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トピックス 経営全般

トピックス 経営全般 

⚫️2021.11.29日本経済新聞🗞

【サマリー】
若手は会社に
社会での存在意義を明確に示すよう
求める

【思ったこと】
会社だけでなく、個人にも理念は必要というか認識すべき
社長における自分の存在意義は?だれにどうなってほしいか?
あと
なんとなく儲かりそうだから
といって特に理念なくある会社は
長く続かない

【記事全文】

株式会社が誕生してから約400年。社会を豊かにしてきた会社が岐路に立っている。利益を過度に追い株主に報いる経営姿勢に若者らがノーを突きつけ、社会への貢献や存在意義を明確に示すよう求め始めた。会社と社会。語源が同じと伝えられる2つの言葉が今、再び重なり合うときを迎えている。
(関連特集をカイシャの未来特集面に)
「きょう、あすをどう生き抜くかを繰り返すうちに年月がたっていく。社員と面談しても将来の話は出ない」。創業60年目を迎える切削加工業者、仙北谷(横浜市)の植田竜也社長は悩んでいた。2019年、先代社長の急逝で社員26人を抱える会社を引き継いだ。そこに直撃したのが新型コロナウイルス禍だ。
20年度の売上高は半減、部品点数が少ない電気自動車(EV)への産業シフトで得意の部品試作も先細りする。社長就任時に社訓として「感謝・誠実・笑顔」を定めたが、何かが足りない。「社員が夢を持って10年後を語れるように、働く意義が必要なのでは」
一緒に「パーパス(総合・経済面きょうのことば)」を作りませんか。取材班は植田社長に依頼した。経営のキーワードとなりつつあるパーパスは「社会での存在意義」を意味する。一つの会社がそれを見定める過程を共にしたいと考えた。
パーパス再定義
我が社は何のために世にあるのか。この問いかけに今、世界の多くの会社が直面している。
株主から資金を集め、雇用を生み、世代を超えて事業を継続する。それ自体が偉大な発明といえる「会社」は経済成長の原動力となった。世界の国内総生産(GDP)は19年に85.9兆ドルと半世紀で約60倍に拡大した。ただ、巨大になった歯車はひずみも生む。
自己資本利益率(ROE)を軸とした株主還元重視の時代を経て、約2100人の富裕層が下位46億人より多くの資産を保有する。デロイトトーマツグループが21年1~2月、45カ国の若者に実施した調査では「富と所得が平等に分配されていない」との認識が7割弱に達した。要因として最多だったのは「企業や富裕層の強欲さや既得権益保持」。評価される機会が平等に与えられないことに不満がにじむ。
世界銀行によると、50年までに世界の廃棄物発生量は20年比で7割増の年39億トンに到達。莫大なエネルギー消費は地球温暖化という形で社会の存続すら脅かす。
社会との分断に危機感を募らせた米経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルは19年、「パーパスの再定義」を呼びかけた。米ボストン・コンサルティング・グループでは今年、パーパス策定に関する問い合わせが19年通年の2倍、日本に限れば5倍に急増している。
共感で職場選び
我々一人ひとりは、何のために働いているか自覚しているだろうか。「御社の存在意義を言えますか?」。取材班は東京・有楽町を歩く会社員100人にアンケートした。勤務先が明文化したパーパスやビジョンを「言える」と答えたのは63人と過半に達した。

「理念に共感したからこそ入社を決めた」。環境サービスで働く50代の男性は数年前の転職時を振り返る。一方、生命保険会社に勤める20代の男性は完璧に覚えているのに「具体的に目指す姿が分からず全く共感していない」と退職を決めた。
名和高司・一橋大大学院客員教授はパーパスを「志」と訳す。「北極星のごとく道しるべになり社員が奮い立つもの」。一人ひとりの行動と結びつけば「優秀な人材、顧客からの支持、市場での高い評価につながる」。
冒頭の仙北谷のパーパス作りでは名和氏の助力を仰いだ。「顧客」「社員」「社会」にとって自社がどうあるべきか。職人気質の社員たちが議論を重ね、30を超えるキーワードを絞り出した。
浮かび上がったのが「宇宙技術」「宇宙品質」という言葉だ。00年代から少しずつ実績を積み重ねてきた人工衛星向けの部品製造に、社員たちは誇りと未来を感じていた。植田社長も席上、温めていた宇宙事業の拡大計画を打ち明けた。
1カ月の議論を経て、パーパスは「宇宙技術でワクワクする未来へつなぐ 品質に挑むものづくりエンターテイナーズ」と決まった。
米スターバックスやIBMなどが加盟する団体は、消費者100万人の評価を基にした4000社超のパーパスの点数と、収益との関係を分析した。「高パーパス企業」は投下資本利益率が13.2%で「低パーパス」の2倍近かった。

アルツハイマー型認知症の原因物質を取り除く世界初の治療薬を実用化したエーザイ。実は16年も前に珍しい条項を定款に盛り込んでいた。患者を助けることを第一義とし「その結果として売上、利益がもたらされ、この使命と結果の順序を重要と考える」。つまり、理念を差し置いて収益を追えば定款違反となる。
この志を血肉化するため、社員は年間勤務時間の1%を使って高齢者施設などを訪ねる。「『新薬ができるまで頑張る』と話す患者の声が一番のモチベーションになる」と内藤晴夫・最高経営責任者(CEO)は話す。
米マイクロソフト再興の立役者、サティア・ナデラCEOが真っ先に取り組んだのもパーパス。「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」と定めた。
その象徴の一つが、視覚障害者向けアプリだ。同じ障害を持つエンジニアが開発した。スマートフォンのカメラを周囲に向けると状況を読み取り、「眼鏡をかけた若い女性がいます」などと音声で説明する。既に2千万回以上使われ、人を助ける実感を組織にもたらした。同社の21年6月期の純利益は過去最高だ。
会社も社会も中国語の「社」に由来し、いずれも「同じ志で物事を行う集団」を意味した。シャカイのためにカイシャは何をなすか。ぶれない志こそが成長戦略になる。

⚫️2021.11.12日本経済新聞📰

政府は19日に決める経済対策に手厚い中小企業支援を盛り込む。新型コロナウイルス感染症の影響で大幅な減収となった事業者に業種を問わず最大250万円を配る。コロナ後の社会の変化に合わせた業態転換を促す補助金を大幅に上積みし、経済成長にもつなげる。
与党などとの協議を踏まえて決める。新たに創設する給付金は2021年度補正予算案に3兆円を計上する。前年か2年前と比べて月単位で大幅な減収になった事業者を対象とする。減収率に50%と30%の2つの基準を設け、それぞれ給付額を設定する。
50%以上の減収の場合、年間売上高5億円以上の企業には最大250万円を給付する。1億円以上5億円未満なら最大150万円、1億円未満の場合は最大100万円を配る。個人事業主には最大50万円を支給する。
岸田文雄首相は20年度に配った持続化給付金並みの給付を経済対策に盛り込むと明言していた。総額5.5兆円の持続化給付金は50%以上の減収になった法人に最大200万円、個人事業主に最大100万円を配った。1年間の事業継続を支えるというのが制度の趣旨だった。
首相は新たな給付金に関して「3月まで見通せる形」と述べ、11月から22年3月までの5カ月分の必要額を見積もった。売上高が半分以下になった事業者の給付額は1カ月あたりでみると持続化給付金より多い。
要件の緩和により、減収率が50%未満でも30%以上なら受け取れるようにした。50%以上の事業者より支給額は絞る。
持続化給付金は不正受給が横行した。申請に添える確定申告書の偽造や架空の売り上げ台帳の作成の手口が多かった。新たな給付金は審査を厳格にして不正を減らす。補正予算成立後、21年度中にも支払いを始める見通しだ。緊急事態宣言の発令などを受けて支給してきた月次支援金は10月分で打ち切る。
補正予算案にはインターネット通販や料理の持ち帰り(テークアウト)など新しい取り組みを始める中小を支援する「事業再構築補助金」の追加財源も計上する。20年度第3次補正予算では1.1兆円を計上した。業態転換のための投資に対して最大1億円を支給している。
この補助金に新たに「グリーン枠」を設ける。ガソリン車の部品メーカーが電気自動車(EV)向けに転換する場合などが対象で、支給額の上限を1億円から引き上げる。感染拡大の「第6波」も見込まれるため、オンライン化や非対面への転換を促し、中小企業の足腰を強くする。

⚫️2021.11.12日本経済新聞🗞

資源や原材料などの価格が急上昇し、日本企業の収益を圧迫する構図が強まってきた。日銀が11日発表した10月の企業物価指数は前年同月比8.0%上がり、約40年ぶりの伸び率になった。世界的な供給制約や原油高で輸入物価が高騰している影響が大きい。半面、最終財では値上げの動きが鈍い。どこまで波及するかが今後の焦点になる。



10月の企業物価指数を取引段階別にみると、川上の素原材料は63.0%上昇した。石油・石炭製品や鉄鋼、化学製品、非鉄金属の値上がりが著しい。4品目で指数全体の上昇の7割を占める。
中間財の上昇率は14.3%、最終財は3.8%と川下に向かうにつれて上昇率は鈍る。電気機器など消費者に近い製品の上昇率は0%台にとどまる。企業は値上げに慎重な姿勢で、企業向けサービス価格指数や消費者物価指数(CPI)の上昇圧力は弱い。
米国との差は需要の弱さだ。米国では強力な経済対策などもあって個人消費が持ち直している。一方、日本は値上げをすると販売が鈍る経験則を引きずっている。
日用品大手ライオンの掬川正純社長は「原材料価格の高騰は当初想定を上回る影響を受けている」と危機感を募らせる。「そのまま値段を上げるのは難しく、商品の付加価値化で単価を上げていく」と話す。
東京電力ホールディングスの山口裕之常務執行役は「燃料高の影響は通期で650億円のマイナスに相当する。価格が上がり続ければ厳しい」と語る。火力発電に使う液化天然ガス(LNG)などの価格上昇で2022年3月期の連結最終損益は160億円の赤字(前期は1808億円の黒字)になる見通しだ。
円建ての輸入物価の上昇率は前年同月比で38.0%と、比較可能な1981年1月以降で最高を記録した。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストの試算では、7~9月期の日本の交易損失は年換算で国内総生産(GDP)の1.2%にあたる6兆6000億円。輸出価格より輸入価格の上昇が大きく、海外に所得が流出している。原油価格が1バレル80ドル強で高止まりすれば、年間の交易損失は9兆円強に膨らむという。
消費者向けでもガソリンや電気代といった商品・サービスは値上げが進み、家計を圧迫しつつある。大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストはCPIの上昇率が生鮮食品を除くベースで2021年中に1%程度に高まるとみる。
それでも日銀が目標とする2%に近づくとの予想はほぼない。利上げ観測が高まる海外と対照的に日銀は金融緩和を当面続ける公算が大きい。
円安は輸出企業の収益を押し上げるが、日本の貿易黒字は10年ほど前と比べて縮小した。円安の恩恵は弱まり、むしろ原油高と相まって輸入企業や家計への負の影響が広がる。BNPパリバの河野氏は「金融緩和継続に対する反発が強まる可能性もある」と指摘する。
松野博一官房長官は11日の記者会見で、政府が19日にとりまとめる経済対策で「経済的にお困りの世帯や原油高に苦しむ関係業界の支援など必要な対策を講じたい」と語った。

