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花吹雪が舞う中で【シロクマ文芸部】


花吹雪、どうしても撮れないなあ…

彼女は、散り出した桜の中で、
風が吹くたびにスマホで写真を撮っているが、桜吹雪は一向に写真に映らない。

こんなにたくさん、花びらが舞っているのに、
どうして映らないのかしら?

桜の木をバックにしないで、青空をバックにしたら映るかしら?

やっぱり映らない。

動画にしたら、撮れるんだけどね。

彼女は、動画を見返しながら、ハッとしてその映像をじっと見つめた。

気のせい?

ピンク色の羽根をつけた妖精が、桜の花たちと一緒に、空を舞っている。

もう一度、動画を見返すと、同じ動画なのに今度は、妖精が
ハッとした顔でこちらを見て、ふっと消えた。

その後、何度見返しても妖精の姿を見ることはできなかった。

気のせいではない。
確かに、妖精は写っていた。

彼女は、先ほどその映像を撮影した辺りで、妖精の姿を探した。

ふっと手のひらに、桜の花びらが舞い落ちた。

しかしよく見ると、それはさっきの妖精だった。

私のことは内緒にしてね。

妖精は、私を見上げて、イタズラっぽい顔をして言った。

桜吹雪が舞っている間は、花びらに紛れていれば見つかりにくくて自由に飛べるから、つい油断して、映っちゃったわ。

でも、消えちゃったじゃない。
彼女がいうと

動画なら消せるから、よかったわ。
一瞬を切り取る写真に映ったら消えないもの。

桜吹雪と一緒に舞っていたら、写真には映らないでしょう。

妖精は、うふふ と笑った。

私は、桜吹雪を撮りたいのよ。
彼女が言うと

だめよ、
桜吹雪は撮るものじゃない。
見るものよ。

本当に美しいものは、その目で見なくっちゃ。
そして、その記憶の中で、ずっと美しいまま残っていくのよ。

彼女は、スマホをポケットにしまい、美しい桜吹雪の空を眺めた。
きっと、この美しい桜吹雪と、美しい妖精は、ずっと美しいまま私の記憶に残っていくのだろうと思った。

桜が散ってしまったら、あなたはどうするの?
彼女が聞くと、妖精は、

風に乗って、桜を見ながらそろそろ故郷に戻ろうかしら。
ここからずっと東北の方に、銀山湖っていう美しい湖があるの。
そこが私の故郷。

そこの湖には昔大蛇が住んでいたんだけど、女の人に化けて人を襲っていたから、退治されちゃったのね。
その時に、大蛇の鱗が剥がれて空に飛び散って、それが私たち妖精になったの。

こんなに美しくて可愛いのに、大蛇の鱗だったの?

私たちの姿は、見る人の心に映る姿で見えるのよ。
あなたは、私を美しくて可愛い姿に見てくれたのね、嬉しいわ。

明日は雨になるみたい。
この風が吹いているうちに風に乗って行かなくちゃ。

妖精は、そう言って私の手の上から離れ、顔の前に浮かんだ。

私に会いたかったら、銀山町に来てね。
銀山町のことを知りたかったら、この本が教えてくれるわ。

この本?

妖精の姿がふっと消えた時、私のスマホには、こんな物語が入っていた。

皆様も、銀山町の妖精に会いに行きませんか?

シロクマ文芸部

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