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降幡 愛 1st Live Tour APOLLOがめちゃめちゃ良かった話など

この記事は4回脱線します。

2021年4月18日(日)、KT Zepp Yokohamaにて「降幡 愛 1st Live Tour APOLLO」横浜公演を見ました。

1stと冠された企画ですが、ソロアーティスト降幡 愛さんのライブイベントが行われるのはこれが3度目。「Ai Furihata Special Live "Trip to ORIGIN"」「Ai Furihata Special Live "Trip to BIRTH"」を経ての今回であり、つまり1stはLiveではなくTourに掛かっています。大切なことなので覚えておいてください。

私個人は「Trip to ORIGIN」では現地参加、「Trip to BIRTH」は配信映像を視聴という経緯を辿りました。なので今回で2度目の観覧。
正直に書きますが、ライブが始まるまで不安を抱えていたというか、心のハードルを下げて臨んだ節がありました。クオリティへの不信は決してなかったのですが、それでも、あまりに良かった過去の公演を超えられないのではないか、という予防線です。

とにかく凝りに凝ったスペシャルライブからの今回、それもBillboardLiveという力の強い空間から、Zeppという(もちろん立派な施設ですが、比較すれば)イベント然とした会場に移るとなると、以前ほど衝撃的な物は見られないのではないか。そのような感情です。見終わった今はどうか。できる限り公正な感想は、杞憂だった、半分は、です。
「降幡 愛 1st Live Tour APOLLO」は「Ai Furihata Special Live」とはまるで別物でした。だからこそ、本当に良かったという話です。

オープニングナンバーは「AXIOM」。ライブに先駆けて先行配信、当日現地では7インチレコード盤を販売、まさしく宇宙旅行が始まるような笑ってしまうほど"らしい"イントロと、全てがAPOLLOと噛み合った楽曲です。大方の期待通りだったと思いますし、これを見に来たんだ!と、本当はこの時点でもう全てが良くなっていました。なのでここから下は全部後付けです。

APOLLOは寸劇やコントの入らない純粋なライブでしたが、一方で「月世界に辿り着いた人類が宇宙人と出会う」という背景も設定されていました(パンフレット等参照)。SFです。
「AXIOM」のイントロが流れ、幕が上がり、舞台に現れるのはMV同様に宇宙人と化した降幡さん。つまり「地球人=観客が、月世界=ライブ会場で、宇宙人=降幡さんと接近遭遇する」という構図です。天井を見上げればミラーボールが二つ、客席側と舞台側にあり、まさに地球と月。念入りの趣向。
AXIOM自体はこのときすでに配信されていましたが、上に貼ったMVが公開されたのはこの日のライブ終演直後でした。つまりあの可愛らしい振り付けを現地で初めて目撃したわけで、こればかりは初日の特権です。
降幡さん、良い歌を良い姿で歌う人なんですよね。「CITY」「パープルアイシャドウ」「真冬のシアーマインド」と振り付けは毎回ながらとてもキャッチーで、映像化されていない物だと「Yの悲劇」「桃源郷白書」も非常に印象的です。手が良いんですよ、手が。指が。アイドル役を演じ続けてきたからこその鍛錬と研究を感じます。
世情に倣っての前後左右が空いた座席、しかも最後列(狙ったわけではなく参加を迷ったことによる恥じるべき結果です)だったこともあり、常時着席ながらまあまあ体を動かしてしまいました。快適で助かります。手拍子と拍手で肩から先が無くなりました。

開演18:00、終演20:00。2時間で……16曲! 現地経験に乏しいので多いのか少ないのかはよく分からないのですが、とにかくずっと歌いまくり踊りまくり、全速力で走りきったという印象です。すごい。まず体力がすごい。しかも全曲持ち歌。2020年6月のソロデビューから駆け抜けた勢いをそのままぶつけられたようで、思い返しても興奮します(スペシャルライブでは80年代楽曲のカバーも披露されました。あれも良かった……)。それも全曲本人作詞。降幡 愛さん、本当にすごい。クラップというより拍手喝采を送りたい。送りました。

1stであるということ

先にも書いたとおり、私は今回のライブに対して、スペシャルライブの衝撃を超えられないのではないか、という予防線を引いていました。誰と話したわけでもないですが、同じように考えていた観客は他にもいたのではないかと思います。
衝撃的な第一作、正当に進化した第二作、では三作目はどうか。「うーん、俺は今回も好きだけど、まあ受けないのも分かるかな。監督のやりたい感じは見えるけどちょっとブレたって言うか……。あのパート本当に必要だったかって? それは確かに……」みたいにならないか。

「Ai Furihata Special Live "Trip to BIRTH"」よりうしろ髪引かれて

ありふれた悲劇は降幡さんとチームの鮮やかな手並みで回避されました。会場が変わるのだから、コンセプトも変える。ドレスコードを設定し、そのままMVに使えるような配信映像まで作り上げたスペシャルライブから、収容人数三倍以上(予想ですが200→600)の会場に合わせてよりオープンでポップな月旅行に。

