見出し画像

「しかし」、という逆説接続語がネック

 

11月15日のブラジル共和国記念日を前に、
ブラジル北東部バイア州のバイア地理歴史財団/Instituto Geográfico e Histórico da Bahia(IGHB)が,「ブラジル共和国の過去と現在、そして同国におけるグレートリセット」というタイトルのオンラインディベートを企画し、2023年11月9日に開催となった。

 

リカルド ノゲイラ弁護士の司会のもと、参加者は同国前ボウソナロ大統領政権下で外務大臣を務めたエルネスト アラウジョ氏、同財団の図書館長でもあリスボン大学で博士号を取得しているルイス アメリコ ジュニアー教授ならびに、南米諸国を中心とした外交関係専門のジャーナリスト(Brasil Sem Medo,やスペインの新聞等の記者)ルカス リベイロ氏の4名。

https://www.instagram.com/ernesto.araujo.mre/  (アラウジョ氏インスタグラム)


 これに先立ち、ブラジルの現与党左派政権支持者かと想像される500名人以上の同国民が, ディベートの数日前から財団のインスタグラム上の投稿に対し、特に元アラウジョ外務大臣の参加に疑問を呈する事態となり、
事前検閲の可能性を巡り、終いにはバイア州議会で同件が議題にのぼるに至り、州政府の文化庁が異を唱える事態となった。
ネット上における現与党支持者の言い分は、同財団が左派与党州政府から助成金を得ているにも関わらず、保守層である元外務大臣の参加はけしからんという理由からである。

以下、ブラジルが1989年11月15日をもって帝政から共和制に移行したことに関連する諸問題や歴史観などは割愛するが、
日本の読者にも比較的わかりやすく、興味の対象となるであろうグローバリゼーションとグレートリセットに関する参加者の見地をまとめてみた。

まずは、元外務大臣アラウジョ氏の語りの訳を一部。

「今世界でおきている策略はまさにグローバリズムともグレート リセットともいえる。
国家という単位、伝統などの価値観の溶解が図られ、
この世界に存在し続けるための新たな方法を構築すべく企てが、ここ数年で
突出してきている。
私自身は、グローバリズムを、ある一種のロゴス システムだと思っている。
私のオンライン講座のテーマ名はまさに、ロゴス政治。」

https://www.academiafolhapolitica.org (アラウジョ氏が開催する講座)

更に同氏はこう続ける。
「ロゴス、つまり言葉から派生する論議の操作により、システム構築を模索しているのがグローバリズム。
グローバリズムは色々な意味合や内容を内包するものの、基本的には論議の新たな構築、支配更に、抑圧であると考えることができると思う。
人類の長い歴史からすると、支配は土地におけるそれが主たる手法であったが、昨今においては、それが流通だったり、物質における支配にとって代わられていっている。
更に直近においては、金融市場の支配によってであると言うことができる。
21世紀の今においては、言論により、支配を勝ち取ることができると言える。
情報、言論、コミュニケーションによって。
情報を支配する者は、権力とそれを可能にできる要素を独占できる傾向にある。
論議の、いわば抑圧に流されないことが大切である。

グローバリズムは、歴史観のせめぎあいでもある。
過去を支配するものは未来を支配し、現在を支配するものは過去に同様の力を及ぼすとよく言われるように。
事実は事実として議論しようがない、と言われるものの、人間の性質上、事実は物事の実際そのままの事象として
完璧な形で我々の前に立ちはだかるというわけにはいかない。
皆が皆、同じ様式で、特定の出来事を見るというわけにはいかないのが実際のところだからだ。
特定の事象が起きた瞬間から、議論やナラティブ(物語性)が生じ、その競り合いが瞬時にして拡散するのが実際のところだ。
実証のあるがままの姿を覆ってしまうような現象がそこに起き、
事実との乖離といった現象が起こる。
今おきている中東の出来事においてもそれは明らかだ。事実が、日々、ナラティブによって歪曲されてゆくのを我々は目の当たりにしている。

テロの度重なる再発は大いにそれと関係している。
テロとは、それが起きると同時にどうやら、ナラティブ網に落としめられる傾向があるようだ。
それが、まさにテロが擁護されることに繋がっている。
メディア、SNS等を含めた、情報社会がそれを許容する扉を開かなかったならば、テロ実行者の実践土壌は、限りなく狭められるであろうと思う。
テロ実践者には、その不可能性に対する期待が常に既存しているのだろう。
彼らの行いを否定する者もいれば、否定すると口では言いながらも、何らかの民間活動等においてそれを支持する結果となっている者がいるのをテロ実践者は知っている。
今テロを最も助長する言葉あるとそれば、
小さな言葉ではあるが、それは逆説の接続詞の「しかし」だと思う。
多くの人が、「何においてもテロは容赦できない」と言う。だが、その後「しかし」と続き、「パレスチナやパレスチナ人は」こうでこうであって
「正義をもって扱われていないから」「理解しないといけない」等との論調につながる。
「このようなテロの暴虐は戒められるべき悪行であることに間違いはないが、しかし…イスラエルはあのような手法で自己防衛してはならない。」などなど。
テロ実行者側が、その「しかし」が存在することを周知済みだ。
その「しかし」がまさに今見受けられているような行為を永続させる。