⚫️2021.10.22日本経済新聞📰

【サマリー】
外国人労働者含め
コロナの水際対策により
未入国の外国人の方37万人

【思ったこと】
労働力不足は今後もトレンド
打開策として外国人労働者は必須
足止めさせてどーする

【記事全文】


出入国在留管理庁から在留資格の事前認定を受けながら、新型コロナウイルス対策の水際対策(総合2面きょうのことば)で来日できていない外国人が10月1日時点で約37万人に上ることが分かった。7割が技能実習生や留学生だ。海外では経済再開を見据えて入国制限を緩和する動きが相次ぐ。原則としてすべての国からの入国を拒否する「閉じた日本」の鈍さが際立っている。
外国人が3カ月を超えて日本に滞在する場合、「技能実習」や「留学」といった在留資格を事前申請するのが一般的だ。入管庁関係者によると、2020年1月以降に57万8千人に認定証明書を交付したが、うち37万1千人が来日できていない。
政府は21年1月に海外での変異ウイルス流行などを受けて入国制限を強化した。いったん入国したことがある人や、日本人の配偶者がいるなど「特段の事情」がある外国人に来日を限っている。この場合も入国時の検査や一定期間の待機が条件となる。
厚生労働省では条件緩和を検討する動きが一部にあるものの、外国人の新規入国には「変異型などによる感染再拡大につながりかねない」と慎重な姿勢をとる。自民党にも「水際対策が不十分だったから国内で感染が拡大した」との理由から緩和に反対する考えがある。厚労省などが自民党の反対派と積極的に調整する動きもみえない。
政府は31日投開票の衆院選を受けて水際対策を段階的に緩和する方針だ。行動範囲を限定できる短期出張者向けが優先課題の一つになる。接種証明や陰性証明を求めるなど、安全性に配慮した上で入国を認めていくことが必要になる。
コロナ前まで右肩上がりで増えていた技能実習生は、20年以降に来日予定だった19万4千人のうち11万1千人が未入国だ。国内にいる実習生は21年6月末時点で35万4千人と、19年末(41万人)に比べ14%減った。
建設従事者の労働組合、東京土建一般労働組合は「受け入れを断念した例などが出ている」と説明する。建設技能人材機構によると、予定期間を終えた実習生に「特定技能」の資格を取得させて引き続き雇用するなどして影響を抑えている。
大手居酒屋チェーン幹部は3割前後いた外国人従業員がほぼゼロになったと明かす。「経済が回復したとき、外国人労働力の奪い合いになる可能性がある」と警戒する。
留学生もコロナ前は年約12万人が入国していたが、20年以降に事前認定された19万9千人のうち14万7千人が未入国だ。19年末に34万5千人いた国内の留学生は21年6月末に22万7千人と34%減った。日本語教育機関関係6団体が7月に実施したアンケートで、184校のうち95校が「このまま入国制限が続くと1年以内に事業継続が不可能になる」と答えた。
主要国は制限緩和に動く。米国は入国を原則禁止していた33カ国からの渡航者について、11月8日からはワクチン接種証明と陰性証明があれば入国を認め、隔離も不要とする。シンガポールは10月19日以降、欧米8カ国からのワクチン接種済みの入国者の隔離を免除。タイは11月1日から米国や中国など少なくとも10カ国からの入国者を隔離なしで受け入れる。
浜田篤郎東京医科大特任教授(渡航医学)は受け入れ再開で変異型が流行するリスクを指摘する一方で「入国停止が長引けば国内経済への影響は大きく、ワクチンの接種証明などを前提にした入国再開の仕組みを考えるべき時期だ」と話す。

⚫️2021.10.20日本経済新聞🗞

【サマリー】
中小企業のデジタル化支援再開!

【思ったこと】
活用してほしい!

【記事全文】

経済産業省は中小企業のデジタル化を支援する「中小企業デジタル化応援隊事業」で補助金の新規受け付けを19日に再開したと発表した。中小企業が専門家に支払う謝金の一部を補助する。組織的な不正受給があった疑いで一時停止していた。経産省が認定するIT専門家について中小企業診断士などの資格を求めるなど要件を厳しくした。

⚫️2021.9.28日本経済新聞🗞

従業員のエンゲージメントをいかにして高めるかは、日本企業の近年の課題の一つである。エンゲージメントとは従業員が活力や熱意をもって仕事に没頭している状態を指す。高いほど生産性が高い傾向にあるが、諸外国に比べて日本企業では低いといわれている。どんな施策が有効だろうか。
筆者と早稲田大学の梁取美夫教授、カナダ・ビクトリア大学の遠藤貴宏准教授は2017年、サイバーエージェントの協力のもとで同社の人事施策と、社員の職務への態度について質問票調査を行った。その分析の結果、社員の表彰制度がエンゲージメント向上に効果があることが分かった。
同社の主な表彰制度には年2回の全社表彰、月1回の部門表彰、経営企画会議メンバーへの抜てきの3種類がある。いずれも昇進・昇給とは直結しない。前年の表彰対象者のエンゲージメントは特に高く、過去5年の表彰対象者も全体と比べると高い値を示した。
「もともとエンゲージメントが高い人が活躍し、表彰された」という逆の因果関係も考えられる。しかし因果推論の手法を用いた分析でもプラスの関係が観察されており、表彰でエンゲージメントが高まると考えてよさそうである。
もっとも、表彰制度の設計には注意が必要だ。まず表彰が従業員にとって価値のあるものだと皆に認識される必要がある。同社の全社表彰は近年オンラインに切り替わったものの、対象者が赤い絨毯(じゅうたん)の上を歩く姿が中継され、上司や同僚から祝いのコメントが寄せられるという。
マイナスの側面もありえる。施策が行き過ぎれば従業員にとって心理的プレッシャーになり、働かせすぎにつながるかもしれない。昇進・昇給によって報いられるべき貢献に対し、表彰だけで報いようとすれば不満を生むだろう。
こうした弊害に目配りする必要はあるものの、日本企業におけるエンゲージメントの低さからうかがえるのは、従業員の貢献に報いるための組織的な工夫がいまだ十分ではないという実情だ。重要なのは表彰制度を形だけ整えることではなく、従業員のさまざまな貢献を上司や人事部門がつねに観察し、その価値をたたえる行動を組織に定着させることだ。

⚫️2021.9.27日本経済新聞📰

サステナビリティー(持続可能性)革命の時代である。産業革命やデジタル革命のように、人類にとって大きな転換点である。
サステナビリティーの議論は1990年代から広がってきた。92年リオデジャネイロでの国連環境開発会議以降、10年ごとに持続可能な発展について政府の代表のみならず、非政府組織(NGO)、企業の代表らとともに議論されてきた。経済、環境、社会が関わりあっていることが認識され、その延長上にSDGs(持続可能な開発目標)が策定され、共有されている。
サステナビリティー革命の流れの中で、企業に期待される役割・責任も変化し、グローバルに企業の社会的責任(CSR)が求められるようになった。CSRについて改めて確認しておこう。(1)責任あるマネジメントシステムを構築すること。経営プロセスに社会的公正性・倫理性、環境や人権などへの配慮を組み込み、ステークホルダー(利害関係者)に対しアカウンタビリティー(説明責任)を果たすこと(2)社会的課題に取り組み、ビジネスとして、また社会貢献活動として持続可能な発展に貢献すること――である。
ここ数年、資本主義のあり方が問い直されている。例えば、米国の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルは会社のパーパス(目的)を再規定し、株主第一主義からステークホルダーの価値を重視するマルチ・ステークホルダー資本主義であるべきだと強調している。
もっともステークホルダーを重視すべきだという議論は、大きな不祥事や経済危機の度に、会社は誰のモノかという問いかけとともに繰り返されてきた。多くの研究は、ステークホルダーとの良い関係性はビジネスの成功や高いレジリエンス(復元力)をもたらす、株主価値を高めるためにも他のステークホルダーと良好な関係を構築することが必要である、と指摘している。ポストコロナにおいては、まさにそれがニューノーマル(新常態)となることが要請されている。
90年代にCSRコンサルタントのジョン・エルキントン氏が企業を経済、環境、社会の3つの側面から捉えるトリプル・ボトムライン(TBL)を提唱した。しかし、彼自身最近になって「四半世紀を経てTBLは成功していない」と述べている。サステナビリティーに関わる市場は成長したが、TBLは単なる会計指標ではなく、人々のウェルビーイング(心身の幸福)や地球の健康を促進していくことがゴールであり、資本主義市場に経済・環境・社会の3つの遺伝子が組み込まれる必要がある、と改めて強調した。そこでは、図のような仕組みが機能することが必要である。