舞台によって大きく変貌するライブ(コンセプトに合わせて舞台を選んだのかも知れませんが)には、降幡さん本人との親和性を感じます。一つにはもちろん降幡さんが作品ごとに役柄の変わる声優であること。もう一つが、ラジオ等にゲスト出演されると相手のペースに合わせて話し方が明らかに変わる人柄です。ゲスト稼働めちゃめちゃ向いていると思うのでバンバン出て欲しいんですよね。"YOKOHAMA RADIO APARTMENT「ドア開けてます!」(FM YOKOHAMA)"でのちょっとお姉さんな語り口と、"鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト(超A&G+)"でのヘポタイヤ熱唱、マジで別人だったので……。脱線をやめます。

チームには演出を変えるための手札もありました。キーボードのnishi-kenさんです。

nishi-kenさんはこれまでのライブにも参加されていて、今回のツアーではバンマスを務められています。ご自身の活動として楽曲を発表されているミュージシャンでもあり、一聴してお分かりのとおりAPOLLOというライブには最適の人材。当然、成り行きでの起用ではないはずです。いや別に成り行きでも良いんですが。ライブのスケジュールとか何も分からないので。

そもそも過去2回のライブは「Special Live」であり、ナンバリングは付いていませんでした。ソロアーティストとしての活動である以上、あっても何らおかしくないのに外してきた訳です。Aqoursとして多くのライブに出演してきたことへの義理立てなのかな、とも思っていましたが、しかし今回は堂々と「1st Live Tour」の看板がぶち上げられています。「Special Live Tour」ではなく。そしてツアータイトルがAPOLLO。

APOLLOというツアータイトル

"私の在り方として、支えてくれるファンのみなさんからの光を受けて輝く、月みたいな存在だなと思っていて、それでデビューミニアルバムに『Moonrise』というタイトルを付けたんです。そんな私の象徴である月に、皆さんをお連れしようじゃないかということで、アポロ11号から名前を借りて【降幡 愛 1st Live Tour APOLLO】と付けました。" (リンク先より引用)

とあり、またライブMCでも度々言及されているとおり、「月」は降幡さんのアーティスト活動におけるシンボルの一つです。「CITY」という強烈な楽曲を擁しながらデビューミニアルバムに『Moonrise』と名付けるあたり徹底していますし、また声優としての代表作である「ラブライブ!サンシャイン!!」を必然的に想起する意味でも非常に素敵です。
この点、同メンバーである高槻かなこさんが「I wanna be a STAR」を自作詞作曲で発表したり斉藤朱夏さんがアルバムに『SUNFLOWER』と題するあたりも合わせてスタンスの違いがクソエモなんですが、特にこれ以上書くこともないので脱線はやめます。『Moonrise』に関しては降幡さんが愛聴を表明されている韓国の音楽プロデューサー兼DJ、Night Tempoにそのままズバリ『Moonrise』というアルバムもあり、意識されているとは思うのですが(何しろ岡村靖幸楽曲と同名の「OUT OF BLUE」をアルバムに入れてライブでも披露する人なので)、テーマはともかく聴き心地が大分違うので、この辺りはプロデューサー本間昭光さんの舵取りかなと思います。脱線はやめます。

当初からシンボルに掲げている「月」への旅行をライブのテーマに据えたこと、満を持してバンマスに据えられたnishi-kenさんの存在、そのツアーにこそ1stを冠したこと。ここに論理の帰結が見えます。
第一話のタイトルが「Moonrise」のアニメで「APOLLO」のタイトルが来たら、それは絶対に重要な回じゃないですか。山場。もしかしたらクールの最終回かも知れない。言うなれば伏線回収。

極端なことを言いますが、今回のライブのためにこれまでの全てが計画されていたと捉えても良いと思います。二度のスペシャルライブは重力圏を出るために必要な多段式ロケットで、だからカバー楽曲というドデカい燃料が使われた。ツアーという軌道に乗った今回はその必要がなくなった。
これは決してカバー楽曲の否定ではなく、演出として使わない選択をしたのではないかという話です。何しろカバー楽曲もめちゃめちゃに良かったので。機会があればまた歌って欲しいですね。淋しい熱帯魚、聴きたかった……。

2ndどうなる

大げさな書き方をしましたが、APOLLOがデビューミニアルバム『Moonrise』からの集大成的なライブツアーであることは主張できたかと思います。そうなると気になるのは、気の早い話ですが、次はどうなるんだろうというところ。もう一度スペシャルライブが入るのか、2ndの何かが始まるのか。そもそも動けるのか。
Trip to ORIGIN、Trip to BIRTH、APOLLOと続いた旅はこれからどこに向かうのか。ヒントになりそうなのはライブで披露された新曲でしょうか。布施明でしたね。
帰結の美しさで言うと、ライブグッズが青基調→ピンク基調→紫基調と転じたことも見逃しがたいです。所属レーベル「Purple One Star」に通じる色を使った今、次がどう来るかはとても予想できない。

