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キャラクタ紹介:メルガール(Julio Francisco Amado Melgar)

・概略

 メルガールは、非神子へ転生した帝国人です。
 物語開始時点では機械化異端審問官(ラ・インキシドーラ・メカニサダ)の少佐(コマンダンテ)で、転生前からエル・イーホの父である拷問人のエル・ディアブロと相方のような関係でした。ところが、なんらかの事情で致命傷を負い、たまたまエル・ディアブロが保有していた非神子の素体へ転生したのです。そして、治安憲兵(グアルディア シビル)と異端審問の合同捜査本部が立ち上がったことにともない、メルガールは私服捜査部(ウニダード ベスティードス・デ・パイサノ)の一員として機械化異端審問官の階級を与えられました。
 最初に書きましたが、メルガールは非神子へ転生しています。そして、非神子たちはすべて同じ外見をしていますが、メルガールも華奢な少女の姿です。
 また、非神子は不老難死にして食事や睡眠、排泄も不要なうえ、奇跡術者(ミラへレーロ)としての能力も常人をはるかに超えています。もちろん、転生前のメルガールも素晴らしい奇跡術能力を誇っていましたが、転生後は文字通り神がかり的な能力を発揮するようになりました。しかし、異端審問官としては二流もいいところで、特に事務仕事がからっきしだめなうえ、人付き合いもまともにできないので、エル・ディアブロの秘書であるメルセデスや、執事のエリオガァバロ(本名イツマトゥル・ペレス・ゴメス:Itzamatul perez gomez)が尻拭いしたことも一度や二度ではありません。
 審問官としてのメルガールは、あらかじめ用意された結論に固執して異論を一切認めない、自らのメンツにこだわりすぎる、他人を見下す一方で権威者には媚びへつらうといった傾向があり、多少の奇跡術能力では覆い難い欠点をいくつも備えていました。ただ、先に述べたような傾向は多くの帝国人が共有する特徴で、特に黄印の兄弟団においては「そうでない人間のほうが圧倒的に少ない」ため、異端審問院の中ではそれらの欠点も問題にはならなかったのです。とはいえ、あのエル・ディアブロでさえメルガールは異端審問官に不向きと感じていたようで、帝国へ転生してから間もない頃に異端審問院のトップであるヒメネス枢機卿へ直に苦情を述べたことがあります。
 ところが、枢機卿は「帝国人はみなあのようなものであり、代わりはいない」と述べただけでした。
 興味深いことに、枢機卿の言葉は単にメルガールをかばったものではなく、ある程度の真実を含んでいました。なぜなら、異端審問院におけるメルガールの評価は「協調性に欠け、調和を軽んじる傾向が強く、自らの能力を過信している。さらに、大規模な奇跡術を準備する際の諸調整における不手際が多く、集団活動には関与させないのが望ましい」だったほどです。そのため、メルガールの卓越した奇跡術をもってしても、いや卓越しているが故に持て余していましたが、その能力を高く評価していたヒメネス枢機卿の手前もあり、単独あるいは極少人数での異端調査に従事させるという形で、なかば厄介払いされていました。
 やがて、地球からやってきた拷問人のエル・ハポネス、またの名をエル・ディアブロと組んで、異端がはびこる辺境の中心都市で任務を遂行し始めると、みるみる成果を上げるようになりました。任務遂行中の事件でメルガールが死んだ際には、エル・ディアブロが貴重な非神子の素体を提供し、転生させたほどです。そのため、両者の結びつきは非常に深いと目されていましたが、エル・ディアブロが不慮の事故で焼け死んだ後は、遺された妻子と会うこともなく帝都へ戻り、枢機卿の下で雑務をこなしていたようです。
 そして、エル・イーホが帝国管区の筆頭拷問人(エル・トルトゥラドール・スプレモ デ・ディストリト・デル・インペリオ)を襲名すると、ふたたび辺境の中心都市へ戻り、異端審問官として活動し始めたのです。