CSRを果たせば財務的パフォーマンスが高まるかという問いに対し、70年代から多くの実証研究がなされてきたが、必ずしも明確な関係は示し得なかった。なぜならば、CSRを評価するシステムが市場になければ、明確な相関関係は出てこないからである。
しかしここ数十年で変化が見られる。とくに企業を財務指標のみならず、非財務指標を含めトータルに評価するESG(環境・社会・企業統治)投資が想定されていた以上にグローバルに広がり、金融市場の様相を変化させている。
脱炭素、サステナビリティー課題への取り組みや、適切な情報開示ができていない企業の評価は下がり、資本調達にコストがかかるようになってきた。さらにグリーン・コンシューマーの広がりもあり、企業は戦略的にCSRに取り組んでいくことが迫られている。
日本企業も2000年に入る頃から、外部からの圧力を受けてCSRが求められた。当初、企業による対応の違いがみられ、外国人持ち株比率や海外売上高比率が高い、環境関連の企業が他より積極的であった。CSRブーム以降、CSRの制度化(関連部署や担当役員の設置、報告書の発行など)は業種を超えて一気に広がったが、同時にCSRウォッシュ(見せかけ)という現象もみられる。
昨今のSDGsブームでは、CSRと断絶した理解もみられ、SDGsウォッシュも少なくない。そもそも基本的なCSRに取り組むことで、SDGsの多くの部分に貢献できる。

一方、欧州連合(EU)を筆頭に、環境や人権、ダイバーシティー(多様性)、情報開示などに関する取り組みについて、法制化する動きが強まっている。コンプライアンス的対応ではなく、責任あるビジネスを構築し、新しい経済的・社会的価値を創出していくことが期待されている。
日本企業に求められる課題をまとめておこう。
様々なCSR行動規範(国連グローバル・コンパクト、ISO社会的責任など)や非財務情報開示基準(GRI、VRF、TCFDなど)がつくられ、多くの企業がフォローしている。しかし、それらにサインするだけで自動的に責任ある経営ができるわけではない。サステナビリティー経営で高い評価を得ている英ユニリーバや米パタゴニアのように、その考え方を事業活動の中核に組み込み、社内外で成果をあげている企業がある一方、報告書と実態が乖離(かいり)している企業も存在する。
CSR、サステナビリティー課題に直面し、何のために、どのような戦略をもって取り組むのか、改めて問い直すことが必要である。横並び的に新しい部署をつくったり、名称を変えたりしても、組織の構造や文化が変わらないのであれば、成果は望めない。
とくに全社的なCSR、サステナビリティー経営への理念が、各事業部門での取り組みとどうつながっているのか、どのように価値を創出していくのか。ストーリーをもって示すと同時に、定量的な測定が求められている。持続可能な社会づくりに貢献するために、どのように新しいビジネスを創り出していくのか、トップが明確な哲学をもってリードする必要がある。
次に、CSR、サステナビリティー課題に取り組んでいくにあたっては、ステークホルダー、とくに従業員、投資家、消費者、NGOとのエンゲージメント(建設的対話)が重要である。一方的に話す・聞くというスタイルではなく、新しいアイデアを協働して生み出すことが期待される。
近年新しい規格づくりは、マルチ・ステークホルダーで取り組まれている。グローバルガバナンスのあり方は、大きく変わっている。日本企業は「アンテナ」を張って新しい動向をフォローするにとどまらず、その構築・運用プロセスに積極的に参画していくことが必要である。
最後に、サステナビリティー・マインドセット(思考様式)をもったリーダーの育成が求められる。経済・環境・社会をトータルにとらえる視点をもった、先見的、協働的、革新的なリーダーである。大学でのマネジメント教育も、サステナビリティー概念を組み込み、新しい動きに対応するカリキュラム、教育方法を構築していくことが求められている。
<ポイント>
○企業の社会的責任がより重視される時代
○社会や環境重視の視点から事業問い直せ
○株主第一から多様な利害関係者に配慮を
たにもと・かんじ 55年生まれ。神戸大博士(経営学)。専門は企業と社会、CSR、ソーシャルビジネスg

⚫️2021.9.22日本経済新聞📰

【サマリー】
健康経営に注目
これからのリーダーは、部下の睡眠マネジメントにも気を配る必要

【思ったこと】
過度な労働時間を強要されない限り
睡眠時間の確保は自己管理
ビジネスマンとして、マネジメントされずとも自身で睡眠をしっかり確保していきたい

【記事全文】

「寝なければ世界と渡り合えない」。世界的な音楽レーベル、米ユニバーサル・ミュージックグループの日本法人の社長、藤倉尚(53)は確信を深めている。
かつては典型的なハードワーカーだった。韓国の人気女性グループ「KARA」や「少女時代」などと契約を結ぶなどK-POPブームを巻き起こした仕掛け人は午前5時に起床し、昼はアーティストの所属事務所などとの会議や打ち合わせ、夜はライブ会場、深夜に会食。平均睡眠時間は3時間程度だった。
40歳を超え、朝の会議で疲れた表情を見せることもあり「パフォーマンスが下がっているのでは」と指摘された。「これでは重要な経営判断を正しくできない」と、2014年の社長就任を機にライフスタイルを見直した。
睡眠時間を倍の6時間に切り替えると、朝から難しい判断に向き合えるようになった。社員を見渡すと、時差がある海外とのやりとりで未明の業務が避けられない社員もいたことから、18年に働く時間を自由に選べるフルフレックス制度を導入した。
"眠れる"会社は効率性を高め、優秀な人材もひき付けた。CD販売から定額制のストリーミング配信へと収益構造が激変する業界にあって、同社は20年まで7年連続で業績を伸ばしている。
人口減少局面に突入する日本。労働力人口が減る中、個々の生産性を高めていくことは、グローバルに渡り合う不可欠な条件だ。だが、長時間労働を前提としたビジネスモデルから抜け出せないでいる。
経済協力開発機構(OECD)の21年版調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟国のうち30カ国で最下位。全体平均の8時間24分とほぼ1時間もの差がある。厚生労働省が20年に公表したデータでも、20代以上で6時間未満の睡眠だった人が39%だった。
日本の経済損失は年15兆円。米シンクタンク「ランド研究所」が16年、睡眠不足の影響をもとにはじき出した試算だ。国内総生産(GDP)に換算した損失の割合は2.92%で、調査対象の5カ国でワースト1位を記録した。
「睡眠はビジネスリーダーの必須スキル」。医師の資格と経営学修士号(MBA)を持つ経営コンサルタント、裴英洙(はい・えいしゅ、48)は断言する。良い眠りは思考の整理や記憶の定着を助け、想定外の事態にも対応できる一流のリーダーの条件である知力と体力を下支えする。
医療機関の過酷な労働環境を知る裴が説くのは、部下の睡眠マネジメントの大切さだ。普段から睡眠状況を共有していれば、ミスなどが生じた際にも、叱責で終わらずに体調面からも改善方法を探れるようになる。「社員の健康に配慮する『健康経営』が注目されるなか、心身の健康を監督する上司の責任は大きくなっている」と指摘している。

⚫️2021.9.7日本経済新聞📰

【サマリー】
コロナのワクチン接種証明運用検討

【思ったこと】
コロナのワクチン接種証明の運用は
VUCAワールド、労働力人口減少等と並ぶくらい、
現時点においては、経営において重要で動向をきにしておくべき外部環境

【記事全文】

新型コロナウイルスワクチンの接種証明書を巡り、政府が近くまとめる日本国内での活用方針の原案が6日分かった。民間が提供するサービスなどで、店舗や会場の入場時に提示を求めることが可能だと明記した。
接種証明書の活用は「幅広く認められる」とし、具体例に商品の割引や特典の提供などをあげた。就職や入学といった場面でワクチン接種を要件とするのは不当な差別にあたる可能性が高いとも指摘した。
政府は12月に接種証明書をスマートフォン向けに発行する。QRコードを表示して利用する仕組みを想定し、国内での活動に使う可能性も探る。申請もオンラインで済むようにする。
政府は6日、首相官邸でデジタル社会推進会議を開き、接種証明書のデジタル化を巡る議論を始めた。デジタル庁が取り組む重点計画に盛り込む。
同計画にはオンライン診療の推進も盛る。教育や決済などの分野でもデジタル化を進め、データセンターの国内拠点の整備も掲げる。議長の菅義偉首相は「縦割りに陥らず年末までに策定し、着実に成果をあげていくように」と指示した。
同会議はデジタル庁の設置法で規定した新しい会議で全閣僚からなる。

⚫️2021.9.3日本経済新聞🗞
「サマリー」
経済産業省
中小企業における、コストの価格転嫁について調査
労働コスト増加分等

「思ったこと」
価格転嫁できてたら
そんなに苦労しない(*´꒳`*)
強気に出れる立ち位置なら、下請けさんでも価格転嫁できるけど、それは現実的にまれ^_^

「記事全文」

経済産業省は下請けの中小企業が労働コストなどの増加分を納入価格に転嫁できているか、実態を調査する。10月には最低賃金の引き上げで人件費の増加が見込まれる。納入先の大企業が転嫁をどれだけ受け入れているかを業種別にランク付けして公表する。適切な価格転嫁によって賃上げと物価上昇の好循環をめざす。
経産省は2日、経済団体の首脳や大小の企業経営者による会合を開いた。
出席した梶山弘志経産相は大企業に対し「得た利益を価格交渉により(下請け企業と)適正に分かち合うことが全体の競争力強化につながる」と述べた。経団連の十倉雅和会長は「会員企業に対し、取引先企業との価格交渉に積極的に応じるよう呼びかけていきたい」と応じた。
中小企業の代表として出席したダイヤ精機(東京・大田)の諏訪貴子社長は「受注するのは価格の安いところ。中小企業に価格交渉の余地はない」とし、「(大企業が)価格交渉に応じ適正価格で購入する体制を築いてほしい」と訴えた。

