標には米農産品への輸入障壁の撤廃が含まれており、英国は、妥結を急ぐと大幅な譲歩を迫られる可能性がある。

先の見通しがはっきりしない為、メディアで書かれることは少ないが、遅かれ早かれ準備不足のまま英国がEU離脱を迎えることは間違いない。もはや合意無きハードブレグジットを迎える前提で準備をしておくべきだろう。