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091:思考実験として,「話す・書く・伝える」関連技術を個人的に復活させる

この「「話す・書く・伝える」100年史」プロジェクトのための2回目のレクチャーに向けて「風の谷のナウシカ」について考えている.

ナウシカの世界は文明が一度滅んだあとで,復活した技術ととにも生活が営まれている.飛行機は復活しているけど,電話はないという感じで,どの技術が復活するのかは,宮崎駿監督の考えが反映している.

「話す・書く・伝える」100年史に絡んだ技術では,電話,コンピュータといった通信・情報技術は復活していない.文字はあるけれど,それらは今のようにどこかに瞬時に伝えることはできない.何かを遠くに伝えるには,「狼煙」や鏡を使った「光の明滅」といった技術を使う必要がある.つまり,伝えるためには「見える」必要がある.逆に言えば,伝えるための「見えない」技術はまったく復活していない.文字は見えるので復活,声はもともと見えないので,これを伝える技術は復活してないように見える.見えない技術で伝えることも復活しているのかもしれないけれど,描かれていないといったほうがいいのかもしれない.

現在の私たちの世界では,通信・情報技術はすぐに復活しているというか,これらをできる限り維持しようとしてきた.1995年の阪神・淡路大震災,2011年の東日本大震災でも,新聞社,テレビ局,ラジオ局などはどうにかして情報を伝えようとしてきたし,電話会社はすぐに電話網を普及しようとしたし,インターネットは情報を伝え続けた.

今,この時点で,一度すべての技術が失われたとしたら,私たちはどのような技術を復活させるだろうか.そして,復活させる理由はなんだろうか.インターネットを復活させるか,電話を復活させるか.失われた技術を復活させるときには,その技術が生まれたときにあった技術的必然性とは異なる理由が入ってくると思われる.だからこそ,どんな技術を復活させるのか,ということにはその人の思想が大きく反映されるのではないだろうか.もしくは,その技術とともにある「思い出」も大きく反映されるかもしれない.人類全体のことを考えて技術を復活させるのではなく,個人的思いだけで復活させて良いといったとき,私たちはどのような思いで,どのような技術を復活させるのだろうか.思考実験として,「話す・書く・伝える」関連技術を個人的に復活させる,ということを提示したらいいのかもしれない.

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甲南女子学園100周年ブランディングWebプロジェクト第2回特別レクチャー
「携帯電話を握りしめたアンドロイドが耳を澄ます」

日時:2019年8月2日(金)13:00-17:50
場所:甲南女子大学9号館1階/912教室
対象:在学生・卒業生・本学園教職員
講師:メディア表現学科・高尾俊介,水野勝仁

前回の公開講座では「話す・書く・伝える」に使われるメディア・テクノロジーの歴史を辿りながら,「文字を書く」や「電話で話す」といった「道具」に紐づいた思い出を探ってきました.今回の公開講座は,「ほしのこえ」「風の谷のナウシカ」「デトロイト ビカム ヒューマン」といった未来を舞台にしたアニメやゲームにおける「話す・書く・伝える」を考えながら,未来と現在の私たちの「話す・書く・伝える」とを比較していき,「コンテンツ」や「状況」に紐づいた思い出を探っていきます.

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