10月には全国平均額で過去最大となる28円の最低賃金の引き上げを控えており、コストの増加を取引価格に転嫁できない中小企業にとってはさらなる打撃になりかねない。10月に中小企業3万社を対象に取引実態を探り、自動車など重点的な調査が必要な業界の企業2000社には、悪質な買いたたきの有無を調べる「下請Gメン」によるヒアリングもする。
調査をもとに、業種ごとに納入先の大企業が中小との価格交渉に応じ適正取引が進んだ度合いを点数化して示す。転嫁が進みやすい業種とそうでない業種をランク付けし、2022年初めをめどに公表する。
不当に低い取引価格の押しつけや契約した納入価格の一方的な減額など、下請法に違反する事例は公正取引委員会と連携して是正する。適正な取引を進めている事例については大企業の社名も含めて公表する。
受注契約と納入価格は複数社の見積もりを比較する「相見積もり」で決まることが多く、中小は受注するために納入価格を低く抑えがちだ。20年に経産省が実施した調査では、人件費の価格転嫁が必要な中小企業のうち、できた企業は48.1%と半分に満たなかった。経済環境の変化を理由に納入価格を引き下げる「協力依頼」を受けた中小企業は全体の41.6%だった。
人件費の上昇を価格に転嫁できなければ企業収益が圧迫され、賃上げは進まない。結果として消費は伸びず、大企業も製品の価格を引き下げざるを得なくなる。
大企業を対象とした経産省の調査では2302社のうち51.1%が下請け業者に求めることにコスト削減対応を挙げた。低価格路線の悪循環を断ち切るためにも、適正な取引の促進が急務だ。

210826日経

企業への手厚い支援は自助努力の意欲をそぎ、その企業の競争力を弱める危険をはらむ。とりわけ中小企業に対しては支援が行き過ぎる傾向があるだけに、注意しなければならない。
コロナ禍のなか、10月には最低賃金が大幅に引き上げられる。政府は中小企業の負担を和らげる各種の施策を打つ考えだ。すでに、最低賃金に近い水準の賃金で雇う従業員が一定割合いる企業を対象に、設備購入などへの補助金の受け付けを始めた。
従業員への休業手当の費用を助成する雇用調整助成金は上限額の引き上げなどの特例措置を11月末まで延長する。自民党は中小企業に対して「大胆かつ総合的な支援策が必要」としている。
もちろん、業態転換や業務のデジタル化の支援など、競争力向上の後押しは意味がある。問題は、成長力を失った企業を延命させるケースが少なくないことだ。
2021年版の中小企業白書によると、中小企業は製造業も非製造業も従業員1人あたりの付加価値額が横ばいを続けている。
背景には政府の過保護がある。中小企業は税制や助成金での優遇を受けやすくしてきた。いたずらに企業を延命させ、新規参入を阻んで生産性の低迷を招いている。
競争重視へ中小企業政策の転換が求められる。競争原理が働くのを妨げる過度な支援はやめ、企業の新陳代謝の促進に軸足を置くべきだ。いわゆるゾンビ企業を生まない工夫が要る。
重要なのは規制改革だ。成長分野への企業参入を阻んでいる規制を見直し、新事業に挑戦する中小企業を増やさなければならない。低賃金の労働力に頼らずに済む企業が広がることにもつながる。
親族内での事業承継をしやすくするため贈与税や相続税の支払いを猶予する制度ができたが、第三者への企業売却を進みにくくしている面がある。再編を促すため、経営者が示す経営計画や成長戦略を精査のうえ、納税猶予の可否を判断する仕組みにすべきだ。

210726日経

日本政府が2050年カーボンニュートラル実現を宣言し、30年度の温暖化ガス排出削減目標(13年度比)を46%に引き上げ「さらに50%の高みを目指す」ことを歓迎する。日本は温暖化ガスの9割がエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)で、エネルギー変革の道筋を示せるかがカギとなる。
日本は省エネがすでに進み、国土の狭さから再生可能エネルギー普及が難しく、削減へのハードルが高いとする意見も聞かれる。
しかし実際には固定価格買い取り制度の導入以降、普及は大きく拡大し将来の潜在力も大きい。世界自然保護基金(WWF)ジャパンが民間調査機関に研究委託した試算では、既存の省エネ技術であるインバーターや高効率照明、建物断熱化の進展などで30年に15年比で2割以上の省エネが可能だと示された。政府のエネルギー基本計画の目標の2倍にあたる。省エネ投資は年約15兆~20兆円に及ぶ化石燃料の輸入費用を減らし、すぐに投資回収できる、最も費用効率的な経済対策である。
太陽光や風力も電力需要を満たすのに十分な潜在力があることを複数の研究報告が指摘済みだ。WWFの試算では30年までに太陽光1億6千万キロワット、風力4200万キロワットを導入すると同時に、石炭火力を廃止しつつ液化天然ガス(LNG)火力の稼働率を上げることで電力需要を十分に満たせる。
原子力発電は現状で10基未満しか稼働しておらず、30年に電力供給の2%前後にとどまると見込んだ。それでもCO2排出半減が可能となる。省エネと再エネ導入に必要な追加的費用は国内総生産(GDP)の1%強で、投資の多くが国内に循環し経済を潤す。
30年以降は、今の技術で脱炭素化が難しい燃料や産業用高熱需要のための技術革新が必要となる。まずは電気自動車の普及など燃料需要を電気で賄うことを優先。そして再エネの出力変動で発生する余剰電力を使って「グリーン水素」を製造し、その水素で燃料や熱需要を満たすことでカーボンニュートラル実現が視野に入る。
重要なことは30年の目標を確実に実現する施策と、50年ゼロを目指す技術革新を明確に区別し、両方の道筋を早期に示して産業界に明確な指針を与えることである。

210720日経

温暖化ガス排出を実質的になくすカーボンゼロの取り組みで世界の企業が選別され始めた。動きが鈍い企業は退場を迫られる。脱炭素を軸に経営を刷新できるか。グリーントランスフォーメーション(GX=緑転)が企業価値を決する。

BASFの独ルートヴィヒスハーフェンの石油化学コンビナートは東京都中央区とほぼ同じ広さ=同社提供
ドイツ西部ルートヴィヒスハーフェン。ライン川に沿って独BASFが運営する、世界最大規模の石油化学コンビナートが広がる。ガスや石油を燃やし、高温で製品をつくる石油化学にとって二酸化炭素(CO2)は宿命だ。ここだけで日本の290万世帯分に相当する年間800万トンのCO2を排出する。
「化学の電化を進める」。マルティン・ブルーダーミュラー社長は5月、化石燃料でなく電気で高温をつくる生産方法への転換を表明した。CO2を出さない再生可能エネルギーの電気が大量にいる。専用の風力発電所の建設を打ち出した。
製造業自ら発電
電力大手の独RWEと共同で北海に建設する洋上風力の出力は原発2基分に相当する200万キロワット。2030年の稼働を目指した投資額は40億ユーロ(約5200億円)以上で、BASFは最大49%を出資する。発電量の8割をBASFのコンビナートに直接供給する。
製造業が自ら大型発電所の建設に動くのは珍しい。6月にはオランダ沖の洋上風力発電所にも約2100億円を投じると決めた。ブルーダーミュラー氏は「いかに早く再生エネ電力を入手できるかに脱炭素のスピードがかかっている」と説く。急ぐのには理由がある。
「炭素負債」は約4700兆円――。炭素税や排出量取引などCO2排出に価格をつけるカーボンプライシング。本格導入した場合、CO2排出量の多い世界の主要1000社は50年までに計42兆ドル超を負担する。電力やエネルギー、鉄鋼、セメント、化学などが上位を占める。
地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を達成するには炭素価格(総合2面きょうのことば)をいくらにすればいいのか。国際エネルギー機関(IEA)は40年に先進国で1トン140ドル(約1万5400円)にする必要があるとはじく。
日本は揮発油税などを含めても同35ドル、米国は同16ドルで大幅な上昇となる。企業が対策しなければ、支払う必要のある「負債」が積み上がる。
炭素価格が140ドルの場合、仮にCO2排出の削減が進まず、負担軽減措置もなければどうなるのか。単純計算で1000社のうち業績を分析できる892社の63%が最終赤字に転落する。

排出削減を先送りするほど苦しくなる半面、先行すれば果実も大きい。どれだけ速くGXを実現できるか。欧州では激しい競争が始まった。
「30年までに世界有数のグリーンエネルギーメジャーになる」。洋上風力発電の世界最大手、オーステッド(デンマーク)のマッズ・ニッパー最高経営責任者(CEO)は6月、こう宣言した。
国営石油・ガス会社から再生エネ会社に転換した同社は、石油メジャーに代わる「グリーンメジャー」を目指す。約6兆1千億円を投じ、再生エネの合計出力を30年までに現在の約4倍の5千万キロワットに増やす。
イタリアの電力大手エネルやスペイン電力大手のイベルドローラも30年の再生エネの目標は1億2千万キロワットと9500万キロワット。オーステッドをはるかに上回る。
3社の合計時価総額は16年には英BP、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、仏トタルの欧州石油大手3社の合計の4分の1だったが、20年秋には一時逆転した。
石油メジャーも必死だ。トタルは5月、社名を「トタルエナジーズ」に変更し、石油依存の脱却に着手した。30年の再生エネ導入目標は1億キロワット、世界のトップ5を目指す。BPも30年に5千万キロワットの目標を掲げた。
速さ欠く日本勢
日本企業の動きは心もとない。東京電力ホールディングス(HD)の再生エネ出力は計1000万キロワットと現時点でトタルを上回るが、30年代前半までに最大1700万キロワットと逆にトタルの6分の1。ENEOSHDも30年ころまでに数百万キロワット。時価総額は電力10社にENEOSと東京ガスを足し、ようやくオーステッドに並ぶ。
「(カーボンゼロの)変化に迅速に適応できない企業は企業価値が低迷し、信頼を失う」。世界最大の運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは1月、投資先企業への手紙で警告し、カーボンゼロに向けた戦略を開示するよう求めた。GXを促す勢いは広がり、加速している。
脱炭素の実現へ周到な計画や準備はあるか。技術の取捨選択はできているか。人材は足りているか。GXが問いかけるのは経営の優劣そのものだ。かつて省エネで世界をリードした日本企業はGXで再び輝くことができるだろうか。

