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Words, words, words. :松岡和子とシェイクスピア劇翻訳

国立西洋美術館で『版画で「観る」演劇』展を見た後、気づいちゃったんです。早稲田大学演劇博物館でこんな特別展をやっているの。

ということで、世の受験生が大学入学共通テストを受けている中、早稲田キャンパスに行ってまいりました。

ちくま文庫の『シェイクスピア全集』全33巻で日本語訳をしている松岡和子。シェイクスピアの戯曲、全部で37作品あるそうで、全作翻訳を彼女が成し遂げたのを記念しての展示だそうです。

松岡和子は1942年生まれの翻訳家・演劇評論家で、日本で上演された数々のシェイクスピア劇のために翻訳を行い、台本を書いた方です。プロフィールを見ると出身校は東京女子大学だったので、なぜ早稲田で特別展?と思ったんですが、早稲田大学で教鞭を取った坪内逍遥、シェイクスピア全集の翻訳をした人でしたね。

演劇博物館1階の小さな一室で、彼女の翻訳原稿や台本、それをもとに上演された舞台の映像・写真などが公開されていました。

原稿とか台本とか見て面白いのかな、と思うかもしれませんが、これが予想以上に面白かった。展示スペース一面に原語である英語のセリフと松岡の日本語訳が書かれていたり、翻訳のために松岡が音読している録音を展示室に流し、そのフレーズを壁面に投影したりと、彼女の翻訳への取り組みと一緒に、シェイクスピア作品への興味も促されます。

彼女の翻訳のやり方についても説明が付け加えられていましたが、それを読みながら展示されている手書き原稿を見て、これは職人技だなと思わされました。いくつもの原典にあたり何度も見直しているのが赤字の書き込みからわかるし、翻訳後も実際に演出家や俳優に。実務的な通訳・翻訳とは異なる一つ一つの言葉・フレーズ・作品に真摯に向き合っていることがよくわかるのです。

シェイクスピア作品の過去の日本語訳と、松岡による訳との違いについても触れられていました。過去の訳だと女性の登場人物のセリフが必要以上に遜った言い方になっており、松岡訳ではそれを排除する試みがなされているというのです。実際に記述を比較してみると本当にその通りで、私にとっては大きな発見でした。

博物館の同じフロアに、京マチコ記念特別展示室という日本のテレビと映画に関する展示室があるのですが、そこで上映していたのもシェイクスピア。黒澤明監督の『蜘蛛巣城』(マクベス)と『乱』(リア王)。その日は午後から予定があったので、ほどなく退館したものの、時間があったらずっと観ていたかったです。

これで無料だなんて、何て素敵。ありがとう、早稲田大学。



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