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形のない音楽を物質化する方法

こんにちはミヤタです。

僕は趣味で音楽の制作活動をしています。以前noteでも存在してないバンドを組んでみた話や、鼻炎症状で曲を作った話などについて書きましたが

今回はそんな音楽のことで僕が最近考えていたことを、普段とは毛色を変えて少し真面目に書いてみようと思います。

ということで、ここから急に文体が変わります。


昨今は音楽配信系のサブスクや楽曲データを直接ファンに配信・販売することができるサービスなども充実しており、曲を聴くだけでなく発表することのハードルもかなり低くなっているように感じる。

もし私がひと昔前に生まれていたら、今のように音楽を気軽に作って公開するという生活はできていなかっただろう。そう考えると、この時代に生まれて来れたことには感謝しかない。

しかしその反面、楽曲のダウンロード視聴が当たり前になった今だからこそ、あえて物としての音楽を売り買いしたいという欲求も高まってきた。


近年アーティストや若者の間でカセットテープが再び人気になってきているという話もよく聴くが、中目黒にはカセットテープを専門で販売するwaltzというお店も登場したようだ。

デジタル配信が当たり前になった今、物として音楽を買う体験や、カセットテープ特有の音を聴く体験を提供するこのお店は、いつでも気軽に聴ける音楽とは別のベクトルの価値を発信しているように思う。


私もつい最近、人生初のカセットテープアルバムを作った。

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データや音としてしか存在していなかった自分の曲が、重さや質感として触ることのできる「物」に生まれ変わったときの感触は何とも言えない。

ちなみに当初は肝心のプレーヤーの方を持っていなかったため、実質この箱の中に曲が封印されているという状態が数日間続いた。笑

カセットテープというメディア特有の音を部屋に満たしながら音楽を聴く体験は、デジタルでいつでもどこでもクリアな音色の曲が聴ける体験とは全く異なる魅力があることを実感した。


さて、ここからが今回の本題だ。

カセットテープやレコード盤で音を愉しむ文化が再び構築されてきている今、他にも音を物として愉しむ方法はないのかということが気になった。

「音と物が結びついた体験」


今までの人生で、音と物が結びついていた体験があったかについて思い返してみる。

開封すると音楽が鳴るメロディカードやボタンを押すと喋る玩具、ゼンマイを回すと音が鳴るオルゴールなど、思い返すと物自体が音を発する物は意外と沢山あったことに気がついた。

かなりマクロな視点で捉えれば、世の中のほとんどの物は音を発している。掃除機や電子レンジ、炊飯器といった家電はだいたい使用時に音を発するし、お菓子の箱や段ボールを開けるときにも開封音が必ず出る。

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コップを置けばコツンという音が響くし、生活していれば常に何かしらの音が聞こえてくる。

仮に、マグカップに「コーヒーを注ぐ音」というタイトルを付けて音楽として発表すれば、マグカップはコーヒーを注ぐ音を聴くメディアとして生まれ変わるかもしれない。


そこまでいくと幅が広すぎるように感じられるかもしれないが、例えばメロディーカードの考え方を拡張し、被ると音が鳴る帽子や、履くと音が鳴るスニーカーなどを作れば、音楽の物理配信の可能性が少し広がってくるように思える。

このように、音と物が結びついた体験のパッケージを変えることで、音楽との新しい関係性を設計することができるのではないだろうか。


「音とメディアが結びついた体験」


次に着目するのはCDやカセットテープ、また楽曲のダウンロードカードといった音を保存するためのメディアだ。

これらのメディアはCDであれば「ディスク」、ダウンロードカードであれば「紙」といった物質と、音楽データという非物質とを結びつける仲介的な役割を担っている。

データ自体は触ることができないが、重みと形のあるメディアに音楽情報を保存することで、私たちは形のない音楽を物として触ることができるようになる。

えのコピー

ダウンロードカードの場合、カード自体は音楽データを手に入れるためのコードが記された紙でしかないため、実質的にその中に音楽が入っている訳ではない。しかし、音楽を手に入れるという体験とカードが結びついていることで、私たちは音楽を物として買うというイリュージョンを体験することができている。