210719日経

日本経済新聞社は売上高100億円以下の中堅上場企業「NEXT1000」を対象に、2021年3月期の売上高純利益率を調べ、20年3月期比の改善幅が大きい順にランキングした。新型コロナウイルス禍のなか、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用し、顧客の業務効率化を後押しする企業が上位に目立った。(関連記事NEXT1000面に)
1位になったのは法人向けシステム開発のオプティムで、業務端末を遠隔管理するIoT関連サービスが伸びた。在宅勤務の需要を取り込んだ。21年3月期の連結売上高純利益率は16%と14.7ポイント改善した。
2位は中小企業向けに営業支援システムの提案などを手掛けるライトアップで、単独売上高純利益率が20%と12ポイント近く改善した。3位はAI inside(AIインサイド)で36%と9.8ポイント伸びた。手書き文字を人工知能(AI)で読み取り、クラウド上でデータ化するサービスが好調だった。

210628日経
営業利益増加しているのは、IT等

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73321870Y1A620C2MM8000

200123日経

パワーハラスメント(パワハラ)への対応が企業経営のリスクになってきた。国際労働機関(ILO)は2019年、職場でのハラスメントを全面的に禁止する国際条約を採択した。日本も6月から企業に防止措置を義務付ける。パワハラを防がないと、企業の信頼低下や顧客離れにつながる恐れがある。

厚生労働省は6月から大企業に相談窓口の設置やパワハラ禁止の就業規則への明記、相談者のプライバシー保護の徹底などを義務付ける。対応している企業は多く、相談窓口を設けている企業は73%にのぼる。大手メーカーの人事担当者は「これ以上何をすればよいのか」と話す。
パワハラに関する相談は増えている。18年度に全国の地方労働局などに寄せられたパワハラなどの相談件数は、前年度比14.9%増の8万2797件と過去最高を更新した。エン・ジャパンの調査では35歳以上の82%がパワハラを受け、このうち3人に1人が退職を決断した。パワハラ対策が不十分な職場では人材の流出が起きる。
企業や上司が悩むのはどのような行為や発言がパワハラになるのかという線引きだ。厚労省は19年末、具体例などを示した指針をまとめた。
指針は裁判でパワハラと明確に認定された事例を中心に構成した。正式決定までに実施したパブリックコメント(意見公募)には異例とも言える1139件もの意見が殺到した。多くが見直しを求める声だったという。
例えば「労働者の能力に応じて一定程度業務内容や業務量を軽減する」ことはパワハラに該当しないとした。「能力に応じて」や「一定程度」などの解釈はあいまいだ。
企業がリストラを進めるときに組織的なパワハラが起きやすい。「残っても仕事はないと言われた」。リストラを進める大企業の社員は明かす。
最近では好業績のうちに退職者を募る「黒字リストラ」が増えている。東京法律事務所の笹山尚人弁護士は「退職勧奨自体は合法だが、(解釈の余地が残る)厚労省の指針に沿えば大丈夫だと誤解する可能性がある」と指摘する。
SNSで性的被害を告発する「#MeToo」運動の盛り上がりなど企業を告発したり実態を暴露したりする事例も増えている。SNSでパワハラの実態が拡散され「炎上」すれば、企業の信頼低下につながる。
海外は厳罰化の流れにある。米国のEEOC(雇用機会均等委員会)は1月、保険会社ジャクソン・ナショナル・ライフで、複数のアフリカ系アメリカ人に対する嫌がらせやセクハラがあったとして計22.5億円を支払うことが決まったと発表した。米グーグルでは18年、ハラスメントを理由に2年間で経営幹部を含む48人を解雇した。フランスやスウェーデンなどの諸外国では、職場でのいじめや嫌がらせを防ぐ措置を講じるよう企業に義務付けている。
日本は問題行為がハラスメントと認定されなければ昇進することもある。個人よりもチームで働くことが多いため、ハラスメントを未然に防ぐ取り組みが急務だ。

200616日経

コロナと企業 変わる土俵(1) 進化か退場か、迫る覚悟
崩れる成功モデル 危機生き抜く3条件
2020年6月16日 2:00 [有料会員限定記事]






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新型コロナウイルスの感染「第2波」が懸念される主要国。企業は感染予防という新たな制約が課され、戦う土俵は変わる。進化か、退場か。危機を乗り切るにはビジネスモデルの転換が欠かせない。適応力、デジタル、耐久力――。この3つを備えた企業だけが生き抜ける。

10日、米スターバックスが今後1年半で北米で既存の店舗を最大400店閉める方針を明らかにした。コロナ収束後も店内飲食を求める顧客数はかつての水準に戻らないとみるからだ。代わりに増やすのが持ち帰り専門店「スターバックス・ピックアップ」。スマートフォンのアプリで注文と決済を済ませた顧客に商品を渡す。店舗はそれだけの役割になる。
変化への適応力

コロナの再流行を前提に動く企業。新たな環境への適応を探るが、「3密(密閉、密集、密接)」回避の制約は競争環境をがらりと変える。
国際航空運送協会(IATA)がこんな試算を示す。航空会社が乗客の社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保つために座席数を3分の1減らして運航すれば、運賃を5割前後引き上げなければ赤字になる――。
安全にかけるコストを利用者に求めれば、客足が遠のきかねない。自社で負担するにも限界がある。均衡点をどこで見つけ出すか。
航空機に限らない。小売店はより多くの客を呼び込むことで利益を上げる稼ぎ方が通用しなくなる。工場で従業員同士を離して作業させれば、効率は落ちる。航空機エンジン部門で1万人超の人員削減に追い込まれた米ゼネラル・エレクトリック(GE)のラリー・カルプ最高経営責任者(CEO)は覚悟する。「現実を受け入れ、勝ち方を再定義し、計画を実行する」
日本企業は立ち止まっていられない。
世界の上場企業決算を集計したQUICK・ファクトセットのデータ(金融を除く)によれば、日本企業の1~3月期の最終損益は前年同期比99.5%の減益。減益幅が69.8%にとどまった米国などより痛手が深い。新型コロナの第2波が到来すれば、赤字企業は増えかねない。
デジタルで明暗

米国では物理的な移動や接触を伴わずにサービスを提供するデジタル企業が利益を押し上げた。時価総額に占めるIT(情報技術)・ネット企業の割合も3月末時点で21%。リーマン・ショック直後の2009年3月末より6ポイント高い。日本では時価総額の過半を占めるのは今も自動車を中心とする製造業だ。

米国では非IT・ネット企業がデジタル化を進めて新たな土俵に上がろうと動く。
4日、米オハイオ州で新しい物流施設を当初計画より2カ月早く立ち上げたと発表した米衣料品大手ギャップ。ロボットや搬送システムで工程の多くを自動化し、1日に最大100万点の商品を扱えるようにした。
作業員を減らして新型コロナの感染を防ぐと同時にネット通販向けに伸びる需要の取り込みを狙う。店舗休業で2~4月期の売上高が前年同期比で4割減り、業績は厳しいが、必要な分野への投資は惜しまない。
財務上の「貯金」

日本の企業にはやり方を変える力はあるのか。
QUICK・ファクトセットによれば、財務の健全性を示す、自己資本に対する有利子負債の割合は3月末で0.74倍。世界平均の1.02倍や自己資本を減らして株主還元を優先した米国企業の1.24倍より低い。リーマン危機時に資金繰りが窮した経験から自己資本を積み上げた結果だ。
大和総研は日本の国内総生産(GDP)がコロナ前に戻るのは24年以降と予測する。足元では財務に余力があっても、景気低迷が長期化すれば、いずれ「貯金」は底をつく。耐久力のあるうちに、新しい環境に適応し、デジタル時代の稼ぎ方を身につけられるか。新型コロナが覚悟を迫る。

200617日経

かつてソニーの「顔」だったテレビ製品。今も年900万台強を販売しているが、需要に供給が追いつかない状況が続く。新型コロナウイルスの影響でマレーシアの自社工場やメキシコ、スロバキアの委託先工場で一時稼働が停止。4月下旬から順次再開したものの、部品の調達遅れが響く。

国ごとに強みのある製品に集中し、国境をまたいで売買することが、それぞれの利益を最大化する――。英経済学者デビッド・リカードが説いた自由貿易の利点を追い求めるかのように企業はグローバルなサプライチェーン(供給網)を築き上げてきた。
米アップルのスマートフォン「iPhone」の部品調達先は上位200社だけで28カ国・地域に及ぶ。ソニーもコスト優先で国境をまたぐ長いサプライチェーンを構築してきた。
新型コロナがその供給網を切り刻んだ。2011年の東日本大震災などで一部寸断することはあったが、今回はパンデミック(世界的流行)。モノの流れが世界で一気に滞った。
全世界でストップ

「世界の工場」である中国が感染源になったことも「前例のない危機につながった」と野村総合研究所の寺坂和泰氏は話す。米サプライマネジメント協会(ISM)の調査では約75%の企業が中国などからの調達が滞ったと回答。米国は医療品で中国依存度の高さが浮き彫りになりトランプ政権が生産の国内回帰を米企業に迫る事態にもなった。
新型コロナ感染がいつ終息するか見通せないなかで、企業は供給網の寸断リスクをこれまで以上に意識する。トヨタ自動車の白柳正義執行役員は「拠点の分散は必要。拠点間でいかに早く生産を切り替えられるか考えていく」と話す。
机の上に並ぶのはモーター部品。その隣には部品の生産地を表す小さな旗が立つ。「こうすると、どの地域に生産が集中しているか一目で分かる」。モーター大手の日本電産の永守重信会長が取り組むのは部品調達先の点検だ。40カ国以上に進出しているが、「全ての拠点が影響を受けるとは、さすがに想定してなかった」。調達網を広げ、寸断リスクに備える。
寸断リスク意識

供給網の再構築は米中摩擦の激化など、政治的な分断リスクに対応するためにも欠かせない。労賃の安いところで集中生産するのではなく、需要地の近くで生産する「地産地消」は一つの解。先進国に生産拠点を戻す選択肢も出てくる。
独シーメンスのローランド・ブッシュ副最高経営責任者(CEO)は「デジタル化が重要な役割を果たす」と強調する。電子制御機器の独工場ではデジタル活用で75%の自動化率を達成するなど、労賃の安さに頼らない生産基盤を作り上げてきた自信がにじむ。
新型コロナは工場での生産性競争のハードルを一段と引き上げた。グローバルな供給網を揺さぶりかねない米中対立も浮上する。リスクとコストのバランスを取りながら供給網を進化させることが求められる。

