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マンション麻雀に挑戦した話(フィクションです)

はじめに
これから記す内容はフィクションです。絶対にフィクションです。お気持ちポイントやらなにやらよく分からない単語が出てきますが、文脈から察してください。



 2021年10月某日深夜、私は港区某所の低層マンションの入口にいた。天然石なのだろう、高級感溢れるテカテカしたエントランスに辿りつくまでに、公道から10mほど歩く必要があった。ケ〇・コーポ―レーションのHPに載っていそうなビジュアルであるといえば分かりやすいだろうか(実際載っていそうだ)。予め伝えられていた部屋番号をインターフォンに入力する。「あーどうもー」という気の抜けた声とともにオートロックのドアが開いた。ロビーを抜け、1階の部屋の前まで向かう。

「お待ちしてましたーどうぞどうぞ」

 玄関を開けながらそう言ったのは、40代半ばの小太りのおじさんもといこの部屋の主、Oさんである。Tシャツにジーンズのラフなスタイルではあるが、なんだか高級そうな腕時計をしている。自分の家で腕時計付けんのかよいやらしいなオイいやらしいぜ、と思う。恐らく2LDKであろう部屋の通路を奥まで進むよう促されると、リビングの一角に名機・アモスアルティマが堂々と鎮座していた。言わずと知れた全自動麻雀卓である。

 他のメンバーはまだ来ていないようだ。どうぞ座って、と言われたがなんだか高級そうなソファに座るのは気が引けたので、アルティマの椅子に座った。

「やる気満々だね」「いや、あはは」

 初対面のくすぐったい会話は苦手だ。早くメンバーが揃わないだろうか。Oさんがとりとめのない話題を続ける。

 どうもOさんはかなり稼いでいるらしいが、職種は教えてくれなかった。カタギであることを祈ろう。趣味が高じて自宅に全自動卓を購入し、知り合いを呼びつけては麻雀に興じているようだ。マンションでやる麻雀=マンション麻雀だと自分で言ってはいるが、むこうぶちの世界のように営業しているわけではない。こちらからすれば場代無しで麻雀が打てるので悪くない話ではある。

 初対面の私がこの場にいる理由は、簡単に言えば人づての紹介である。近年、面子の集まりの悪さを嘆いていたOさんが信頼できる知人に声をかけており、その網に引っかかったのだ。私の場合はネットゲームのオフ会を通じて出会ったメディア関係の、私を可愛がってくれている年配の方から声がかかった。

「麻雀好きだったよね。100お気持ちポイント用意できる?」

 貧乏な私は当初100お気持ちポイントを用意できなかったため断った。しかしそれから数度声をかけられ、お気持ちポイントさえあればなぁ…と苦い思いをしていた。見せお気持ちポイントが100ということは、一晩で少なくとも50お気持ちポイントは動く。魅力的な額だ。

 ある酒の席、何の弾みかその話を友人のS君にしたところ、思いがけない返事が返ってきた。

「俺の嫁が不足分を貸すよ」

 S君の妻は名家の出だ。小中高大と誰でも知っているエスカレーターの学校に通い、誰でも知っている損保の会社に就職した。家も太いし自分も稼ぐ人で、確かに財力はある。しかしそれはないだろう。返せるアテのないお気持ちポイントを、友人のそれも奥さんから借りるわけにはいかない。私は丁重に断ったはずなのだが、うっかり借用書を作成署名押印提出した結果、翌日私の下に50お気持ちポイントが届いた。

 やべーことやってんな俺、と思いながらOさんとの会話を続けていると、部屋のインターフォンが鳴った。どうやら残り2人の面子が同時に到着したらしい。2人が部屋へと招き入れられる。Tさん、Hさんと紹介された。Oさんとは2人とも顔なじみのようだ。TさんもHさんも細身のアラフォーで、両者ともなんだか高級そうな腕時計をしている。スッキリとした自分の左手首がなんだか恥ずかしい。だが臆してはいけない。今の俺には100お気持ちポイントがある。

 挨拶もそこそこにつかみ取りで席決めし、簡単なルール確認の後遂に勝負が始まった。順位ウマ2-5お気持ちポイントの東南戦、一発赤裏の祝儀が1お気持ちポイント。祝儀は20枚ずつ配られたチップでやり取りする。巷の雀荘でセットで打つのと同じノリである。チップには500やら1000やら数字が書かれているが、数字に意味はなく全て1お気持ちポイントらしい。多分これポーカーのチップだ。恐らくはこの部屋でポーカーもやるのだろう。ギャンブル中毒者の行きつく先は艇かカジノゲームと相場が決まっている。Oさんは年に3回はベガスかマカオに行っていることだろう。

 とにもかくにもHさん(起家)、私、Oさん、Tさんの並びで始まった1回戦、Oさんの7巡目リーチがいきなり炸裂した。

2345(r)5567p5(r)67m67s ツモ8s
ドラ5p 裏ドラ忘れたが字牌 

 9巡目ツモ、安めで倍満の2枚。鬼のような手だが、4巡目に6s手出し、5巡目にツモ牌の6mを見せ牌しそれを手牌に入れて5m切り、7巡目、ツモ牌を手牌の左端に入れて(つまり2p)6p切りリーチ。理牌している人は分かりやすい。つまり、

 345(r)55667p5(r)57m667s 
 
 の様な形から6s切りしたことになる。567の三色を見たのだろうが、7m切りの方が広い上に最終形も全て良形。捨て牌に関連牌もほぼ出ていない。祝儀比率が異様に高いこのルールで、赤赤の手をMAXに受けず手役を追うのは正直ぬるい。ゲームを進めるうちにTさん、HさんもOさんと同じく手役を追いがち(もしくは牌理が強くないタイプ)で、不必要な先切りの両面固定や役牌絞りが目立つことが分かってくる。所謂昭和の打ち手だ。今日は楽勝だな──内心張りつめていた緊張が解けていくのを感じながらゲームは続き、3ゲーム目が終了した。

 

 私の負け分は30お気持ちポイントを超えていた。



次の話


続・マンション麻雀に挑戦した話
https://note.com/mizuwarimiso/n/nf10444eb838b

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