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シェイクスピアを音で読む(2)

『マクベス』、『リア王』を音読した感想です。
すべて松岡和子さんの翻訳で読んでいます。ちくま文庫です。

シェイクスピアを音読している経緯はこちら


マクベス

シェイクスピア全集3 マクベス(シェイクスピア 著 , 松岡 和子 翻訳)

魔女の言葉に振り回されたマクベスが、坂道を転がり落ちていくように身を滅ぼす。良心の呵責に苦しみながらも罪を隠すためにさらに罪を重ね、「もう戻れない」という諦めと覚悟によって心が麻痺していく姿が痛々しかったです。自分もマクベスになりうるという恐怖、それ故にどこかに救いがあってほしいと思いました。

”血の川にここまで踏み込んだからには、たとえ渡りきれなくても戻るのもおっくうだ、先へ行くしかない。” (p.104)


マクベスは自身の破滅の予言に恐怖します。不安因子を排除してもまた新たな不安因子が現れて、どんどん予言の言葉に囚われていきます。しかし、マクベス夫人が亡くなり、バーナムの森が動き「破滅のときがきた」という現実に向き合う覚悟を決めて、ようやく予言の恐怖から解放される。最後のマクベスはかっこいいと思う。

あと、マクベスとマクベス夫人の対比が興味深かったです。マクベスは最初のダンカン王暗殺のときに一番良心の呵責に苦しんで、しだいに心が麻痺していくのだけど(恐怖に支配されて)、マクベス夫人は全く逆で、ダンカン王暗殺はノリノリでやっていたのに、終盤になって罪悪感に耐えきれず、夢遊病を患い衰弱していきます。本来であれば1人の人間の中にある精神世界を、2人に分割するとマクベスとマクベス夫人になるのかな。


マクダフに家族惨殺の知らせが伝えられる場面で、また声が詰まってボロボロ泣いてしまいました。残された側の悲しみに弱いのかもしれないです。

”あなたの耳でこの舌を怨んでくれるな。これまで聞いたことがないほどの辛いことを知らせなくてはならないのだ。” (p.147)


リア王

シェイクスピア全集5 リア王(シェイクスピア 著 , 松岡 和子 翻訳)

心が苦しくて苦しくて、読み終わってからしばらく何も手につかなかったです。『ハムレット』、『マクベス』の比ではないほどつらかった。最初から最後まで残酷。

リアと3人の娘たち、グロスターと2人の息子たちの話はどちらも同じような対立構造(世代交代に伴う新旧価値観の対立)なのだけど、新体制側(ゴネリル、リーガン、エドマンドたち)が最後まで各々の私利私欲を優先して自滅していく姿は、現代社会においても通づる部分が多い気がします(旧体制側も自覚的に協調しているわけではないですが)。


それにしても、嵐の夜に外に追い出したり両眼を潰したり、そこまでしなくてもいいじゃないか。自分にとって邪魔な存在はどうなったって(死んだって)構わないし、何なら「自業自得」で責任すら相手に押し付ける態度。信じられない。どうしたらそんなことができるんだ。

正気を失っていくリアや生きる気力を失っていくグロスターのセリフも読んでいてつらかったです。でも、ゴネリルたちのセリフを読むほうが苦しかった。どうか、私の中に彼らが棲みつくことがないように。


全体的に残酷で真っ暗なのだけど、後半にわずかながら差し込まれる光の威力が半端ないです。グロスターと再会したときのリアのセリフは特に震えました。

”俺の不幸を泣いてくれるなら、この目をやろう。お前のことはよく知っている。お前の名はグロスター。” (p.198)


ときおり差し込む光はあるものの、やはり悲劇。最後、リアがコーディリアを抱きかかえて登場する場面は、悲しすぎて打ちひしがれました。

”咆えろ、咆えろ、咆えろ!おお!貴様らは石か、貴様らの舌が、目が、俺のものなら、天の大伽藍がひび割れるまで泣き叫んでやる。” (p.242)


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『リア王』のダメージが大きすぎて、立ち直るのに丸々3日以上かかりました。感想を書きながら苦しさがぶり返してきたので、もう少し休憩して、次は喜劇を読もうと思います。

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