200618日経

建設会社勤務の30代女性はコロナ禍のさなかの在宅勤務に疲れ果てたという。家の中には手がかかる2人の幼児。それでも会社は朝8時半から夕方5時半までの勤務を求めた。苦肉の策として彼女が仕事場にしたのが、自宅前に駐車した車の中。家の中で遊ぶ子どもたちを気にかけながら業務を続けるしかなかった。
コロナ禍をきっかけに日本で広がるテレワーク。定着を目指す企業は多いが、オフィスと同じような時間で縛る働き方は難しい。
本社勤務のほぼ全員がテレワークにシフトしたカルビー。すんなりと移行できたのは2009年から成果主義の報酬制度を順次取り入れてきたことが大きい。働く場所や時間は社員の自由。具体的な数字に基づいて会社と交わす「契約」の達成具合で給料が決まる。
「ジョブ型」進まず

さらに進めるのが富士通だ。あらかじめ職務内容や求められる能力を明確にした上で、その仕事の達成具合で評価する「ジョブ型」を課長職以上の約1万5千人を対象に20年度中に導入する。その後、一般社員にも順次、広げる計画だ。
もっとも、ジョブ型への転換は簡単ではない。5月に国内約3万1千人を対象にジョブ型を本格導入すると発表した日立製作所は10年以上かけて取り組んできた。

同社がジョブ型への移行を探り始めたのは、08年のリーマン・ショック直後。グローバル人材の獲得には日本型雇用からの脱皮が必要との判断からだ。グループ管理職の約5万のポジションを同じ尺度で評価・処遇する体制を整えてきたが、それでも厳密なジョブ型はデジタル関連など一部の部署にとどまっていた。
労基法が制約に

ジョブ型ではそれぞれのポストに求められる能力やスキルが明確になる一方、社員にそのスキルや知識をどう身につけさせるかが課題になる。日立の中畑英信執行役専務は「社内教育の体制を時間をかけて整えてきた」と振り返る。
日本企業はこれまで社員教育にお金をかけてこなかった。研修といっても日常業務を通じて経験を積ませる職場内訓練(OJT)が主体。国内総生産(GDP)に占める企業の能力開発費はわずか0.1%。米企業の20分の1の水準だ。
日本では戦後にできた労働基準法が会社に対して労働者の働いた時間を管理するよう求めてきたこともジョブ型が広がらない要因になってきた。
海外に目を転じれば、ジョブ型は一般的だ。その先を探る動きもある。
コロナ禍を契機に世界で約2千人の従業員全員が在宅勤務に移行したクラウドサービスの米ボックス。アーロン・レヴィ最高経営責任者(CEO)は「ホワイトボードの前で同僚とアイデアを出し合うことが、新しいことを始めるのに役立つと感じるようになった」と明かす。思い描くのはオフィスでの仕事とテレワークがより柔軟に絡み合った働き方。イノベーションを生む方法を見据える。
工場労働を前提とした「時間給」に縛られては日本は世界から取り残されかねない。働き手を時間から解き放つときが迫っている。

200619日経

米国で新型コロナウイルスの感染者が急増した3月。米ゼネラル・モーターズ(GM)は医療現場で不足感が強まった人工呼吸器の生産に名乗りを上げた。頼ったのは米ベンテック・ライフ・システムズ。持ち運び可能な小型軽量型を開発したスタートアップだ。
創業10年足らずで規模が小さいベンテックの生産能力は月数百台程度。そこにGMが大量生産のノウハウを注ぎ込んだ。8月には米政府から受注した3万台を供給し終える見通しだ。


海外素早い対応

ワクチンも治療薬もないウイルスとの戦い。この危機に海外では企業やスタートアップ、大学などが知恵を出し合って立ち向かう動きが広がった。
4月末に欧州連合(EU)の欧州委員会が開いたビジネスアイデアのコンテスト「ハッカソン」で高い評価を得たのが、頭にかぶると、内蔵センサーが即座に体温や血中酸素、呼吸数を検知するヘッドギアだった。医師や看護師が安全な距離から容体を確認でき、感染リスクの軽減に役立つ。
開発したのはハンガリーやオランダ、スウェーデンなどの学生とエンジニアからなる6人のチームだ。ロボット工学やデータサイエンスの知識やスキルを持ち寄った。「2020年末には改良した試作品を実際の病院で試験導入したい」と開発チームのピーター・ラカトシュ氏。すでにスペインの病院から引き合いがあるという。
医療に限らない。
バルト3国の一角、エストニア。3月中旬に企業同士で従業員を融通し合う「労働シェアリング」サービスが始まった。提供するのはレストランや小売店などの経営者が集まって設立したシェアフォースワン。コロナ禍で従業員の仕事がなくなった企業と、集荷や配達などで人手不足になった企業を短時間でつなぐ。
このアイデアも政府後援のコンテストで見いだされた。失業対策に役立つとみた政府は同社に資金を提供。誰でも無料で利用できるようにした。
アイデアを幅広く募り、国境や業種も超えて連携して危機に素早く対応する世界。翻って日本はどうか。動きは鈍い。
連携進まぬ日本

新型コロナ感染者との濃厚接触を知らせるアプリでは企業の枠を超えて集まったエンジニアが開発する準備をしていたのに政府は生かせなかった。官民連携を隔てる壁が5月の感染拡大期に必要なアプリの投入を1カ月以上遅らせた。
欧米では組織の壁を崩して連携するオープンイノベーションの土壌がある。産学連携でイノベーション創出に取り組むドイツでは、産業界の研究開発費に占める大学への拠出割合は4%近く。日本は0.5%に満たない。学習院大学の米山茂美教授は「外部連携の体制が不十分な日本ではイノベーションを生むにも時間がかかる」と指摘する。
知と知をつなぎ、いかに革新の種を育てる環境を整えるか。開かれた知の共有が、危機克服の活力になる。それは、革新のスピードが問われる時代の生き残りの条件でもある。

200622日経

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛などを受け、人々の働き方が急速に変化している。なかなか踏み切れなかったテレワークが広がり、本当に必要な業務も洗い出されている。私は「テンプスタッフ」などのブランドで人材サービス業を事業展開しているが、仕事の進め方や人事評価のあり方といった、企業の取り組むべき課題が明確になってきたと痛感する。
新型コロナの影響として、2008年のリーマン・ショックを超える経済への打撃が想定される。収束後も、コロナ危機以前のような働き方には戻れないだろう。企業も個人も、働き方の再構築を迫られる。
長寿化や技術の進化、産業構造の変化などに伴い、世界の労働市場は変革を遂げている。日本でも人口の減少をはじめ、長時間労働などを前提とする日本型雇用の綻びや同一労働同一賃金の適用を含む働き方改革関連法の施行など、劇的な変化の渦中にある。
日本人の働く価値観も、最近10年ほどで大きく変わった。偏差値の高い大学を出て、有名な会社に入り、定年まで勤め上げるのをよしとする価値観は今や過去のものになりつつある。幸せの基準は画一ではなく、人の数だけ存在するはずだ。
終身雇用や年功序列、新卒一括採用、定時出勤など企業が主体の考え方も通じなくなる。経済の成長と人生の幸せの追求を実現するには、生活様式などの変化に合わせ、個人がどう働くかを選ぶという発想の転換が必要になる。
働き手は専門性を持ち、自立して業務に取り組み、適切にアウトプットできるかが問われる。企業も従来の意識や制度を変えなければ、人材の確保は難しくなる。企業は就業する時間や場所を自由とし、社員は個別に目標を設定した後は各自のやり方で進め、結果を出す。こうした仕事の流れが本来の成果主義ではないか。
加えて、企業は社員の悩みを受け止めて課題を洗い出し、各人の取り組み方をみつけられるよう支援する必要がある。支援するためには、共感力が欠かせない。強い組織の必須条件は、社員が満足感を得て働けることだと今こそ認識したい。

20622日経

中小企業の中には、規模の成長は一定程度にとどまるものの、差別化された製品・サービスを提供し、十分な収益を上げる企業が存在します。こうした企業はサプライチェーンの中でも重要な役割を担っています。また、地域の生活に必要不可欠なサービスを提供し、安定的な収益を実現している企業もあります。
このような企業は経営戦略上の方向性が明確で、効率的な経営を実現しているといえます。それぞれの役割や機能を正しく評価したうえで、対応する政策支援のあり方を検討することが重要です。
このような視点は、足元の新型コロナウイルス感染症のような、大規模ショックが発現した場合に特に重要です。過去30年程度を振り返っても日本経済は、不動産バブルの崩壊とその後の銀行危機、リーマン・ショックに端を発する世界金融危機、東日本大震災以降の相次ぐ自然災害に襲われました。
大規模なマクロショックに対して中小企業は相対的に脆弱です。大企業に比して手元流動性の蓄積が十分ではなく、借り入れ余力も限られるケースが多いためです。平時であれば問題なく事業活動を営める企業でも、強い退出圧力にさらされる危険性があります。ショックの影響があっても、事業を継続できる収益を将来にわたって計上できるような企業が、非効率的な退出を余儀なくされることは避ける必要があります。この意味で金融面での適切で円滑な手当が重要です。
こうした大規模ショックへの政策的対応では、ショックの種類を正確に把握することも重要です。金融機関のバランスシートに対して大きなマイナスの影響を与えた不動産バブルの崩壊、主として海外での需要ショックであった金融危機、特定エリアで大規模な物的被害が生じた東日本大震災といったように、具体的な中身は異なります。
コロナショックは国内外での需要の大幅な減少と、続いて生じる供給ショックがその中身です。サプライチェーンを通じたショックの波及や増幅メカニズムを正確に理解し、必要な対応の中身と規模を検討することが期待されます。

