岡田監督に見る、野球監督業という仕事について、そして「普通」の大切さについて


はじめに、そしてエクスキューズ

阪神が18年ぶりに優勝しました、そして38年ぶりに日本一にもなりました。選手の皆様、岡田監督、球団関係者の方々、ファンの皆様おめでとうございます。

私は生まれてからの阪神ファンでございまして、大いに喜び、感動させていただきました。

この文章は元々は阪神が優勝した9月時点に勢いで書いたものですが、そのまま公開する勢いもなく寝かしておいたものです。しかし、せっかく書いたものなので、公開することにしました。

内容としては、タイトルの通り、阪神の日本一を成し遂げた岡田監督の手腕から見る「野球監督」としての仕事に関する私感でございます。
私はただのファンであり、ここに書いた選手の性格の詳細や、感情の機微などは知る由もありません。ただの想像ですが、一般論として、このようや考え方で理解できるのではないかと考えています。

私感以上のものではありませんので、くれぐれもご注意ください。

2023年ペナントを同条件で 100回やり直したとして、90回以上は岡田阪神が圧勝する

なお、優勝直前までは歴史的V逸脱(Vやねん) の再来に怯え続けていたことはこの際無視します。

野球というのは結構運が絡むスポーツなのですが、今年の岡田阪神は運が絡む余地がなく、その他セリーグ五球団よりも圧倒的に秀でていたと思います。
もちろん、2023年阪神は、他球団と比べて遜色ない戦力を有していましたので、メンバーが揃っていたというのは大前提になるのでしょう。ただ、それ以上に阪神と、その他のチームで、大きな差を感じる部分がありました。それは野球というスポーツをプレーする質そのものでした。

岡田阪神は「普通」の野球をし、他球団は「普通未満」の野球しかできない

岡田監督はいつも普通にやっていれば負けることはない、と言っていましたが。この「普通」というのは、非常に曖昧で、多くの意味を含んでいそうです。

私が思うに「普通にやれ」とは、
「『その状況において、普通に考えて最適』な手段を取れ」
という意味であると思います。

何を当たり前のことを、と思いますが、当たり前のことだから難しいんです。

想像してみればわかると思うのですが、我々の日々の業務も、「普通に考えたらこっちの方がいいのだけど、そうすることができない」みたいなケース、多くないですか?
むしろ、「普通にやったらこうならないはずのものが、なんでこうなっちゃうのか、、」みたいなシーンの連続だと思っています。

これは多くの場合、以下の要因で起こりそうです

  1. その時の判断が普通ではない

  2. その時に普通の判断が選べず、妥協する

このうち、1. は判断をした人間が、「その状況における最適は判断=普通」を知らないだけです。
こうすべきという最適な答えがあるのに、それを知らないから判断をすることができない場合ですね。これは知識さえあれば改善可能です。

2.はすでに最適解が選べません。ただし、その状況を生んだ原因が、 1. にある場合、これは知識さえあれば解決できます。普通じゃないことをすると、その先にも複雑な問題になって帰ってくるのは、またよくあることですね。
また、深い知識は、複雑な状況においても、妥協以外の最適解を導けそうです。

論旨の構造上、他球団の話をしても批判になっちゃうのですが、どうにも思いつきや感情に振り回されて、普通じゃない判断を目にすることも多いですよね。今年の岡田阪神に関しては、見ていて理解できない判断はほとんどありませんでした。(あったとして、繰り返されることは皆無だった)

これはけっこう、第一次岡田政権とは違う印象でしたね。以前はなんでそうなるんだろう?という采配も多かった気がします。
これは私の野球を見る目が成長したのか、岡田監督がより監督として成熟したのか、ファンとのコミュニケーションが改善されたか、いずれかでしょう。

「普通」というのは全ての判断の基準です。それゆえに具体性のかけらもないわけですが、成果を出しているチームが「普通」にやっていることと、そうでないチームが「普通」にやっていること。それらの行動には確実に差があることでしょう。

岡田監督は野球脳がすごい

なぜ、より多くの状況で普通の判断をすることができるのでしょうか?

