◇2018/0301 相席居酒屋にて

 先日、友だちと相席居酒屋に行ってきた。

 学生時代からお店の存在は知っていたものの、ザクのように大量生産された茶髪で垢抜けた少し犬っぽい女子大生と、スーツに身を包んで髪型ばっちしなのに、鼻の頭に脂を浮かせたおじさんが向かい合って座る絵面が浮かんで嫌厭していた。「タダ飯とタダ酒がたらふく頂ける」という噂を聞き興味は湧いていたが、行ったことがある大学の友人は「タダで飯も酒も得られたけど、男の人からすごく罵倒された」と話していた。お金のない貧乏な女性が酒と飯を得るために行き、女性と話したい働き盛りの男性が群がる、そして言うことを聞かなかったり面白くなければ亭主関白を発動し罵倒が始まる…。わたしは友人の小さな言葉にそういったシーンを思い浮かべてビビり、本当にお金がなくて食べるものに困ったら行こうかと考えた。いや、本心はお金がなくて食べるものに困っても、飢えたほうがマシだと思った。

 心変わりしたきっかけは、異性と恋愛関係に発展するような出会いがないことや、自分の中に積もっている誰かを罵倒したくてたまらない気持ちに踏ん切りをつけたくて、避けていた場所へ行こうと思い立った。話の合う異性を求めつつも、あわよくば相席居酒屋で、手ごろに生意気な異性をこれでもかとケチョンケチョンに言い負かしたかったのだ。いっしょに行った友人は彼氏持ちながらも純粋に出会いを求め、わたしは「出会いを求めているにも関わらず、不倫やキープに誘い込もうとするオトコや、タダ酒タダ飯を食らう女の子を見下すような金銭感覚を持った男をボロクソに罵倒する」というそれぞれの目的を持ち、戦場である相席居酒屋へ赴いた。わたしが罵倒すべきはいっしょに店に行った彼氏持ちの友人であろうが、そんなことは棚に上げておく。

 相席居酒屋もとい戦場はきらびやかだった。友だちに連れて行ってもらった場所は相席ラウンジという名前で、鳥貴族のような居酒屋よりも水商売のフロアに似ていた。低いソファーとテーブル、清潔感と重厚感漂う内装に明るすぎない照明。わたしと友だちは30代の男性を希望していたが、相席したのはわたしたちと同世代の生真面目そうな男性2人であった。挨拶と乾杯から始まり、わたしたちはお互いの職業や相席居酒屋に来る前に何をしていたのか、相席居酒屋へはよく来るのかということを話し酒を飲んだ。誰かを罵倒したい尖った気分で入店したが、相席した異性は見た目通りの生真面目さが会話の節々にも滲み出ている好青年であり、異性を罵倒したくて尖っていたわたしは拍子抜けしてしまい、思わず接待モードに入ってしまったのだ。接待モードとは、その場を自然な形で円滑に楽しく盛り上げるという造語であり、端的に言えばお調子者や道化になりきるといったことだ。わたしはいっしょに来ていた友だちよりもエンジンがかかったように積極的に話を投げ、横に座る友だちにも会話をふったりととにかく前のめりに会話に入っていた。そこそこ飲んだ頃合い、店を出て外に飲みに行こうという話になった。溜まった罵倒モードをどうにか出し切りたく、男性陣が全額払ってくれるならカラオケに行きたいとねだったところ、「(カラオケで盛り上がれて)楽しかったらええで」と即答され、皆でカラオケへ移動した。

 わたしは大学時代にカラオケ付きスナックで歌って踊っていた経験があり、人を楽しませることに多少の自信はあった。それに相席居酒屋で会話の調子や趣味の話から察するに、J−POPかフォークソング、キャッチ—な懐メロで合いの手を入れればノっちゃうタイプだろうと考えていた。そして考察と策略は見事に的中し、薄暗い部屋でミラーボールの光が回る中、わたしたち(そういえば、友だちはミラーボールで目が回り気持ち悪かったそうで、大人しかった)は曲に合わせて手拍子や小躍り、合いの手を入れて祭りのように騒いだ。もちろん男性たちは穏やかに満足したような面構えになりカラオケでの代金を全額支払ってくれ、解散した。わたしは誰かを貶すことをすっかり忘れてアゲモードで盛り上げ、悪い奴になんか早々になれなかった。

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