少し話がずれるが、ダウンロードカードに記されているのはダウンロードコードの文字列であり、デジタルとしてもインクとしても存在する文字という概念は、物質と非物質を結びつける鍵になっていたことを気づかせてくれる。

ちなみに音楽を紙に記す方法は他にも、歌詞や楽譜、また音波の形といった文章・記号・図形などのアプローチがある。音を紙に記す方法にフォーカスするだけでも、他にも色んな方法が見つかるかもしれない。


CDやカセットテープといったメディアの形の在り方にも、まだまだいろんな可能性がありそうだ。

実際に、メディアの形を変えることで新しい音楽購入体験を設計した興味深い事例もある。

日本フィルハーモニー交響楽団【公式】.「JAPAN PILL-HARMONIC 、できました」.2013年6月17日. https://www.youtube.com/watch?v=DK55Nd3qUqQ(2021年11月7日閲覧)

日本フィルハーモニー交響楽団による「JAPAN PILL-HARMONIC」は、健康にいいと言われるクラシックを、薬に見立てたミニSDカードに入れて処方するという試みだ。

音楽が入ったメディアを単なる音楽入りのSDカードとして提供するのではなく、内服薬の形で展開することで、楽曲の購入体験だけでなく曲自体の印象も魅力的にアップデートしている。

これらの事例から、メディアのパッケージを変えることで、音楽を物として買う体験の可能性が更に広がることが分かる。


「音楽をシンボル化した体験」


最後に着目するのは、音楽をシンボル化することで形を創り出す方法だ。

アルバムを視覚的な図として表現したアートワークや、楽曲を映像として表現したMusic Videoなど、音楽はそれを引き立てる別のシンボルと一緒に展開することができる。

以前、快速東京というロックバンドが、自身の楽曲群をマンガ形式で表現した「快速マガジン」という雑誌を販売したことがあった。

felicity.「快速東京 “快速マガジン[第2号]+東京ビデオ”」. https://1fct.net/releases/fct-5002(2021年11月7日閲覧)

数名のアーティストにそれぞれの曲をテーマにしたマンガを描いてもらうというこの試みは、楽曲を視覚的に楽しむMusic Videoの拡張版として捉えることもできるだろう。

「プロモーションビデオをマンガでやってみる」というアイデアから生まれたこの企画は、音楽を絵で楽しみ物語として読む体験を提供した。更に、少年誌のような雑誌になっていることで、ファンは間接的に彼らの曲を手で持ち指で触りながら感じることができるのだ。

この事例から、音楽のシンボルの作り方や形を変えることにも、音楽体験をアップデートする更なるヒントが隠れているように思える。


このように音楽の物質化には、少なくとも

直接音を発する物(オルゴールや電化製品、雑貨など)の再パッケージ化
音楽情報を記した物(CDやDLカードなど)の再パッケージ化
音楽をシンボル化した物(アートワークやMVなど)
の再パッケージ化

の3つの方向性がありそうだ。

それらを行うことで、音楽を物として購入するという体験に、更なる魅力が生まれるのではないだろうか。


さて、最後に形のない音を売る方法のヒントとして、「インターネットヤミ市」というイベントを紹介して終わりにしようと思う。

VICE.「インターネットヤミ市:ニューヨーク編をレポート」. 2016年11月15日.  https://www.vice.com/ja/article/vbpzab/internet-yamiichi(2021年11月7日閲覧)

インターネットヤミ市は、インターネットにまつわる様々な作品がリアルの場で物として販売されるフリーマーケットだ。

データやインターネットでお馴染みのシンボルを物質化した作品や、USBやディスクといったメディアとの関わり方を拡張した作品など、非物質と物質が溶け合ういい意味でカオスな空間になっている。

私自身、このイベントに実際に参加したことがないため、場の空気やどんなものが売られていたかの詳細は掴めていないのだが、形のない電子的なイメージをリアルの場で売るという試みは非常に心を惹かれる。

今後これらのイベントで売買された様々な作品からインスピレーションを受け、形のない音を物として売る体験を設計していきたいと思う。


■おまけです(今回製作した自作カセットテープアルバム)

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【プロフィール】
名前:ミヤタ
物事の意味を深掘りすることが好きです。音楽以外にも、絵なども描いています。 → https://lit.link/ryoheimiyata

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