グローバリズム権威を誰が実際にとりしきるかという、異なる主役の競り合いの中途過程に今我々はいると解釈できると思う。
各アクターが各々固有の論議、言葉また情報の操作の駆使しながら非常に活動的に行動している。
グローバリズムの一環としてあげられるのが中露軸。
ロシアは、情報操作国しては世界一と言ってよいかもしれない。
国際的にもすでに知られた事実だ。
プーチンの権力の主軸は、物質的な実際の武力よりも、情報操作のそれを握っているという点にあるだろう。
世界中にそのネットワークを張り巡らし、右であろうが、左であろうが、中道であろうが、軍部、メディアを取り込み、
念入りに
それらを思うがまま操ることができる能力を持っている。
ソ連時代からそれを展開してきたことは周知済みである。
ブラジルとの関係においては、ソ連がいかに情報操作を行っているかを実証するリポートなどもすでに出ている。
中国に関しては、それを理解すべく欠かせない書籍がある。
書籍名は Hidden Hand/Exposing How the Chinese Communist Party is Reshaping the World。
著者は Clive Hamilton /Mareike Ohlberg 。
中国共産党の各国への投資に関してももちろん触れられているが、
中国の最大の力を証明するのは、論議を駆使した支配にあると著者は延べている。
経済面での中国の世界各国援助は、中国の論議を強化するために使われているとも指摘されている。

グローバリズムの更なる一面は、犯罪組織。
犯罪組織にとって国境というものは存在しないので、まさにグローバリズムの特性を内包している。
国境もそうだが、国籍の溶解もそこには存在し、
犯罪組織も論議、論調により己れの支配力を強化する。
犯罪崇拝の傾向が、司法との癒着を可能にし、犯罪軽視を助長する。
密輸の域であれ、汚職の域であれ。
犯罪も、テロ同様に、先に述べた「しかし」という逆説接続詞が幅を効かせる。
「犯罪組織には真向から立ち向かうべきだ」「しかし…」犯罪者を釈放しなければならない、という流れになってしまうわけだ。

まとめると、グレートリセットは以下の3本の柱からなりたっていると私は解釈している。
中露軸。
犯罪組織。
策略、概念、影響力の集積とネットワーク。

それらが日に日に、特に西洋社会をその暗闇に引き込んでゆく傾向を我々は目の当たりにしている。
特に、環境とパンデミックアジェンダを口実に。
昨今の感染症の件は、多いにそのために利用された。
そういった意味では、新たな感染症の大波が再到来してもおかしくない。
こういったメカニズムをさらに直伸させようという企てのもとに。
別の機会に、そういった流れがいかにブラジルを直撃可能か、というよりかは、いかに事実 直撃したかを話すことも可能だが。

グレートリセットは、広範における特定の国際的な提携網が存在するわけでもないし、政党政策でもないし、
少なくとも明白な定義をもって図ることのできる一国家だったり、それらを成す一部のグループがもつイデオロギーでもない。
が、存在する概念であることには違いない。
一定の数の、異なる分野の人たちから構成され、それを謀るグループ、権威者が存在する。
まさに、我々の世界、社会を刷新/リセットしようと試みているわけである。
伝統、国家、特質、既存の概念などに対する忠誠の破壊をもくろむ策略だ。
家族内の個々人、地域社会、国家単位はもちろん、自分自身に対してでさえ、その刃はむきかねない。
人間が、自分自身という人間の基本的な要素から乖離してしまう傾向がその概念には存在するのは明白だ。

1889年におきたブラジルの帝政から共和国への移行に関してだが、
その当時の状況をグレートリセットになぞらえることができる。
当時のブラジル国民の多くが、一夜にして自国が軍により指揮される国に変わってしまい、
それまでの国民性や国の性質を強制的にいっきに脱ぎ捨てざるを得なかった状況が、現在グローナバリストが目論むグレートリセットと似かよっている。」

と以上アラウジョ元大臣による言葉の直訳を記しておいた。
更に、ブラジルの共和国移行後
北東部バイア州の内陸部でアントニオ コンセリェイロというキリスト教の人物が
そのいわばクーデターに反対する運動をおこし共和政府側に処刑された過去の出来事をひきあいに、
今年の政権移行後の1月8日に、ブラジルの行く末を安じ、首都ブラジリアで聖書を脇に抱え祈りをあげていた保守層の中高齢者の無罪の女性らを含む千名以上の自国民が未だ重き裁きの対象となっていることに懸念を示すに至った。
(↓ アラウジョ氏が紹介した中国に関する書籍)

次の講義者は、ジャーナリストのルカス リベイロ氏。

https://brasilsemmedo.com (同氏も寄稿する保守系メディア)

