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春ギターのなる木

草原の中で一際目立つ大きな木から、1人の青年がふわりと飛び降りた。
手にはギターを持っていた。

彼は、座り心地のいい石を見つけて腰を下ろし、持っていたギターの一番下の弦を
ポロン
と鳴らした。

すると、梅の花があちこちで咲き出した。

彼が2番目の弦を
ポロン
と鳴らすと、
桃の花が咲いた。

彼のギターは春を呼ぶ春ギター
彼が弦を鳴らす毎に
たんぽぽが
チューリップが
桜が咲き、
最後につくしが顔を出した。

それから青年は、美しい音楽を奏で始めた。

その音楽は草原に静かに響き、
草木も生き物たちも、
その静かな音楽に、耳を傾けた。

しかしその音楽は雨雲を呼び、雨を降らせた。

桜が散っちゃうじゃない

でもその音楽と雨は、若葉たちを目覚めさせ、成長させた。

若葉たちが太陽の陽を欲する頃、彼は手を止め、ギターを置いた。
すると、たちまちギターから芽が出て大きな木になった。

彼は風になったように、ふわりと消えた。

来年この木に春ギターがなる頃、又ふわりと現れる事だろう。

本文ここまで 410文字

これはたらはかにさんの
♯毎週ショートショートnote
の企画に参加したものです。
お題は「春ギター」でした。

ところで、このお話、
毎年冬終わりに近づくと、春を呼ぶ春ギターが木になる、という不思議なお話なのですが、
この木を
ギターがなる木
とするか
ギターのなる木
とするのか、とても迷いました。ニュアンス的に、
ギター「が」なる木
というと、ギターがメインで、
ギター「の」なる木
というと、木がメインの気がしますが、
これは単に私の感じたことで、実際はどう違うのか、わかりませんでした。

わかる方がいたら、この違いをどうか教えてください。

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