秋のはじまり

「やっぱりあいつは風の又三郎だったな。」
「二百十日で来たのだな。」
「靴はいでだたぞ。」
「服も着でだたぞ。」
「髪赤くておかしやづだったな。」
(宮沢賢治『風の又三郎』)

東京を離れて1か月と少しが経った。そうでなくても季節が身近にある毎日。毎日浅間山を見上げては、ここは空が近いなあ、と、思う。
どう、と風が吹いて、花桃の実が落ちる。青い胡桃も。

ふかふかと敷かれたウッドチップの上を歩いていると、季節が緩やかに移ろっていくのがよく分かる。そろそろ紅葉の兆し。そんなに駆け足で去っていかなくても、もう少し、と立ち去る夏の背中を見送る。
釣瓶落としの日が落ちて、星がぴかぴかと瞬き、また、どうと風が吹く。虫の音。

人間というものは、この世界という器の中で、怒ったり喜んだりしながらまっとうに生きていくしかないのだ。
自然というものと、文明というもののことを思う。そこに橋を架けたいと願うけれどそれができるのは、芸術という心のありかただけなのかもしれない。媚びてはいけない。

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