見出し画像

084:「マテリアル」の粒度にしてから,表現の可能性を考える

インターフェイスで発生する「行為」と「表象」とが形成する「波自体というマテリアル」では,デジタルとフィジカルとがセンサーを通して重なり合い,その結果として,アナログデータが必然的に引き起こす「遅延と揺らぎ」をデジタルデータに取り込む余地が生まれていた.

デジタルとフィジカルとの重なり合いはセンサーを通しての「フィジカル→デジタル」という流れだけではなく,プロジェクターを通して「デジタル→フィジカル」という流れもつくることができる.

これを500フレーム超,粘土が緑色になるように形を調整しながら1枚1枚コマ撮りしていくことで,3DCGで作った立体をそのまま粘土でトレースしていってしまおうという寸法です.普通クレイアニメは,有機的で手作り感の溢れる動きになりがちです.こういった作り方をすることで,粘土のくせにCGみたいに正確に動くキモさだったり,3DCGで作ろうとすると却って面倒くさいような,色の混じりあいや表面の凸凹といった偶発性の両方を取り入れられないか試してみたかった,ってことです.

「3DCGで作った立体をそのまま粘土でトレースしていってしまおう」というのは,文字通り「デジタル→フィジカル」という流れである.このとき,3DCGと粘土のどちらが「マテリアル」かと考えてしまうと,結局はデジタルか,フィジカルかということになってしまう.ワイバーグの「マテリアル中心アプローチ」から派生した「波自体というマテリアル」においては,3DCGと粘土の両方が「マテリアル」なのである.橋本麦が自ら書くように「depthcope」では,3DCGの「正確性」を粘土に取り入れ,粘土が持つ微妙な表面の凹凸や色の混じり合いといった「偶発性」を3DCGに取り入れることで,3DCGと粘土とが互いの領域に入り込み,「行為」と「表象」とが互いにはみ出していく「波自体というマテリアル」が生まれている.ここではフィジカルな粘土の偶発性だけではなく,デジタルの正確さがつくる「制御可能なオブジェクト」も,マテリアルの粒度で考えられている.「制御可能なオブジェクト」をデジタルの特性と捉えると同時に,制御から抜け出るための要素=マテリアルにもなっている.

橋本がWebサイトを作成したISSEY MIYAKEのデザイナー,宮前義之も同じような視点を示している.

--電子ペーパーを「素材」として考えたということですね.
ソニーさんは電子ペーパーをモニターとして捉えていました.最初は好きな柄を映せてスイッチを押したらこういうことができます,と提案されました.でも,ソニーさんには失礼なのですが,私たちはあまりそこには興味がなかった.それよりもひとつの素材として興味を持ちました.そこで何枚かお預かりしぐしゃぐしゃにしたり,穴を開けたりしてみました.

橋本も宮前もともにデジタルテクノロジーがつくる「制御可能なオブジェクト」を制御することが難しい状態において「マテリアル」の粒度にしてから,表現の可能性を考えている.そこからデジタルとフィジカルとを統合して考える「波としてのマテリアル」が現れる.

DOUGH DOUGは服の「マテリアル」である同時に,Webの「マテリアル」としても扱われる.まずは,宮前らのISSEY MIYAKEのデザインチームが,フィジカルな偶発性を最大限生かすために手の痕跡を残すマテリアルとしてDOUGH DOUGHをつくる.橋本はフィジカルな偶発性としての「くしゃくしゃ」とする布から,「Webページ自体が自己言及的にクシャクシャなったら面白いだろう」と考え,WebページをDOUGH DOUGHで裏打ちして,クシャクシャにしてしまう.このとき,「スクロール」という行為,「テキスト」「画像」といった表象といった制御可能なオブジェクトが,「クシャクシャになるWebページ」という一つのマテリアルに統合されている.正確さと偶発性とが互いの領域に入り込みながら,スクロールという「行為」とDOUGH DOUGが示す「くしゃくしゃ」の質感の「表象」とが重ね合わされ,「遅延と揺らぎ」をデジタルデータに取り込む余地を持つ「波自体というマテリアル」が生まれている.

Webページにあるテキスト,画像もスクロール行為と連動してクシャクシャになっていくけれど,それらは正確に操作できるものとしても機能し続けている.正確性と偶発性とがスクロールという「行為」と連動するWebページ全体がクシャクシャになる「表象」とのあいだでフィードバックループを形成している.そこに現れる「クシャクシャ」な質感は,Webページという「制御可能なオブジェクト」がノイズとして排除した「皺」が入り込む余地を持つ「行為」と「表象」とが互いのよう力にはみ出して形成される「波自体というマテリアル」が,インタラクションを通じて存在していることを示すのである.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?