ここで最後の脱線を切ります。今回のライブは開場17:00と個人的にかなり時間の余裕があったので、私は映画を見て時間を潰していました。横浜シネマリンにて『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』を。

『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』

あらすじ:土星から降臨した太陽神であり、宇宙音楽王であり、大宇宙議会・銀河間領域の大使サン・ラーは音楽を燃料に大宇宙を旅するなか、地球と異なる理想の惑星を発見した。ただちに地球に帰還、ジャズのソウル・パワーによる同位体瞬間移動で黒人移送計画を立てるが、その技術を盗もうとアメリカ航空宇宙局の魔の手が迫る。(公式ページより引用)


見出し画像の人がサン・ラー。実在したミュージシャンであり、詩人、思想家。土星に連れ去られていたらしいです。
映画は1974年に公開された物で、今回のライブとはマジで何の関係もありません。僕自身何の予備知識も無く、ただポスターが格好良かったので見ました。これは映画鑑賞において一番楽しい遊び方と言われています。内容はまあ……意外なほど勧善懲悪に筋の通った展開はともかく、実験音楽ってどう楽しめば良いんでしょうか。

ライブと映画は本当に無関係なのですが、あらすじから分かる通り、音楽・宇宙・地球からの脱出など重なる要素は多くあります。これに関しては偶然でもこじ付けでもなく、音楽と宇宙をシンセサイザーで接続する手法の源流に近い位置で活躍した一人がサン・ラーだったという話で、つまり遠い祖先と言っても良いくらいです。きらびやかな衣装にも通じる物がありますね。アポロ計画への言及も劇中にありました(アポロ11号が初めての有人月面着陸に成功したのは1969年)。
どう考えても本当に何の関係もないんですが、直前に見た映画がこうだったというのも、AXIOMかも知れませんね。MVやライブのリアルなオマージュ元としては『スペースチャンネル5』とか『キャプテンEO』あたりでどうでしょうか。

脱線を続けます。『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』において、土星から降臨した太陽神であり、宇宙音楽王であり、大宇宙議会・銀河間領域の大使サン・ラーは社会で排斥される黒人を「もう一つの運命」へと移送するために(というより移送に値する人間を選別するように)音楽を奏でます。宇宙人/異邦人とブラックカルチャーの親和性というものは客観的に想像しやすく、つまり安直で扱うには怖いんですが、コミュニティ当事者から言及されることもあるようなので、支流の一つ程度には認識して良いとしましょう(参考:HipHopとオタクをめぐる覚え書き-其の1:黒人文化とアニメ編-)。この映画はまさにそれということになります。慎重に書くのはブラックカルチャー以外で宇宙人が出現することも当然あるからです。こりん星とか、名曲「オンナのコ オトコのコ」とか。

「私は本物ではない。私はあなたと同じだ。あなたはこの社会には存在しない。もし存在するなら、あなたたちは平等な権利を求めていない。あなたは本物ではない。もしそうなら、あなたは世界の国々の間で何らかの地位を持っているだろう。よって私たちは共に神話である。私は現実としてあなたのところに来るのではない。私は神話としてあなたのところに来る、なぜならそれが黒人であるからだ。神話。私は黒人がずっと前に夢見ていた夢から来た。私は実際にはあなたの先祖から送られた存在だ」 (サン・ラーの台詞、同公式ページより引用)

映画はぶっ飛んでいましたがサン・ラーの思想は力強く確かです。劇中でサン・ラーが出した結論は、黒人白人問わず善良で勇気ある人間のみを移送することでした。大切なのはあくまで精神性であると。そしてサン・ラーの船は去り、地球は大勢の人類を残したまま爆発。エンドロール。「地球人よ、さらば」。私はいま1974年に公開された映画のネタバレをしました。ごめんね。

当然、APOLLOは背景も結論も違います。ライブの最終盤、手拍子だけのアンコールに応えた降幡さんは宇宙人からパンクロックな衣装に着替えて、地球人として舞台に戻りました。行き届いたサービス精神です。あととてもカワイイ。月旅行はおしまい。観客を乗せたAPOLLOは帰還に無事成功、地球も爆発しなかった。しかし二つの宇宙観は同じミームの系譜上にある。旅が続くのであれば、次はどこに向かうのだろうか。

地球に帰してもらえたからこそ、こうして感想を残し、次の旅を想像することが出来るわけです。月旅行に行って良かった、帰れて良かった。しかしまた次は何も分かりません。ドキドキしてきた。地球人、一緒にドキドキしませんか。


ラジオもあるよ。

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