身もふたもない話ですが、岡田監督は、ものすごく野球に詳しいんです。記憶力もよく、自軍の選手も他球団の選手も、すごく詳しく特徴や性質を見ています。そして、選手の特徴を把握する精度も、プレーの局面局面を切り取って考える精度も非常に高いです。ものすごく細かく野球を見ている人なんですね。

これは解説時のラジオの動画ですが、状況ごとの細かい解説、および結果オーライとしてない姿勢。またよくわからない巨人バッテリーのプレーの意図などについてひたすら考えています。こんなにはっきりとプレーの良し悪しを断言する解説者は珍しいんですよね。

岡田監督の野球解像度については、多くの専門家 Youtuber も言及していますし、ダルビッシュの podcast でも触れられてましたね。

「おーんを聴きたくて Youtube を見ていたけど、岡田さんは本当に野球好きなんだなと思った。野球好きだし、野球のことめっちゃ知ってる。自分よりも、野球を見てるコマ数が多くて細かい。プレーの一瞬で考えられることが自分の何百倍もありそう。野球っていうゲームが好きなんだなあ」
「いい指導者だからといって優勝させられるかはわからない」

 ダルビッシュの言いたい放題 ライブ 2022/10/8
https://stand.fm/episodes/63417b3af8295e99fe2b8033

野球はデジタルなスポーツです。サッカーやラグビーのようにアナログに連続しているのではなく、細かな状況が再現可能な、デジタルなスポーツであると言えます。

なので、野球や選手データに詳しければ、状況、スコア、対戦相手の特徴、自軍の選手の特徴、などの要素を頭の中で変数として抽出することができます。

そして、プレーを切り取る解像度が高いというのは、その変数を渡す関数を実行する回数が多いということです。これにより、より多くのシチュエーションで、細かく、普通に考えて最適なプレーを判断することができます。そして失敗を避ける方法も、もちろんより細かく見えてくるはずです。

そうなると、選手が普通じゃないことをやってる時に、それを伝えればいいわけです。自分から見て普通じゃないことをやってたら正しい方向に戻す、というのが指導者の仕事なんだなあ、と思いました。

これって結構簡単なことですよね。圧倒的な知識と経験を持って野球を見て、しょぼいプレーがあったら、それを正すだけ。今年のセリーグにはそれくらい、阪神と他のチームの野球の質に差がありました。つまり、周りの監督とのレベルが違いすぎると。

これには岡田監督の野球観は正解である、という大前提も必要になるわけですが。少なくとも岡田監督より細かく野球のことを考えている人を他に知らないので、信じるしかない。そして優勝しちゃったんだから、信じない理由もないでしょう。

そんな監督の教えにより、知識や経験不足で普通じゃないプレーをする頻度が減れば、それによって妥協しなければならない状況も減っていきます。より状況を有利にコントロールできる数が増えていきます。

佐藤輝明選手が二軍に落とされた時の理由を岡田監督は後に語ってました。打つ打たない、好不調の波があることは選手にとっては当たり前のことです、ただ優勝争いをしているチームにおいて、外された選手が応援をせずベンチに座ってるのは普通の姿勢じゃない。だから二軍に落としたんですね。

「なんでオレがスタメン落ちなんやと思ったのか。それともなんも考えていなかったのか。理由はしらん。途中出場の準備をする前に、ベンチの前に座って、声を出して、スタメンではない選手がチームのために何ができるかを考えなあかんやろ。もちろんプロ野球はアマチュア野球とは違う。ひとりひとりが個人事業主よ。でも個人競技ではない。目標はなんや。アレやろ。タイトルホルダーが何人出ようと、勝たなきゃ、その価値なんかないやん。野球人として、あるべき姿が佐藤には、欠けとったんよ」