200623日経

中小企業の未来を展望するうえで、補足的なデータを確認しておきましょう。近年、日本を含む先進諸国では「ビジネスダイナミクスの低下」という共通の現象が見られます。本連載で確認してきた通り、生産性伸び率の低下、有形・無形資本に対する投資の鈍化、若い企業の低いプレゼンス、労働分配率の低下などがその具体的な中身です。
ニューヨーク大学のトマス・フィリポン教授は著書の中で、米国におけるこうしたビジネスダイナミクス低下の理由として、一部企業の過度なシェア拡大を指摘しています。こうした解釈は、集中度がある程度上昇することは経済全体にとって良い効果を持つ一方で、過度な集中度の上昇は最終的にはビジネスダイナミクスの低下をもたらす、という理論モデルの含意とも整合的です。
筆者を含む研究チームは、東京商工リサーチが収集した100万社超に及ぶ企業レベルのデータと、経済産業研究所が公開している産業レベルデータ(JIPデータベース)を用いて、日本経済の近年のビジネスダイナミクスを多面的に描写する取り組みを進めています。そこで明らかになった重要な事実は、日本の企業集中度や利益水準は米国などに比して低位にとどまっているということです。また、一部業種では集中度の上昇と生産性が正の相関を有しているというパターンも見られました。
つまり、米国で問題視されているビジネスダイナミクスの低下をもたらす「悪い集中」とは異なり、日本においては「良い集中」を通じて現在の低いビジネスダイナミクスを改善できる可能性があるわけです。
日本における趨勢的な企業数の減少、少子高齢化、そして足元のコロナショックによる退出圧力などを勘案すると、自然な予想として、各業種での集約が進んでいくことが想像されます。実際に、近年では中小企業から大企業への転職も増えているとされます。一定の集約化によって生産性の改善を実現しながら、米国における「進みすぎた集中」の教訓を踏まえた競争政策の運営を模索することができるというのは、日本の強みかもしれません。

200707日経

東京大学発のスタートアップが存在感を高めている。東大卒業後は霞が関の官庁や大企業に行くのが王道と思いきや「優秀な人ほど起業する」のが今の東大の常識になっている。優秀な人材にとって「出るくい」を生かし切れない旧来型の大組織は魅力を失った。自ら会社を立ち上げ、社会課題の解決に真っ向勝負を挑んでいる。

競技ダンス学生日本一になった福馬さん(左)。自分の力で道を切り開いてきた自負が起業に向かわせた
「新入社員として他の人と同じラインで競うのは嫌だ」――。東大発スタートアップ、TDAI Lab(東京・中央)の福馬智生代表(26)は4年前、工学系研究科修士課程1年生の夏に参加したインターンでこう感じた。就職を考えて大企業のインターンに参加したものの、同世代の学生とワークに取り組むことに気乗りがしなかった。
福馬さんには「頑張ってきた」との自負がある。現在も博士課程に在学中の東大生として学業に取り組むのはもちろん学部生時代の2015年には個人、団体の双方で競技ダンスの学生日本一に輝いた文「舞」両道だ。
東大運動会競技ダンス部は全国優勝常連の強豪で有力選手があまたひしめく。「同じ練習を続けていてもダメだ」と一念発起し、優れた選手に積極的に近づき、技術を学び練習を積んだ。
口コミ評価注目

部活動を引退して進学した修士課程では、コンピューターでのSNS(交流サイト)分析などを扱う工学系研究科の鳥海研へ。プログラミングに触れたことがなかった福馬さんを、鳥海不二夫准教授は「踊ってばっかりいたのでしょ」と一蹴。「見返したい」と奮起し研究室内の課題で一番をとる実力を身につけた。
ダンスでも研究でも自分の力で道を切り開いてきた。だからこそ仕事も「自分の力でやりたい」。16年に立ち上げたのがTDAI Labだ。
取り組むのはネット上の口コミ信頼性評価だ。福馬さんは以前から「価値の決め方」に興味を抱いていた。審判の評価で結果が揺れ動く競技ダンスがきっかけだ。そのころグルメサイトのやらせレビューも問題となった。「自分の興味は社会の課題を解決できる」と事業化に乗り出した。
平均から大きく外れた評価や不自然な言葉遣いの投稿者を人工知能(AI)で見つけ、有用な情報のみを反映した評価を割り出す。目標は「AIで普通の人の力を増大すること」。AIで社会課題の解決を目指す。


2位京大の1.4倍

日本のスタートアップ界で東大の存在感は高まっている。経済産業省の調べによると、19年9月時点の東大発スタートアップ企業数は268社、2位の京都大学の1.4倍だ。ベンチャーキャピタル(VC)、エンジェルブリッジ(東京・千代田)の河西佑太郎代表パートナーは「昔と違って優秀な学生ほど起業する」と指摘する。
アッテル(東京・渋谷)の塚本鋭代表(34)は10年に工学系研究科修士課程を総代で修了し、野村総合研究所を経てスタートアップ企業に転職した。アッテルを創業したのは18年だ。
10年前の東大は、大企業に入るのが当たり前の時代。塚本さんも大企業への就職を選んだ。ルールを守って業務をこなす日々。研究に打ち込んだ学生時代のような熱は感じられず3年でスタートアップ企業に転職した。
塚本さんの運命を決めたのがマネジメントでの挫折だ。活躍を期待して採用した人が思うような成果を上げられない、社員が突然来なくなるなど、問題が続出した。
マネジャーの仕事を離れた塚本さんは採用のデータ分析に取り組んだ。その結果、それぞれにあった接し方や会社で業績を上げる人の見極め方など、感覚ではつかめなかった成果が明らかになった。このデータを使えば、企業や社員の悩みを解決できるのでは――。情熱を傾けられるテーマが見つかった瞬間だった。
今は企業向けに従業員の資質などを分析し、人材を生かすアイデアを提示するサービスを展開する。塚本さんは「将来は世界70億人のデータベースをつくり、人の最適配置を実現したい」と話す。
かつて東大生は国や社会を変える志を抱き、霞が関の官庁や大企業を目指した。今や官庁や大企業は改革する側ではなく変革を迫られる側。東大発スタートアップが社会を変える新たな原動力となろうとしている。

200714日経
新型コロナウイルスの拡大は経済の常識を塗り替え、世界中の国や企業が新しい事業のかたちを模索している。高齢化や働き手不足を抱えた課題先進国の日本。サビついた規制に縛られていては、成長のタネを逃す。コロナ後の世界に向け、行政の発想転換とリーダーシップが今こそ問われる。
新型コロナで外食店の営業が難しくなり、宅配や持ち帰りが一気に増えた。それを背景に国土交通省は4月下旬、タクシー事業者に飲食品の配送を暫定的に認めた。
「食品配送をやるぞ」。三和交通(横浜市)の吉川永一社長は社内チャットで参入を宣言。申請書類には料理などの運搬と記し、シャンプーなどの生活用品もついでに運ぶつもりだった。
タクシー配送、日用品は不可

だが同社が掲示した新サービスのリリースに国交省から待ったがかかった。門戸が開かれたのは飲食品のみで、あくまでもタクシーは人、配送会社が日用品を運ぶのが基本的な判断だ。急増するネット通販に「配送会社も人手不足で夜間配達ができないと聞く。タクシーなら24時間対応できる」(吉川社長)。
人手不足への対策だけでなく、人の密集を避けたり店員を新型コロナの感染リスクから守ったりする手段としても期待が高まる無人店舗。だが究極の感染防止対策も、古い規制の前では無力だ。
「顔をカメラに向けてください」。東京・品川にあるローソンの最新技術を研究する模擬店舗。おにぎりやビールには無線自動識別(RFID)タグがあり、セルフレジで会計を済ませる。顔認証で中高年の年齢はほぼ正確にわかる。「テクノロジーはある。規制が無人化を妨げている」(牧野国嗣理事執行役員)
たとえば乳製品。販売許可の付与は温度管理の徹底が前提となるが、北陸のある自治体は「無人店舗は前例がないので」と慎重姿勢を崩さない。
酒類も難しい。未成年者飲酒禁止法が客の年齢確認を求めているからだ。「その他の必要な措置」を講じれば売れるが、顔認証技術やスマホの情報設定は想定外。もし認められても、稼ぎ時の深夜は国税庁が77年から自動販売機の稼働自粛を指導している。ローソンは2019年の店舗の無人化実験でも深夜の酒類販売は断念した。

初診からオンラインで受診できるなど医療分野では新型コロナが厚い岩盤を崩そうとしているが置き去りの部分も多い。
ロボ導入でも薬処方に上限

「今や質を担保する規制になっていない」。日本調剤の小柳利幸・薬剤本部長が指摘するのは、1日に扱う処方箋40枚に対して薬剤師1人を配置するという厚生労働省の薬局の運営基準だ。処方ミスを防ぐ目的だったが、今は人手不足を解消する技術の足かせとなる。
鹿児島調剤薬局(鹿児島市)は19年夏、3000万円を投じて薬の自動棚出しロボットを導入した。2500種類の在庫から瞬時に目当ての薬を選び、薬剤師の処方作業を助ける。「15分かかった処方作業が10分になった」と同薬局を運営する文寿(鹿児島県霧島市)の寺脇大社長はいう。
東京理科大学の上村直樹教授は「ロボットの活用で、薬剤師は40枚超の処方箋を処理しつつ患者との対話を増やせるのに」と話す。だが40枚ルールで生産性は限られる。
新型コロナの災いに見舞われても、規制によって生産性を向上させられない。そんな日本を尻目に、人口に占める60歳以上の割合が30年後に40%を超えるシンガポールは産業の省人化を急ぐ。
17年に道路交通法を改正し、公道での無人運転の実験などを認め、19年1月には技術の発達に合わせて規制内容を柔軟に変える方針も打ち出した。米KPMGは同国を自動運転の規制対応で世界1位と評価した。
政府の規制改革推進会議の議長に就いた小林喜光氏(三菱ケミカルホールディングス会長)は「人間の能力を前提に作られてきた法律を、技術を土台に決め直す必要がある」と話す。
新型コロナの感染拡大は産業革命に匹敵するインパクトで働き方や事業モデルの常識を一変させ、ニューノーマル(新常態)を生み出した。イノベーションを起こす素地は整った。大きな厄災をきっかけに、長らく続く低成長から抜け出すことができるか。

0821日経

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のニューズレター「モラル・マネー」8月19日号では、米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「脱・株主第一主義」を宣言してからの1年間の変化について論じた。主な内容は以下の通り。