同氏はブラジルにおいては、グローバリズムとグローバリゼーションが長いこと混同されてきたと語る。
そこで、敢えてグローバリズムとは、「国際社会におけるいわば政策ならびにそれに基づいた諸々決め事の執行であり、それを行うのは
シンクタンク、財団、国際的な団体であり、考え方は多岐にわたり、急進派からリベラル、社会主義者などのそれらの混合があげられる」とし、グローバリゼーションと混同しないようにと喚起。

グローバリゼーションが私たちの生活の中でいかなる形をもって現れるか、について彼は触れた。
優生学的な考え方、グレタ トゥンベリーに代表されるような人類を自然/環境に相対する敵だと強引に位置付けるような環境保全の考え方などの例をあげ、更に、金融市場を利用したグローバリゼーションの一例として、
政府の意向に沿わない言論を理由に、国民が仮想通貨がメインとなった市場で、銀行口座の閉鎖、失職などの憂き目にあい、市民権すらはく奪されるも同然の状況に陥る人々がいる現在の中国の例をあげ、
同時に、現在米国、主にフロリダ州を活動拠点とせざるを得なくなっている保守系のブラジル人ジャーナリスト数名の件をもあげている。
実際にブラジル国会においては、言論の統制が強化されることに繋がりかねない法案が審議中であることも付け加えている。
昨今の感染症についても、市民が自身の身体における権利さえ失い、
公共の便宜という名のもとに通学を阻止されたり、出社を阻まれたことなども、想起しつつ、
それらはすべてはグローバリゼーションの一例であると説明。

ディベートを導いたリカルド ノゲイラ弁護士は、
2019年に行われたアラウジョ元外務大臣の就任式でのコメントを振りかえった。
同氏の「今日からイタマラティー(ブラジル外務省)は愛しきブラジルの胸元に戻る」という言葉に
胸を打たれ、国民が分断されることなく、いかなる市民もが調和のとれた環境で生活できる国の再到来に希望をもてたとしつつ、
誰もが、個々人の思いを自由に発することが可能となり
家族や友人間の関係が分断されなくてもよい国が戻ってくるとも期待できたと述べ、
更に当時の「イタマラティーはまずはブラジル自身のために存在するのであり、国際社会の意図のみに従い、
それが思うがままに飲み込まれるために存在するのではない。」
という同氏の言葉にも感銘を受けた、と述べ、
「我々の国は、他国といがみあうつもりなどなく、個々の国の独立性と主権、さらに尊厳を互いに尊重しあうべきだ、ということを言っているのだ。」という言葉も胸に響いたと想起した。
また、知ること、真実、自由の3本柱が当時同氏により重要項目として挙げられたことを指摘し、
個人としても、社会、また国としてもそれらを常に追い求めることは必須だと締めくくった。
(以下リンクはノゲイラ弁護士による著書。「広範感染症流行による緊急事態下におけるブラジル バイア州都サルバドール市と人権。権力の濫用と違憲状態2022年出版)

https://www.amazon.com.br/direito-pandemia-município-Salvador-inconstitucionalidade-ebook/dp/B0BKLMSVWK

ルイス アメリコ教授はしめくくりの言葉として(ディベートのオープニングではブラジルが共和制に至るまでの過程を歴史を中心に披露)
学会ならびに諸大学において、総じてみられる反ユダヤ主義的な思想を基とする考え方、並びに歴史修正主義の増幅傾向に注意を促した。
ブラジルにおいて、1964年に始まった軍事政権下で、厳しく取り締まれられた同国共産主義者の一人でバイア州出身のカルロス マリゲラという急進左派活動家が手記「都市ゲリラのマニュアル」を残したことに触れ、私有財産の所持に反対する立場からも、同人物が暴力による社会の変革を訴えたことを指摘し、そのような人物を英雄視するかの如き映画が(国の助成金をも得て)昨今制作され、全国公開に至り、話題を呼んだことを挙げ、
それ自体も問題であるが、武装革命を喚起する手記の存在が、過去の学生とは対象的に、現在の学生の多くには知らされないことが更に問題を深刻化させるていると訴えた。
大学という教育課程で、特に、過去をかえりみるという意味での研究資料などの大切さを伝えることが日に日に欠如していっていると述べた。
急進武装反社会的革命家の英雄視を一例に、若者が学会に意図的に思想誘導されていると訴えている。
また、ブラジルのマルクス主義を核心とした教育「手法」「構築者」として左派間では名を馳せるパウロ フレイレと、同国バイア州の保守層の間ではブラジルの教育開拓者の模範とされるアニジオ テイシェイラの比較を題材とする研究課題を、ブラジルで過去に自らの生徒に課したところ、
生徒の思想誘導だと非難されたとアメリコ教授は想起。
その流れを汲む一例として、現在のブラジルの大学では、特に人文系では、知識よりも、思想を生徒に植え付けることとそのコントロールに重きがおかれ、歴史軽視/修正主義の傾向の被害を、既に同国民3世代ものが被っていることを指摘し、そういった現状を、グローバリゼーションの荒波に飲み込まれる教育現場の最大の危機としてとらえる大切さを問うている。###


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?