ふらふら揺れる「Flamingo」に弄ばれている件について & "米津玄師 2018 LIVE / Flamingo"で確信したワールドミュージックとの繋がり

10月31日(水)にリリースされる米津玄師のダブルA面シングル、その表題曲のうちの一つ「Flamingo」、いやはや、すごい引き出しだ。

実際「引き出し」ではなく「才能」と言いたいんだけど、個人的に「才能」という言葉に中身がない感じがするので、あくまで人自身に選択肢の多さを表すため、分かりやすく「引き出し」と言い換えた。

2017年、そして2018年、いや2019年も含めて、今のJ-POPにおいて必ず挙げなければいけない名前がいるのなら、それは米津玄師、星野源の2人だろう。それ以外にもあいみょんなども次点で挙げられるが、前述の2人のそれは破竹の勢いなんて形容以上の規模感がある。

「Lemon」を入り口に聴き始めたリスナーに対して、カウンターパンチを食らわすかのような返答を見せる「Flamingo」。ここ最近定着していた現代的な言葉づかいではなく、短歌や和歌、何より音節の点から見ても都々逸を意識したリリックがとにかく耳に残る。『HIGHSNOBIETY JAPAN』のインタビューなどによれば、同曲にたどり着く前に元はフォルクローレ(民族音楽全般を指す)をやるつもりだったという。そこに米津自身が好きだという沖縄民謡の歌唱要素を盛り込む、という一見「混ぜるなキケン」な組み合わせがこの曲の異質感のタネの一つだろう。

また、ボーカル・サンプリングを幾重にも多用している。LとRに限定した音を流すのではなく、部分によっては音符ごとに振る、または重ねるを繰り返す。さらに咳払いやマイクチェックを意図したような声、日常生活の一場面を切り取ったかのような声まで切り貼りしていて、それらがグルーヴ、ひいてはビートとして作用しているのだ。

特殊に聞こえるかもしれないが、むしろこれまでボーカロイドを使用してきた彼にとっては、それら特殊に見えることが当たり前で、むしろそれが唯一の表現方法だった。不器用が器用であることの証、とでも言おうか、自分の引き出しの中から一番赤裸々である部分を、一番の得意な方法で引っ張りだす、そんな潔さもこの曲から感じられる。

『HIGHSNOBIETY JAPAN』のインタビューを読んだ上で、もう一つ感じたこと。それは彼が「Lemon」の爆発的なヒットを受けた中で「自分が受け取る側から渡す側にシフトしていったと感じる」と述べている点だ。

面白いのは、先日ニュー・アルバム『POP VIRUS』の発表をアナウンスした星野源も、過去に「Continues」という楽曲で「続いていく」、「継承する」ことをテーマに壮大なポップネスを鳴らし歌っていた。

いまJ-POPのど真ん中にいる2人が、その中心に居座るのではなく、自分が受け継いだことを次のリスナー(世代)へ渡すような意識を持ちながらすでに活動している。そして2人ともムーブメントを生んだことを免罪符とも捉えつつ、どこまでも自由であることを体現するためにヒットを量産している。偶然ではあるが、どこか必然にも感じられるトピックだ。

今年は、ここ日本で多くのアーティストがSpotifyをはじめとしたサブスクリプションサービスに自身の楽曲を解放した。Mr.Children、松任谷由実(荒井由美名義も含め)、井上陽水、ポルノグラフィティなど、その大半のアーティストが米津玄師、星野源と同じく、一度はある年、ある時代を象徴する存在としてJ-POPの中心にいたことがある。一方、米津玄師、星野源は配信リリースはしているが、現在、Spotifyなど定額制サービスに楽曲を提供してはいない。解放した側、今はまだ解放せず時代を受け渡すために時代の戦闘を走る側、これらの動きを俯瞰して見ると、まるでバトンを受け渡しているかのようだ。何だか、とてもよくできた話にも聞こえてきた。

米津玄師の「Flamingo」を聴けば聴くほど、ポップスの伝統と意匠を同時に感じることができる。おそらく、この感覚は星野源の「アイデア」でも多くの人が感じたそれと同じものだろう。しかも、これがCMタイアップでお茶の間に流れるときたもんだ(「アイデア」は朝ドラ主題歌でしたね)、すごい。

正直、この2人の共通点は多い(それぞれ海外の音楽に対して柔軟で、最先端のビルボード・チャートからの影響を楽曲に反映させていたりする)。だが、それはこの年末に多くのメディアで必ず取り上げられるはずだし、もしかしたら間もなく発表されるであろう『紅白歌合戦』で、目に見える形で早々に証明されるかもしれない。

