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067:物理空間とディスプレイ平面とが重なり合った折衷空間💡

前回の「066:スクロールに摩擦がない特別なモノとしての「🧻」」で,Jan Robert Leegteの《Repositions (Black)》(2018)について,次のように書いた.

ブラウザのフレーム内は平面から空間へと変化し,先ほどまで平面的で黒いウェブページ📜は立体的なモノのような「📜」として,フレーム内にこれまではなかった空間性を与える存在となるのである.

ブラウザのウィンドウから見えるのはスクロール可能なウェブページ📜で,それは上下の「巻き」の部分は見えなくなっていて「平面」となっている.Jan Robert Leegteはウェブページ📜の平面の部分を動かし,その縁に「影」をつけることで,ブラウザのウィンドウ内に空間性をつくりだした.《Repositions (Black)》では,ウェブページ📜の上下の巻の部分は依然として不可視のままであるが,平面部分が影を伴いつつ動くことで,手前の黒の平面と奥の白い平面とその重なりが生まれ,ブラウザ内に空間性をつくりだしている.

WAITINGROOMで開催されている(2019年2月23日(土)- 3月24日(日)).エキソニモ 『LO』で展示されている《No ID》もまたウェブページに空間性を与える作品である.

会場で配布されている作品解説には以下のように書かれている.

オンライン上でアカウントを登録するときに書かされる登録フォームに,スポットライトが当たっている写真作品.フォームをインターネット上でアイデンティティを表現する場所の一つであるとし,何も入力されていない状態は「誰でもない」状態を暗示します.仰々しく当たるスポットライトは,Web画面には存在しないはずの空間性を感じさせ,不穏さを強調しています.(事務所奥のスペースに同じシリーズの別のバージョンが2枚展示されています.)[強調は水野による]
エキソニモ《No ID》シリーズ

スポットライト💡によって,ウェブページに照明が当てられることで「空間性」が生まれる.Jan Robert Leegteがウェブページの「奥」へと向かう空間性をつくったのだとしたら,エキソニモ はスポットライト💡によって,ウェブページの「手前」に空間性をつくりだしていると考えられる.展示では,作品で示された光の光源となる位置に「スポットライト💡」としての白熱電球が天井から吊るされているため,作品が展示空間と地続きになっているかのように演出されている.

エキソニモもJan Robert Leegteも,なぜ本来はないとされているウェブページに空間性をつくりだす作品を制作しているのであろうか.インターフェイスのデザインの流れから,その理由を考えてみたい.スキューモーフィズムが流行していたときはスマートフォン,パソコンの画面には凹凸と影が溢れ,そこにはモノを模した質感があった.その後,フラットデザインが流行し.画面から凹凸と影が追放され,空間性を意識させないツルッとしたディスプレイの光がつくる独特の質感が画面を占めた.しかしすぐにGoogleはマテリアルデザインで,AppleはFluidデザインで,画面内にモノと物理法則から抽出した要素を適用した物理空間とディスプレイ平面とを折衷した空間が生まれ,そこであらたな質感が生まれつつある.

《Repositions》シリーズと《No ID》シリーズは,マテリアルデザインのサーフェイスの重なりや,Fluidデザインが追求するモノの滑らかな動きを可能とする折衷空間そのものをディスプレイの内と外で表現している.ブラウザのウィンドウ,ディスプレイがつくる画面は平面ではなく,物理法則から抽出した要素が展開する空間とディスプレイ平面とを重ね合わせた折衷空間となっていることを強く意識しなければならない.Jan Robert Leegteはウェブページ📜自体を動かし,影をつくるというマテリアルデザインやFluidデザインの要素を取り入れて,ブラウザ内が折衷空間であることを明確に示したと言える.そして,エキソニモの《No ID》シリーズはスポットライト💡の光を介して,物理空間とディスプレイ平面とが手前と奥に重なり合った作品となり,マテリアルデザインやFluidデザインがつくる折衷空間をディスプレイの外に引っ張り出してきていると考えられる.

追記としてのTweet




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