【緊急連載】阪神の佐藤輝明「2軍降格事件」の衝撃真相とは?…岡田監督が“サトテル”に伝えたかったこと
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb53fd8611f6721f5bb2057157bf099e4bb0dd58?page=2

しかし、どうやら本文を読むと、岡田監督は佐藤選手に、直接落とした要因を話してないようです。このようなクリティカルなフィードバックをどのように本人にするか、は難しいところですが、ここでは平田ヘッドが間接的に伝えたことが書かれています。

ただ岡田監督は佐藤に直接には何も話していない。平田ヘッドが佐藤に「プレー以外のところも見られているぞ」と、遠回しに伝えたのみである。  それは佐藤が自分自身で気づかねばならないことだと岡田監督は考えていた。

【緊急連載】阪神の佐藤輝明「2軍降格事件」の衝撃真相とは?…岡田監督が“サトテル”に伝えたかったことhttps://news.yahoo.co.jp/articles/cb53fd8611f6721f5bb2057157bf099e4bb0dd58?page=2

このあたりのやり方については人間関係の数だけ最適な方法はあるので、これが最適かはわかりません。
ただ、後半戦、ポストシーズンに入り、佐藤選手の姿勢は明らかに変わりました。
彼は決して不真面目な選手ではなく、あまりにもマイペースな選手なのです。なので「気にしなければいけないこと」をきちんと気づかせることができれば、改善してくれるでしょう。

岡田監督は滑らない

岡田監督はオリックスでの監督以来、久しぶりの現場復帰です。前回の優勝監督であり実績はありますが、それでも原監督や落合監督のようなピカピカの実績ではないですし、オリックスではどちらかというと屈辱的な成績で球団を去っています。
なので、新しい監督として迎えた時に、全ての選手が完全に岡田イズムに染まった状態ではないでしょう。

岡田監督が卓越した野球観を持っているとして、どのようにして現場にその指示を実行させてきたか?

私が思うに、岡田監督は、すでに現場にある信用を上手く使ったと思います。それを代表するキーマンは、平田ヘッドと大山選手です。

平田ヘッドの信用を借りる

平田ヘッドは前回優勝時のヘッドコーチであり、岡田監督とは現役時代から二遊間を組んでいた仲です。そして彼は岡田監督が球団を離れた後も長くチームにいて、前年までは二軍監督をやっていました。
この人は非常に面白い人で、星野監督の時は運転手をやってたりした人なのですが、とにかく明るく、起点が効く方です。

信用は成果や実績によって蓄積されます。そして長年一緒にいることによっても蓄積されていきます。平田ヘッドは阪神球団では、長老のような存在でありつつ、目の上のタンコブにはならないような人柄であり、さらに二軍監督で日本一にも輝いています。
選手からも相当量の信用を持っていたのではないでしょうか。

そして、平田ヘッドは岡田監督を知っていますし、前回優勝した時の監督ですから、両者に信用があります。この場合、岡田監督は平田ヘッドの信用を借りて、それを選手に対して使うことができるわけです。

大山選手の信用を借りる

次に大山選手です。大山選手はドラフト一位で入団し、今年は開幕からずっと4番を打ち続けてくれました。

岡田監督は、監督としてチームに入る前、4番は佐藤選手でもいいんじゃないかと考えていたようです。普通に考えたら、外から見て、佐藤選手の打棒は群を抜いています。
彼が一皮剥けたらとんでもない打者になることは明らかです。ただチームに入って練習を見ていると、チームメイトの大山選手を見る目が違っていることに気づき、彼を4番にすると明言します。
大山選手は圧倒的に現場の信用を持っていた選手だったわけです。

大山選手は優れた人間性を持ち、優勝手記でも、金本矢野監督への感謝も忘れないような真面目な男です。そして優勝や、自身のドラフト時の屈辱を一身に背負っていました。思うに、このタイプは素直に新しいリーダーを受け入れてくれます。それがチームのためになると信じているからですね。

