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美しい娘と醜い娘のお話





むかしむかしあるところに、醜い娘がいました。
姿形も心の中も醜い娘でした。

娘はその醜さゆえに誰からも疎まれました。
娘は醜いものすべてを憎んでおりました。
自分の醜いさまをも憎んでおりました。
娘は美しいものを集め、美しさの中で暮らしておりました。

美しいものをとても愛していたのですが、どんなに美しさを集めても、ただ自分だけはひどく醜いままでした。
醜い自分を愛したい。
娘は美しさを憎み、醜いものを愛そうとしました。
しかし美しいものを憎むことは、娘には辛く苦しいことでした。

娘は美しいものを愛しながら憎み、醜いものを憎みながら愛しました。



むかしむかしあるところに、美しい娘がいました。
姿形も心の中も美しい娘でした。

娘はその美しさゆえに誰からも愛されました。
娘は美しいものすべてを愛しておりました。
自分の美しさも愛しておりました。
娘は醜いものを遠ざけ、美しさの中で暮らしておりました。

しかし、誰にも気づかれないけれど、自分がときたまひどく醜い顔をすること、醜いふるまいをすること、醜い考えを持つことを知っておりました。
どんなにつとめても完璧な美しさにとどくことはできないと悟り、娘は震えました。
娘は美しさを憎み、醜さを愛そうとしました。しかし醜さを愛することは簡単ではありませんでした。

娘は美しいものを愛しながら憎み、醜いものを憎みながら愛しました。




あるとき街角で、美しい娘と醜い娘が出会いました。

美しい娘は醜い娘の中に自分の姿をみとめ、立ち尽くしました。

醜い娘は美しい娘の中に自分の姿をみとめ、立ち尽くしました。

ふたりはことばを交わさず、怖れのあまり逃げ出しました。
そうしてふたりはそれきり名前もわからないままでしたが、そのあと永く心の中で、互いを姉妹と思い続けました。









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