見出し画像

6月の終わり、夏の始まり


駅に着いて自宅方面に歩き出すと、黒い塊が動いてた。
駅は絶えず人が歩き回るから埃が舞い踊り、塊になって風に浮いているのだと思った。

横を通り過ぎる時わかったのだが、ゴキブリだった。
かなりの大きさで艶があり、必死に歩き回っている。


ただでさえ蒸し暑くて汗が止まらないのに、
ああ、これから暑くなるんだなとうんざりしてくる。


久々に家族と出かけた帰り、プリクラを撮ることにした。
8年以上前に1度撮ったので、それを更新しようというのだ。


女3人、プリクラ機の中に入り、挙動不審になりながら何とか撮影した。
最後には動画撮影まで着いていて、もうプリントシール機なんかではなくなっていた。


やっとこさ出てきたプリクラ。
目は顔の半分以上を占め、鼻は小さく口は赤く、肌は雪のように真っ白だった。
これは、本当の自分ではない。
プリクラは出かけた記念、遊んだ記念に撮るものでは無く、
自分の顔を人形のようにしたい人たちが撮るものなのかもしれない。

私たちは怖い怖いと笑っていた。
私はプリクラの画像を貰うため空メールを送信したが、
空メールという何ともアナログな方法に、なんだかもっと笑えてしまった。



駅から家に帰る道、住宅街を通り抜けて歩く。
暑くて早く帰りたい。
日は沈みかけていて、向こうの空はすみれ色だった。


実家からはオレンジ色に見えるけど、
一人暮らしの家からは、すみれ色に見える。
夏になる前の、この時期にだけ。


こっちの空はまだ青い。
ぼーっとすみれ色の空を見て、綺麗だなあと思う。
携帯の写真に撮ろうと思っても、この綺麗さは伝わらない。
携帯の写真は、必ずしも本物を映し出すわけではない。


プリクラも同じなのかもな、とふと思う。
出来上がったシールはどうでもよくて、
プリント機の中でわーわー写真を撮る瞬間が、
できた写真を見て笑うあの時間が、
自分の中で記憶として残っていくのだな、きっと。


私はすみれ色の空を覚えておきたいな。
きっとこの街からは居なくなるけれど、
この空のことは覚えておきたいな。
人形のような顔になったプリクラのことも、全部、全部。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?