岡田監督はそれを見て、普通に考えて、彼が4番であると判断しました。

さらに大山選手は、もう1人の核となるチームメイト、近本選手と強い信頼を持っていますから、これらも幅広く使えるようになります。

これは完全に私感ですが、今年の阪神はチームが若く、変に実績や、発言が強いロートル選手。自我が肥大している傲慢な選手、みたいなのがまったくいなかったように見えます。これが岡田監督成功の最大の要因だと思ってます。素直でいい子な選手が多かった!

大山選手が中心となるチームを作る。普通に考えたら当たり前のことですが、この普通ができないリーダーはめちゃくちゃたくさんいると思っています。

また、岡田の人柄によるものも大きいでしょう。彼は愛想のいい人間ではありませんが、スタジアムのスピーチなどからも見てとれますが、オーディエンス全員に、正直に本音で語りかけます。あらかじめ決めたことしか言わないのではなく、その場に最適な美味しいコメントを残すことができます。
滑らない人なんですよね。場を掴むためのコミュニケーションとは何か、というのが自然とわかる人なのだと思います。

もちろん、今岡、安藤、久保田、藤本コーチをはじめとした、一次政権の教え子たちとの間の信用もうまくコントロールできたことがプラスだったことは、書くまでもありません。

岡田監督は、自身の人身掌握力をもって、自身の詳しすぎる野球観をベースにした「普通」の考え方、「普通」の実行をチームに徹底させていきました。

ちなみに、昨年まで投手コーチをやっていた金村コーチは、前評判を信じすぎてチームを離れてしまったことを悔やんでいましたね。

「岡田監督の投手起用が、投手陣を預かる面で心配だった。二軍コーチのオファーだったので、故障した選手が自分のところに来るという状態は耐えられないと思った。でも実際開幕して、うまいことやりくりしていて、全然話が違うじゃん!と。コーチがストップかけても聞かない。全部自分でやって、という噂だったので。それを真に受けてしまった」

宮本さんと金村さんのぶっちゃけトーク。コーチを自ら辞めた二人。金村さんは岡田監督を誤解していた?!
https://www.youtube.com/watch?v=bxozyrV3FFw

これを考えれば、岡田監督は一次政権よりも、はっきり言って、指導者として成長していると言えそうです。

前監督でも優勝はできただろうが

さて、あまりにも長文になり、何を書きたいのかもよくわからなくなってききたので終わりたいです。多分今年の戦力であれば、矢野前監督でも優勝できたんじゃないかなと思ってます。

一番最初に書いたように、野球は運が絡むスポーツなので、100回ペナントを回せば20回くらいは優勝したかもしれません。そして新井新監督も数回優勝することはできるでしょう。

ただ、それであってもポストシーズンを無敗で突破し、日本シリーズでオリックスに勝てたとは到底思えません。
さらに、今後の黄金時代にむけて、監督の後継者育成はどうなるのか?チームのリーダーはどのように移るのか?のような黄金時代への展望を望むこともできなかったでしょう。
それほどまでに今シーズンの岡田監督は、圧倒的に名将であったと言えます。監督の力を見せつけ、監督の仕事の価値をファンに伝えるに余りある活躍でした。

私は30年以上野球ファンをやっていますが、今シーズンほど細かく采配や選手、監督のコメントを確認し、それぞれが腑に落ちたシーズンはありません。
また新しい野球を見る目を与えてくれた岡田監督に感謝します。間違いなく日本の野球のレベルは来シーズンから上がるはずです。
そして、夢を見せてくれた阪神の選手の皆様にも、当然のように感謝したい。選手の活躍があってこそであると、敢えて書く必要もありましょう。

セリーグ優勝、日本シリーズ優勝おめでとうございました。来年もよろしくお願いいたします。


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