・帝国社会の特徴と帝国人気質

帝国社会の特徴
■奇跡術万能思想
■帝国世界が唯一のもの、正しいものであるとみなす
■人間同士の決まり事や約束よりも奇跡術が優先される
■同時に「奇跡術を使える兄弟団」には盲従する
■帝国社会からの離脱を極端に恐れ、社会から孤立した集団を敵視する
■場の空気や雰囲気を重んじる
■個人間のやり取りでも儀礼や典礼、形式を極めて重んじる。
■論理を欠いていることを問題視しない

帝国人気質
・良く言えば臨機応変、悪く言えばいきあたりばったり
・とにかく場の雰囲気や状況に流され、行動の一貫性はほとんどない
・強者や権威におもねり、弱者や未知のものには傲慢
・客観的思考の欠如
・熱しやすく冷めやすい
・目下にはコツコツと努力を積み重ねることを求めながらも、報酬は渋る
・手よりも口
・自らの失敗は目下になすり、手柄は横取りする

・本編(El expedición de hijo del torturador 辺境の聖女と拷問人の息子)より

「ねぇメルセデス、そんな調子でよく務まってきたね。メルガールはさ」
 おそらくは誰もが当然のように抱くであろう疑問を口に出したエル・イーホに、メルセデスは「そう思うでしょうね」と、意味のない言葉を返す。
 やや間をおいて、メルセデスはエル・イーホに顔を向けながら、言葉を選ぶように「理由はふたつある」と説明し始めた。
「まず、ひとつは卓越した彼の奇跡術(ミラグロ)がある。特に転送術は帝国きっての腕前だから、それだけでも兄弟団の中ではたいへんな人物ですよ。なにせ、マルメロ程度なら願訴人(ケレランテ)なしでも転送できるし、精度もすばらしい。百発百中というか、視界内ならまず外したことがないほど。加えて転送距離も目を見張るものがあるらしいしね」
 エル・イーホは驚きに目を見張る。それにしても願訴人不在で転送するなど、それがマルメロ程度であっても、文字通りの奇跡ではないか。
「でも、むしろそれほどの能力があるなら、奇跡術をよりいっそう極めるのでは?」
 メルセデスは『いい質問だ』と言わんばかりに人差し指を立てながら、さらに説明を続ける。
「そう、彼には学院での研究がふさわしかったと思うし、もしかしたらかつてはそうだったのかもしれない。学院には奇跡術しか取り柄のないクズもいっぱいいるし、そいつらに比べたらメルガールはましなほうだとさえ思う。でも、少なくとも私が最初に知ったときは、既に掃除屋だったから」
「掃除屋?」
「兄弟団の内部で都合の悪い人間を始末する。それが掃除屋。メルガールは掃除屋だったのよ」
「異端審問官じゃなくて? だいたい、兄弟団に逆らう連中なら異端審問にかければ済むじゃないですか?」
「もちろん、建前ではそういうことになっているし、可能ならそうしてた」
 実際、エル・イーホ自身がこれまで拷問してきた被疑者の多くは様々な理由で兄弟団と対立し、告発によって異端として審問にかけられた人々であった。
 告発……?
「つまり、告発されざる……異端……を、審問によらず……掃除していた」
「そういうこと」
 メルセデスは嬉しげにほほ笑むと細身の葉巻をくわえ、マッチで慎重に火を付けた。
 エル・イーホは紫煙の向こうにかすむメルセデスへ「でも、メルガールが前からあんな調子だったら、うまく掃除できないと思います。たとえ転送術の天才であったとしても」と、ふたたび当然の疑問を口にする。
「でしょうね。事実、うまくいってなかったらしい。でも、先代のエル・ディアブロと組むようになってから、状況は一変したらしい」
「メルセデスは父と組む前のこと……」
「知らない」
 メルセデスはエル・イーホの言葉を切って、そっけなく答えた。
 そして、メルセデスによればメルガールは情報だけではなく、日程や物品の管理もできないというか、そもそも管理という概念すら持ち合わせていないらしく、父母もそうとう手を焼いていたという。結局、特に秘密情報に関しては都度『誓約』を立てることとし、そのほかについてはメルセデスたちが一切を管理していたと。
「そういえば、司祭たちは誰もがそういうところありますよね。多かれ少なかれ」
「うん、そもそも物品や金銭については『奇跡術で複製も転送も自在』だから、管理しようって概念がないらしい。だから、寺院にも審問院にも帳簿の類は全くない。さすがに日課や暦は管理するけど、学院ですら記録より記憶なんだな」
 メルセデスの言葉に、エル・イーホも深くうなずいた。なにしろ、思い当たる節はたんまりある。むしろ、司祭たちは積極的に物事や日付、情報の管理を忌避するような、そんなそぶりすら見せることが多々あった。
「どうしてそんなことになったのでしょうね?」
「さぁ? ただ、司祭たちは『帳簿を人間に教えたのはユゴスよりのもの』だと信じているようでね。また、暦や時間に縛られるのは地球人(テリンゴ)の悪習だとも」
 兄弟団の司祭たちは時として話す言葉すら異なり、寺院の内側は文字通り『異世界』の感があった。いつか、ヒメネス枢機卿が『兄弟団は帝国の一部にあらず。それは帝国に重なる世界そのものである』と語っていたが、それは彼や兄弟団の傲慢さから生じたものではなく、単に現状を率直に述べただけにすぎないのは、エル・イーホにも容易に理解できた。だからこそ、兄弟団の手先として仕事をこなしつつも、エル・イーホにとってはどこか遠い、自分とは関わりのない人々のように思えていたし、また組織の中で誰がどのような役割を果たそうと、関心を持とうとしなかったところがある。
 ただ、自分とはあまりにも異質で、理解しがたい組織、人々であればこそ、裏仕事に向いているとは思い難いメルガールであっても、なにか役にたつところがあったのではないか? 少なくとも、エル・イーホには推測すらできない評価基準で有能とみなされていたのであろうことは、ほぼ間違いないように思えた。
「結局、兄弟団の中では有能で、かつ掃除屋にむいているとみなされた。そういうことですね」
「そういうこと。そして、実際にうまくやっていたと思う。エル・ディアブロとメルガールはね」
「パレハとして?」
 メルセデスは答えを口にせず、ただ静かにうなずいた。

