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大きい秋ちゃんと小さい僕(アオハル編)

田中くーん!
誰かに呼ばれた気がして、辺りをキョロキョロしてけど、わからない。
気のせいかな?

すると今度は、
よっちゃん!
と呼ばれて、僕はびっくりして後ろを振り返った。

すると秋ちゃんが、後ろから走ってくるのが見えた。

驚いて立ち止まると、追いついた秋ちゃんが、ハアハアしながら、
田中くん、歩くの早いな…全然追いつけないんだもん。
それにしても、田中くんって呼んでも気がつかないのに、よっちゃんって呼んだら気づくんだね。

秋ちゃんは、そう言って笑った

幼い頃毎日一緒に遊んでいた秋ちゃん。
体が大きくて、おてんばで、好奇心の塊だった秋ちゃん。
そんな秋ちゃんと一緒に遊ばなくなって数年が経ち、僕たちは中学生になった。
中学2年になって、僕は秋ちゃんと一緒のクラスになったけど、僕たちはもう会っても、以前のように
秋ちゃん、よっちゃん
と呼ばなくなっていた。
僕は秋ちゃんを、「佐藤さん」と呼び、秋ちゃんは僕を「田中君」と呼んだ。

そして気がつくと、僕はあんなに大きかった秋ちゃんの背を越していた。

そんな頃、部活の後いつものように歩いて帰っていだ時の、突然の出来事だった。

どうしたの?

この前、そこのガード下に、口裂け女が出たんだって。
秋ちゃんが、声をひそめて言った。

嘘だろう?

と僕が言うと、

友達のさきちゃんのお姉ちゃんの友達の知り合いが見たんだって。
マスクした髪の長い女の人で、
私綺麗?
って聞かれたから、怖くて走って逃げたら、大通りの手前まで50mくらい追いかけられたらしいよ。
すごく足が速いんだって。
ガード下通るの怖いから、一緒に帰ってくれない?

いいけど…

昔の秋ちゃんなら。口裂け女見に行こう!
なんて言うじゃないか?
なんて思いながらも、久しぶりの会話に、ちょっと嬉しさを感じながら、僕は秋ちゃんと並んで歩いた。

2人がガード下の近くまで来ると、ガード下に、1人の髪の長い女の人が立っていた。
反対方向を見ているので、顔はわからない。
それでも、2人は顔を見合わせてから、声を上げずに一目散に元の道を走って逃げた。

女の人の姿が見えないところまで走ってきて、ようやく2人は走るのをやめた。
上がった息を整えながら
あれ、口裂け女だったと思う?
わからない。
でも、そうかもしれない。
ただの女の人かもよ。
あんなところに1人でいるの、怪しいよ。
などとドキドキしながら、言い合った。

秋ちゃんが、怖がりながらも、ちょっと嬉しそうな様子を見て、やっぱり秋ちゃんは変わらないなあ、と思った。

2人の家は、そのガード下を通らなければ、結構遠回りになる。
2人は遠回りの道を帰りながら、久しぶりに色々な話をした。

ねえ、明日も一緒に帰らない?
いいよ。
どっちの道を通って?
とりあえずガード下見て、また口裂け女がいたら遠回りしよう。

こうして2人は、大通りから少し入ったところで、どちらかが待っていて、一緒に帰るようになった。
その後髪の長い女の人を見かけたことはなかったけれど、その後もずっと続いた。

いつしか2人の時は、また秋ちゃん、よっちゃんに戻っていた。

小さい頃の思い出話や、学校での話など、話は尽きず、離れていた年月はあっという間に埋まった。

よっちゃん、大きくなったなあ…
それに、なんだか逞しくなったな。

あんなにわんぱくだったのに、口裂け女怖いとか言う秋ちゃん、なんだか可愛いな。


ある時並んで歩いてると、手が触れた。
その手は自然と繋がれた。

大きいと思ってた秋ちゃんの手は、思ったより小さかった。

よっちゃんと手を繋ぐの、何年ぶりだろう。
昔はよく繋いだよね、
と秋ちゃんが言った。

又こうして手を繋ぐ日が来るなんて、思わなかったな。
僕がそう言って秋ちゃんを見ると、秋ちゃんはちょっと恥ずかしそうに下を向いていた。

この手をもう離したくないな、
僕はそう思いながら、ふざけて繋いだ手を大きく振って歩いた。

秋ちゃんは、
もうっ!手が抜けるわっ
と言いながら、昔のように元気に笑った。

終わり

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