そんな近い未来に期待しつつ、今はただ、このふらふら揺れるフラミンゴに弄ばれていようと思う。

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と、ここまで書いた翌日10月28日に、幕張メッセにて"米津玄師 2018 LIVE / Flamingo"を鑑賞。シーンの最前線で最も自由に歌い踊る彼の姿を2018年中に観ることができたのを本当に良かったと思いつつ、少しばかり追記していきます。

2日間にわたって行われたこのワンマンを、各日およそ2万人、計4万人のファンが目撃したこと、その規模感の大きさは、今現在の彼の認知度そのものと言って差し支えないだろう。

今回のライブで特に気になったのは、上の話にも通ずる「米津玄師のインプットとアウトプット」について考えさせられたことだ。

それは、開演前に会場で鳴っていたSEが、米国や欧州におけるワールドワイドなミュージック・トレンドをしっかりと掴んだものばかりで、かつ、それらがライブ本編で披露された彼のオリジナル曲のあちらこちらにエッセンスとして散りばめられていた、という事実。

そういえば、昨年リリースされたアルバム『BOOTLEG』のインタビューにて、米津は自身の持つオリジナリティーについて、以下のように語っていた。

音楽って、フォーマットじゃないですか。“型”のようなもので成立している部分があるのは事実で、そのなかでいかに自由に泳ぐかじゃないかと。自分がやりたい音楽って、基本的に普遍的なものなんですよ。普遍的なもの、多くの人間、コミュニティ、国や地域などいろんなものの根底に流れているものを普遍性だと言うのであれば、それは“懐かしさ”と言い換えられると思っていて。つまり、どこかで聴いたことがある、どこかで見たことがある、というようなものだと思うんですよね。そういうものを、いかに今の自分に響かせることができるか――それが自分なりのオリジナリティーだと思っているし、極端なオリジナリティー信仰とか、センス信仰はどうにかしてると思う。そんななかで、最初にリスペクトがあり、その上でどうオマージュするかということをすごく考えながら作っていました。(Real Sound:アルバム『BOOTLEG』インタビュー より

0から1を生み出せる人は本当に一握りしかいなくて、こと音楽に関しては既存のメロディーやコード、リズム以外で全く新しいものを生み出しことは、おそらくもう不可能に近い。少なからず、誰かが使っている方程式や、潜在意識の奥底の、すでにある記憶にある1を2にしたり、それに色つけたり多様しているはずだ。彼ももれなく、そういうことをしていることを自覚しており、その中でいかに「米津玄師」という色をつけていけるか自由に試しているんだろう。

それを踏まえて開演前のSEとこれまでの米津玄師の音楽は、明らかに共鳴していた。まずは以下に会場で流れていた楽曲をご紹介。

・Kanye West - Ghost Town
・Jeff Buckley - Hallelujah
・Mura Masa - Move Me  fet. Octavian
・alt-J - In Cold Blood
・Drake - Finesse
・Unknown Mortal Orchestra - Honeybee

どれもイントロ、もしくはさわりだけでもいいから聴いてみてほしいが、明確に米津玄師の曲と繋がる部分があることをわかってもらえるはずだ。

カニエのオルタナティヴなトラックメイク、ジェフ・バックリィの素朴にして心理を優しく歌い上げる美しい音階、808のハイハットの上をレイドバックして歌うドレイクのボーカル。ボカロから自身の肉体を得たのちの米津玄師の曲は、これら世界の音楽から引用した部分も含めた上で、確かなオリジナリティーを獲得した。それがJ-POPのフィールドでオリコンや配信チャートの1位になっている。つまりは世界と日本を繋ぎ合わせる共犯関係に、彼は一役買っているのだ。

これらの中でも、ライブ終演後の退場SEとして流れていたBibio「À tout à l'heure」なんて、もう米津サウンドにある牧歌的でメランコリーな空気そのままな楽曲だ。

ライブで披露された新曲「TEENAGE RIOT」は、彼が中学時代に作曲した曲のメロディーがサビにてほぼそのまま使われているのだとか。過去の自分まで引き連れて引用する、それが古臭くなく、2018年、現在進行形の最先端として4万人の前で堂々と爆音で鳴らされたのだ。

今回ライブを観たかったであろう何十万というファンも、来年開催される全国ツアーにて間違いなく彼の最新形のオリジナリティーに触れられるはずだ。彼に興味がない人も、一つの時代を目撃する意味で、誰かに誘われたなら怖いもの見たさでも構わない、ぜひ足を運んでみてほしい。

来年以降の彼のキャリアにおけるエポックメイキングな瞬間は、おそらく早いうちに訪れるだろう。彼のオリジナルへの考えが変わらない限り、そして世界で刺激的な音楽が量産され、彼がそれを聴いて影響されていく限り、米津玄師の独創レースは終わらない。


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