・キャラクターを生み出した際の背景

 以前、制作ノートの「El hijo del torturador y su hermana 拷問人の息子と、その姉妹」で書きましたが、このシリーズは某社から告知されていた館山緑さんと共同制作するクトゥルー神話小説の企画がベースです。ただし、その段階ではメルガールに相当するキャラクタが存在せず、黄印の兄弟団や異端審問官も主人公の敵でした。そもそも主人公が非神子ですから、それと外見が同じキャラクタを登場させられません(ただし、ラスボス扱いのキャラクタや最終決戦のモブ敵には非神子が登場する予定でした)。
 その後、拷問人の息子シリーズへ着手するにあたってキャラクタを整理した際、大半を新規に設定しなおしたのですが、主人公の受動的な性格はそのまま残しました。そのため、物語を駆動させるキャラクタが必要となり、依頼者としてメルガールを設定しました。そして、その段階ではバディ物語としての展開を構想しており、名前も推理小説の有名な主人公から借用しました(ほぼそのままなので、すぐわかったと思います)。しかし、物語を展開していく過程で、帝国世界や兄弟団の高圧的で権威主義的な性格を描写していくと、メルガールもまた組織の手駒でしかないことをにおわせる事となっていきました。そのため、少なくともメルガールに社会を変革するような大志は抱かせられませんし、また積極的に物語を駆動させるような動きもできなくなりました。さらに、主人公であるエル・イーホと調和させるにも行動傾向の乖離が大きく、メルガールの主人公化も含めて早々に放棄してしまいました。
 結局、メルガールもまた官僚的で消極的なキャラクタとして、物語としてのカタルシスよりも虚無感を描く方向で進めました。なにより、それが自分にとって心地よく、また描きたい物語だったのです。
 こうして、現在のメルガールが形成されました。

 館山緑さんと共同制作する予定だったクトゥルー神話小説の企画や館山さんの小説については、こちらに書いています。
 館山さんの作品も面白いので、ぜひ読んでください。

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!