アウェー飯。
「アウェー飯」ってありませんか?
嫌いではないけど、
すっごく好きっていう訳でもなくて、
友だちがそれを食べたいと言えば喜んでお付き合いするけど、
自分からはそれを出す店を選ぶことはほとんどない。
そんな感じのごはんを「アウェー飯」と呼ぶことにします。
私にとってのアウェー飯は、
ラーメン。
新しいラーメン屋さんがオープンしても「行ってみよう」とは思わないし、
テレビや雑誌でラーメン特集をしていたら、他の面白い記事や番組はないか探してしまう。
お付き合いでラーメン屋に入ることはあっても、自分から「あー!ラーメン食べたーい!」とはならない。
お付き合いで行ったラーメン屋が行列だったりすると、空腹が短気を応援してしまい、少し「チッ」と思う。
味噌、醤油、塩、とんこつ・・・
いろんな味があるけれど、
ラーメンを食べるのは年に2回くらいしかないので、好きな味は特にない。
自分の中のサンプルが壊滅的に少ないため、
胸を張って
「この味がいいね!」
と言うほどの自信がないのだ。
***
先日、お昼に郵便局に手続きに行った帰り、何を食べようか考えていたら目にラーメン屋さんが飛び込んできた。
気分は味噌煮込みうどんだったのだけど、
私は自分が普段選ばない方の道を選んでみたくなることが時々ある性格のためか、そのラーメン屋さんに入ることにした。
店の外に行列がないことを確認し、いざ、店内へ。
「いらっしゃいませーー!!」
という店員さんの元気な声にビクッとする。
ほらね。
入り口の時点で既にアウェーでしょ?
心の中で「やれやれ」のポーズをとっていた。
「店内満席なんで!外でお待ちくださーい!」
ほらね。
私から外だよ。
外は寒いし風も強いよ。
しかし、ほかの店を探すのも時間が勿体無いし、
あと少しで空きそうだし、
なによりさっき顔を見られた。
「あいつ逃げやがった」
店員さんにそう思われたくなかった。
寒くて寒くてぴょんぴょん跳ねながら待ってたら私の後ろに列ができ始めていた。
自意識過剰かもしれないけど、
私が店に入ると客が増える現象が度々あって、
「店が混むのは我の力ぞ!」
みたいに勝手に思ってはドヤった顔をしてしまう。
ドヤっているうちに店内へ呼ばれた。
ほうほう。
券売機で食券を買うのね・・・。
なんやボタンがいっぱいあるね。
お腹ふくれないと悲しいから「全部のせ」っていうのにしようっと。
げげっ。
千円超えた。
高級食なんだな。ラーメンって。
知らなかった。
券売機でノロノロしていると、店員さんが
「ただ今ライスのサービスしておりますがいかがいたしますかー!?」
と元気に聞いてくる。
「女なのによく食べる」って思われないか不安だったけど、なによりも「よく知らない店でお腹が膨れない」
という状況を極端に恐れるあまり、
「はぁ。では、ほんのりください。」
と、店員さんを混乱させるような返事をしたあと、
導かれるままにカウンター席に着席した。
後から男の人が2人、私の両脇にやってきた。
(おいーー!店員ーー!なんで私の両脇にこんなラーメン玄人みたいな人を配置すんねん!)
居心地の悪さにキョロキョロしてやたら水を飲んでしまう。
両脇の玄人たちは、いかにもキャリアウーマンな服装の女が一人でラーメンを食べに来ていることが珍しかったのか、こちらをチラチラ見てくる。
居心地の悪さに私はそばにあった箱ティッシュからティッシュを1枚取り出し、
まだ食べる前だと言うのに、それで口を拭き、
拭き終わったら手持ち無沙汰だったので、そのティッシュでこよりをこさえていた。
両脇の玄人が「なんやこいつ」っていう目でさらに見てくる。
「ほんと、なんやろね、私。」
自分でも「なんやこいつ」って思える行動をしている自分が悲しい。
その時、大盛りのラーメンが私に近づいて来た。
「お・・・大きい。」
私が思っていたよりも「全部のせ」は大きかった。
まだ遠くにいるのにシルエットが既に大盛。
「お待たせしましたー!全部のせでーす!」
店員さんの声に両脇の玄人が私のラーメンを見る。
やめて・・・
もう、やめて・・・
まるですっぴんを見られるように恥ずかしい。
恥ずかしいけど、この全部のせ、めっちゃフォトジェニックやん。
写真撮りたいやん。
でも両脇玄人やん。
「貴様はラーメンを舐めている」
そうど突かれやしないか。
怖い。
怖い。
やめとこ。がまん。がまん。
私は心のインスタにこの「全部のせ」を記録するんだもんねー。
と強がりながら泣く泣く諦めた。
さてと。
あとは食べるだけ。
こちとら31年間ものを食べ続けてきたんじゃい。
あとはこっちのもの。
目の前のラーメンは大盛りたけど、マクドナルド2周したこともある私の胃袋の実力はこんなもんじゃないのだぜ!
それに、「どんぶり」とか「ラーメン」は食べることにのみ集中して我を忘れることができる食べ物だって誰かが言ってた。
そう自分に言い聞かせて、私はラーメンをすすり始めた。
「美味しい・・・」
こってりとした自己主張の強い味が緊張で忘れかけていた空腹を呼び覚ます。
美味しい。
美味しい。
美味しい。
喜んで食べ進めていたら、ふと冷静になった。
「私、この食べ方で合ってる?」
汁の飛び散りと口の中がいっぱいになるのを恐れるあまり、私は麺を2本ずつ、時々もやしを3本。
そんな感じで食べていた。
両脇からは「ズズズーーーッ!」といい音がするけど、私のは無音だ。
「あかん。舐められる。」
そう思って「ズズズーーーッ!」てやったら麺の量が多すぎて口の中が大混雑で息も出来ないし大変なことになった。
それにブラウスにシミがついた。
ショック。
素人は素人らしく少しずつ食べることにした。
少しずつ食べていると、麺が伸びてきた。
食べても食べても減らなくて、「無限ラーメン」みたいになった。
私には「無限ラーメン」の他に「ほんのりライス」もある。
これは絶対に負けられない戦いだ。
そう思って無心に食べたらやっとなくなった。
正直、味は途中からよく分からなかった。
やっぱりラーメンはアウェー飯だ。
アウェー飯には師匠が必要だ。
その飯に精通した師匠が。
「ラーメン食べに行こう」
そう誘われたら
「ついていきます!師匠!」
と答えたいと思う。
追伸。
左隣の玄人が、ラーメン食べる前に写真撮ってた。
なんだ。撮ってもいいんじゃん。と少し気楽になった。