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サブカル大蔵経461嵐山光三郎『口笛の歌が聞こえる』(新風舎文庫)

これは書くべくして書かれた作品だと思いました。まとめきれないくらいのネタがあふれた、驚きの出版史、文学史、サブカルチャーの歴史証言。

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続々と登場するキャラクター。

出版、編集、作家、いいとも増刊号。

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渋谷にはタンメンの風が吹いていたし、内臓むき出しの池袋には、ぬるりとしたレバ刺しの風が吹いていたし、高田馬場には、定食屋の鯨カツの風が吹いていた。p.13

 風から始まる。池袋はコルカタか?

秋男は寺山嫌いだった。秋男は吉本隆明ファンで、実存方面も知っているふりしていっぱしの知識人を気取っていたから、寺山嫌いを演じることによって自分の立場を見せたいと言うタイプだった。p.128

 吉本隆明、寺山修司、の影響。

しかしでーすねー。うちーのー、畳からーたけのこーがはえていましーてねーこーゆーのは、サンスクリット語ではー、あー、うー、なんてーかつーとおー、うー。やけにゆっくりとしゃべる片腕に着流しの坊主頭の男がいて、あの人は松山俊太郎。インド哲学の大家にして空手の達人だと、土方が解説してくれた。p.153/深沢七郎。悩みが増えるのはとーてもいいこと。なぜなら、悩みは贅沢品と同じですからーね。p.359

松山俊太郎と深沢七郎は、どうして邂逅しなかったのだろうか。

澁澤龍彦の口からはワーグナーが… (聞き取り不能)闇夜ババリアの狂王(低音)世界の珍動物(意味不明)毒薬(中断)バビロンの架空庭園の宴は…パイプの煙…暗黒裁判だ。と何やら中世世界の断片が聞こえるだけ。p.153/1967年八月、紅天幕赤テントが花園神社に出現。澁澤組は闇の沼族一味といった感じだ。後方には寺山修司が子分を引き連れ親方然として座っていた。p.323

澁澤龍彦と寺山修司も、どうして邂逅しなかったのだろうか。

澁澤龍彦の声が、無礼者!と響いた。かすれる、押し殺した声だった。座ったまま、赤ワインを男の顔にぶちまけた。その男は三島由紀夫だった。小男なので意外な気がした。p.157

 澁澤と三島の運命の邂逅。まさか、嵐山光三郎が目撃していたとは。いいとも増刊号と結びつかない…。しかしもともと「いいとも」は、雑誌的イメージの番組だったのか。

平凡社は四谷麹町にあって木造3階建てだった。平凡社は無頼の館だ。奇人変人旗本学者詩人ダダイスト入り乱れて書物の砦に隠棲する。p.191/ぼさぼさの頭をかきむしりながら桜の花をにらみつけていた。かなりの男だが肩のあたりの力がなかった。あいつは谷川健一といってな。月刊太陽の初代編集長だ。1年で編集長クビになった。p.194

 平凡社伝説。荒俣宏に続く。

西巻興三郎。喧嘩するなら誌上でやらなきゃダメだ。お前がいま一番興味を持っているのはどんな奴だ。土方巽・唐十郎・和田勉・渡辺貞夫・巨人の長嶋選手・森進一・高倉健・横尾忠則・青島幸男・女子プロレスの小畑選手・それから三島由紀夫。よしじゃぁお前がこれから1年間今挙げた人間全部を取材しろ。グラビア8ページの連載で行け。いいから言うことを聞け。自分が1番興味を持っているものを信用しろ。自分の興味を軽く見てはダメだ。自分を信用しなくちゃ何事もできない。リングに上がりたいんだろ。お前が1番好きな作家は誰だ。檀一雄です。よし決まった筆者は檀一雄とする。p.273

 先日読んだ『プレイボーイのプロレス』を彷彿とさせる。雑誌と編集者の物語は想像を絶する。

檀一雄の取材はいつも5分間だった。青島さん今日これから飲んだくれましょうか。そうしましょうか。よし、有楽町の有薫酒場へ直行だ。p.411

 メモせず、相手に入り込む。

和製ヒッピーとも言うべきフーテン族は見る間に新宿を占領していた。新宿駅東口の通称馬の水飲み場をフーテン族はグリーンハウスと呼んだ。グリーンハウスがフーテン族の聖地だった。ここでハイミナールを飲み1日中ぶらぶらと過ごす。金が入れば近くの風月堂行ってコーヒーを飲む。p.312

 中上健次とはすれ違いか。

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