見出し画像

出張先の夜は更けて

でも姉さん、あっちに行ってるあいだはずっとネイルしてなかったですよね」
と言ったのは、ひとまわりも年下の後輩で、のんびりしているようで色々とよく見ている。

出張先で、仕事を終えたあと案内してもらったお寿司屋さんで、お取引先のその人は「かわいいねそれ」と、わたしの爪を見て言ったのだった。
ビールもハイボールもなく最初から日本酒。北陸はとにかく地のものが美味しい。ついつい、すいすいと飲んでしまい、三人で、あっという間に二合が空いた。

「すみません派手で」
「いやいつ突っ込もうかと思ってたけど、でもいいんじゃないかわいいから」
そんな言い方をしてもまったく嫌味にならないのがこの人の特技だ、と思う。フランス生まれで、とにかくものすごく変わっているが、率直で、個性的。こういう人が行政で仕事をしてくれているうちは、まだわたしもこの国で頑張れるかも、と思う。

それこそ行政の看板を背負って顧客対応をしていたこの数ヶ月。爪を短く切り、オックスフォードシューズを履いて、服に気を使うこともほとんどなかった。
腕時計も、実用的だから、という理由のみで(それまでは密かに軽蔑していた)AppleWatchに変え、身につけるのはピアスくらい。それはそれで心地よく清々しかったが、やはり解放された途端に反動が出る。ということはまだ、どこか我慢しているということだ。

どんどん枯れていきたいのだと思っている。思っているわりに、まだ色々な欲にまみれて生きている。純米吟醸の次は純米大吟醸、もはやわたしの舌にはどちらが上等なのかもわからないけれど、勝駒という名前のそれは、あっさりと品よくてとても美味しかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?