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156:モノと認識とのあいだに現れる「色が取る位置に応じた情報」

YOFの《2D Painting [7 Objects, 3 Picture Planes]》を少しずつ,考えている.今回は,YOFが2013年から考察を続けている《Valeur(ヴァルール)》シリーズからはじめてみたい.

前回も引用したけれど,もう一度,《Valeur(ヴァルール)》についてを引用しておきたい.

2013年より続けてきた《Valeur(ヴァルール)》シリーズは、イメージをピクセルの集合体として捉え、それらが視感覚に与える力の感覚量を定量化するためのプロジェクトである。
まず前提として、デジタルメディアにおいて全てのイメージはピクセルという単位で表現することができる。画面上にあるすべてのピクセルは「色」と「位置」という固有値を保持しており、全体の関係性の中で相互的な力を持っている。1つのピクセルの変化が与える影響は微々たるものだが、それらの集合が次第に大きな力を持つことで全体の印象を形成していく。我々は、その力の正体であるヴァルール(色価)こそがイメージを構成する上で最も重要な要素であると考えており、また独自のアルゴリズムによって定量化する事を可能とした。

YOFは色をピクセル単位で考える,ここが重要だと考える.それは,私たちがみている色を,ピクセルが「固有値」として持つ色と位置の「情報」で考えることを意味する.つまり,色を「赤」や「青」とラベルづけされる前の段階で捉えようとことである.これは,色を光の波長という物理的現象として捉えるのとも異なっている.色を光の波長でもなく,言語のラベルとしてでもなく,「情報」として捉えるということはどういうことだろうか.

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YOFはまず絵画などの色面から一つのピクセルが持つ固有値である「x, y」の位置情報と「R, G, B」の色情報を取得する.

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次に,一つの基準のピクセルと色面の構成する他のすべてのピクセルとの色差と距離かヴァルールを計算する.

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色面を構成するすべてのピクセルに対して,他のすべてのピクセルとの差異が計算されて個々のピクセルに与えられる.ここで重要だと考えられるのは,それぞれのピクセルが持つ色と位置に基づいて,それぞれのピクセルが他のピクセルとの差異が数値化されるということである.色の情報としては同じものであっても,そのピクセルの位置によってヴァルールは異なってくる.

YOFのアルゴリズムで世界を眺めると,三次元空間も「x, y, z」の位置情報とその点における「R, G, B」の色情報と集積と考えることができるだろう.しかし,これはそのように世界を捉えることができるというだけで,通常の世界の捉え方とは異なるだろう.私が世界を捉えるときは,三次元空間にモノがあり,そのモノに光が反射してきて,その光の波長を網膜が捉え,脳で処理されて,「色」が認識されるということになるだろう.世界にはモノがまずあると考えるのであって,そのモノから位置情報と色情報とが抽出されると考えるのが通常の手順である.しかし,YOFはピクセルから色を考えるために,まず情報があると考えているのではないだろうか.

情報の二相理論を提唱する哲学者デヴィッド・チャーマーズが,ヒトがモノを見るときのプロセスを書いているのだが,この考え方はYOFのヴァルールのアルゴリズムと近いと,私は考えている.情報の二相理論とは「実在に関する形而上学的立場で、世界の究極的な実在(Ultimate reality)を情報(information)とし、その情報が物理的な性質と現象的な性質を持つのではないか、とする立場」ということである.

低い[レ]ベルの細部に立ち入らなければ,その筋書きは次のようになる.光のある一定の範囲のスペクトルがわれわれの目に当たって,さまざまな種類の網膜細胞を活性化させる.三種の錐体が,重なり合うさまざまな波長範囲での光量に応じて,情報を抽出する.するとただちに,元の光波に現われていたたくさんの違いは失われる.この情報は視神経を通じて視覚皮質に伝達され,そこでの神経的処理によりさらに三軸上の値に対応する情報へと変換される.これはおそらく,赤−緑,黄−青,そして明暗の軸である.ここから先で起こることはほとんど理解されていないが,この三次元空間で与えられた色が取る位置に応じた情報が保存され,それから最終的におなじみの〈赤〉〈緑〉〈茶〉等々のカテゴリーに分類されていくらしい.言葉でのカテゴリーはこれらのラベルに結びついていて,ついには「私は今赤を見ている」というような報告が発せられる.p. 356

ヒトが世界を認識する過程で光から「三次元空間で与えられた色が取る位置に応じた情報」が抽出される.情報の二相理論から考えると,ここで「抽出」されると書かれている「情報」こそが「究極的な実在」ということになり,この情報の物理的な性質がモノであり,現象的な性質が「赤」「緑」という認識ということになるだろう.

YOFのアルゴリズムが計算したヴァルールは,ひとつの色面の差異の集積として提示されている.それは,三次元空間ではなく二次元平面ではあるが,ヒトの認識過程でモノと認識とのあいだに現れる「色が取る位置に応じた情報」だと考えられる.この情報をモノや認識から抽出される存在と考えるのではなく,この情報こそを「究極的な実在」と考えて,この情報からモノや認識をあらたにつくっていくというのが,YOFが行っていることなのではないだろうか.

連載「サーフェイスから透かし見る👓👀🤳」では,バルクもサーフェイスも持たない「色が取る位置に応じた情報」から,YOFはあらたなバルク=モノとサーフェイス=認識とをつくり出すと考えてみたい.


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