なんてことない日曜日 1

久しぶりに恋人の家に訪問し、その風呂場の地獄絵図っぷりにわたしは戦慄を覚え、その後半ば感心してしまった。

恋人は一応アパレル系の会社に勤めており、身なりには気を使っている。肌からはいつでも石鹸と柔軟剤の匂いがするし、髪の毛はいつも艶々としている。

しかし、社会には出ないバックヤードの部分はこの有様である。
排水口には何重にも髪の毛が絡まり、真っ白だった床はカビと水垢の寝床となっている。
風呂釜は四隅に垢と入浴剤が混ざり合いこびりついている。
恋人は、この状態の風呂釜に湯をはり、なぜか丁寧に入浴剤を入れてバスタイムを過ごしているのだろうか。

この風呂に、今日私は入らなければならないのか……。すうっと背中が寒くなり、掃除ブラシを握った次第である。
この置いてある掃除用具だって、あまりに無頓着な恋人に困り私が買い与えた物なのだ。3年前に。

私の恋人が恋人になり、今日で丁度3年が経った。最も、高級なレストランやホテルのバーにも行かず、私たちは日中ただ散歩をし、家に帰ると映画を観て近所で簡単な食事をとり、また家に帰ってきた。ただそれだけの日だった。

そもそも、恋人と会ったのは半年ぶりなのだ。私は、人員不足の為東京の本社から地方支社に異動となり、恋人は恋人で仕事とトモダチ付き合いに忙しく、一度も私を訪ねては来なかった。

それでも、今日だけは何としても会わなければと思ったのは、私の意地なのか、恋人同士の義務感か。

恋人は、リビングでゲームをしている。私は息を大きく吐き出し、意を決して排水口の蓋を開ける。

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