米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「脱・株主第一主義」を宣言してから1年間が経過した=ロイター
米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「企業の目的(パーパス)」を再定義し、顧客や地域社会など全ての利害関係者(ステークホルダー)を重視しなければならないと宣言して1年が経過した。現時点では、企業の目的という言葉の定義すら固まっていないことが課題として残ったと総括せざるを得ない。
米ハーバード・ビジネス・スクールのレベッカ・ヘンダーソン教授は「ビジネス・ラウンドテーブルの方針転換を通じて、企業がステークホルダーに与える影響を測る方法がないことが明らかになった」と語る。わかりやすく評価する枠組みを作ろうとする取り組みはあまり前進しなかった。
今週、サイード・ビジネス・スクールが中心となった研究グループが、企業の目的をただの発言から具体的な活動に変える方法をまとめたリポート「エンアクティング・パーパス・イニシアチブ(EPI、企業目的の実現を推進する枠組み)」を発表した。
この研究は、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)や英ロンドン証券取引所などが支援し、すでに多くの投資家の支持を集めている。機関投資家業界団体、英インベスター・フォーラムのサイモン・フレーザー会長は、「ミッション、バリュー、パーパスといった言葉が乱立し、企業側は区別がついていない。こうした混乱の解決にEPIのような枠組み作りは役に立つ」と語る。
また、米最大の年金基金である米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)のアン・シンプソン氏の言葉が、EPIの重要性を端的に示している。「世の中は意識の高い発言と温かい言葉、様々な会計基準であふれているけれど、1つだけ足りないものがある。それは、ガバナンス(企業統治)の枠組みだ」

201026日経
⚫️経営学で注目
⚫️両利き経営
⚫️深堀と探索

経営学の世界で近年最も注目されているキーワードが「両利き(ambidexterity)の経営」だ。提唱者の一人で今年初めに来日した米スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授は「資金や人材、ブランドを有する大企業の生命力は強固と思われがちだが、それは錯覚だ」という。
新型コロナをはじめ、デジタル化の加速や米中対立の深刻化など企業を取り巻く環境は日々変わっている。変化の渦にのみ込まれ、破綻はしないまでも、有力企業の地位を長らく保てるのはごく一握りだ。「大企業としての寿命は普通の米国人や日本人より短い」と教授は指摘する。
視界不良の時代に繁栄を続けるカギが「両利き」だ。企業の活動は二つに大別でき、一つが既存事業の「深掘り」。改良を重ね、コストを削り、品質や商品力を磨いて競合を上回るオペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越)を実現する。全国の工場や開発拠点、販売や物流の現場でたゆまぬ努力が続いている。
だが、深掘りだけでは企業成長は永続しない。どんな市場もいずれ飽和点に達し、そこから刈り取れる利益にはおのずと限界があるからだ。
そこで必要となるもう一つの活動が、新たな事業機会の「探索」である。ここで必要なのは上の指示を忠実に実行する人ではなく、時には上司の課題設定さえ疑いながら、果敢に新機軸に挑戦する人材だ。組織はフラットを旨とし、失敗の回避ではなく、やってみることを奨励する。買収を含む外部との連携にも積極的でありたい。
ルーティンを実行すれば一定の成果の期待できる深掘りと異なり、結果が出る(仮に出るとして)のは何年先かもしれず、不確実性に耐える胆力も要るだろう。
つまり深掘りと探索では、やるべき課題や必要な人材、組織文化がまるで違うのだ。両利きの人が右手と左手を器用に操るように、深掘りと探索という2種類の営みを「同じ屋根の下」で同時並行的にこなす。これが成長力不足に直面し、株式市場での低評価に甘んじる日本の大企業が、向き合うべき課題である。

そのために何が必要か、AGCとキリンホールディングス(HD)の事例から探ってみよう。両社とも三菱グループの名門企業。AGCは板ガラス世界最大手(世界の自動車の4台に1台は同社のガラスを搭載)で、キリンもビール界の揺るがぬ巨人だ。
だが、中国勢の台頭や日本の人口減が両社の未来に影を落とし、手をこまぬけば衰退は必至だ。そこでAGCは通信機能を付加した自動車ガラス(同社はこれをモビリティ事業と命名)など3分野を、キリンHDはヘルスケア領域を「探索」事業と定義し、次の会社の柱に育てたい考えだ。
これは相当に高いハードルで、普通にやればほぼ失敗するだろう。既存事業で成功してきたエスタブリッシュメント企業であればあるほど、手慣れた「深掘り」作業に経営資源を集中し、結果の不確かな「探索」を排除しようとする力学が、ときに無意識のうちに働くからだ。「成功という暴君が、企業を過去の囚(とら)われの身にする」とオライリー教授はいう。
過去から「脱却」するには、言うまでもなく経営トップの強力かつ一貫したコミットメントが不可欠だ。会社の催しや幹部会で新規事業の重要性を繰り返し説き、予算や人員を手厚く配分する。そればかりかキリンHDの磯崎功典社長は「自分の時間の7割は新規事業に割いている。既存事業はトップの関与なしでも回るが、よちよち歩きのヘルスケア領域は私が面倒をみないと転んでしまう」という。
時にはトップの意のあるところを示すために、多少手荒なショック療法も必要だ。AGCの島村琢哉社長は就任翌年の2016年に、長年事業をリードしてきた有力幹部を外すなど機微に触れる人事を断行した。「何度言っても自分のスタイルを押しつけ、下を萎縮させてしまう人が若干名いた。そんな人にはドライに対応した」と振り返る。
もう一つのポイントは既存事業と新規事業の適切な距離感だ。経団連は18年に公表したリポートで「本体から離れた『出島』形式の異質な組織を立ち上げ、自由にイノベーションを起こそう」と提言したが、両者が離れるばかりでもうまくない。探索事業を出島にポツンと孤立させるのではなく、既存の事業から必要に応じてマンパワーや「知」を供給することも重要だ。
AGCのモビリティ事業は中国に工場を新設中だが、既存の事業部門から生産技術者を派遣してもらうなど数々のサポートを得ている。キリンHDでもヘルスケア部門の一部商品は子会社キリンビバレッジの流通ルートに乗せて展開する。探索ビジネスの成長に必要な養分は母体企業から送り込みつつ、余計な介入は排除する仕組みがキモだ。

最後に当たり前のことだが、既存事業が十分なキャッシュを生み、余裕のあるうちに「探索」に取り組むことだ。「本業がへたってきたら、新しいことをしたくてもできない。そうなれば会社は終わる」と磯崎社長はいう。
18年に旭硝子から名前を変えたAGCのように、社名から製品名を消す企業が近年目立つ。本業が入れ替わり、証券市場での業種分類が変更された企業も多い。今の本業が10年後の本業である保証のない時代。「両利き経営」の重要性は高まるばかりだ。

201123NewsPicks
⚫️コロナ後マーケティングトレンド5
⚫️デジタルショッピングの継続
⚫️ブランド忠誠の低下
⚫️持続可能性と公衆衛生の両立
⚫️マーケティングのローカル化地方へ
⚫️おうち経済の発達

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、消費者の行動や態度は突如として変化し、企業はマーケティング戦略・計画の変更を強いられた。

米国での新型ウイルス流行が始まって約8カ月がたった今、こうした変化が短期・長期的に及ぼす影響や、この「ニューノーマル(新常態)」に企業がどう適応すべきかが、ようやく見えてきた。

パンデミック後も消費者の態度や行動に影響を与えるであろう破壊的な変化には、主に以下の5つがある。

1. デジタルショッピングの継続

周囲の人々と物理的な距離を保ち、自宅にとどまることが習慣になったことで、消費者全体が買い物の習慣を変えることを強いられた。電子商取引やオムニチャネルサービスの利用は激増し、その勢いはとどまる気配を見せていない。

最新のデータからは、これまで電子商取引を活用していなかった人や頻度が低かった人がコロナ後も利用を続けることで、ネットショッピングの売り上げが169%も増加することが示されている。さらに、自宅への配送や店舗前での受け取り、ソーシャルメディアを通じての買い物など、デジタルでオムニチャネルなサービスの使用が増えた消費者の大部分はこうした行動を将来も継続することが見込まれている。

2. ブランド忠誠度の低下

新型コロナウイルスの流行を受けて起きた全体的な行動の変化は、ブランドロイヤルティの崩壊にもつながった。消費者の半数近くは新しいブランドを試すようになり、3分の1はプライベートブランド商品を選択肢に加えるようになった。




これはマーケティングをする側にとって、買い物客が購入するブランドを切り替えた際にはそれを迅速に把握する必要があることを示している。経済の復興中は、宣伝活動を通じて消費者との関係を強化するブランドが有利となるだろう。

米調査会社フォレスター・リサーチによると、B2Cマーケティングでは2021年、忠誠度と顧客保持のためのマーケティング支出が15%増加し、製品や性能に基づいたマーケティングは縮小すると予想される。

3. 持続可能性と公衆衛生の両立

今後は小売店でのセルフレジの増加など、人との接触を避けられるようにする取り組みが増える見通しだ。再使用可能な包装材に代わり、使い捨て包装材は今後も多用されるだろう。しかし、持続可能性の目標が放棄されるわけではなく、日用消費財企業や小売企業は長期的な脱炭素化に重点を置いた取り組みを維持するだろう。

4. マーケティングのローカル化

都市部を去り、郊外や田舎に移る消費者が増える中、ローカルに特化したマーケティングが活発になるだろう。コンサルティング大手のアクセンチュアによると、消費者の3分の2は主に近所の店舗で買い物をしたり、地元産の商品を購入したりするようになった。

オーディエンスとのつながりを強化する上では今後、地元や個人に合わせたコンテンツがさらに重要になるだろう。マーケティング側が投資利益率の改善に奮闘する中、ローカライゼーションはマーケティングの自動化やデータマイニングも加速させるはずだ。

5. 「おうち経済」の発達

米国人は現在、公私ともに自宅で時間を過ごすようになっており、大手ネット娯楽サービスの利用は急増している。経済活動の再開にあたり、4分の3近くの消費者は過去に外出して行っていた活動を再開させることをためらっている。懸念の対象となっているのは美容室やジム、レストランだけではなく、特にオフィスや公共交通機関、ライドシェア、旅客機など、多数の人が集まる空間だ。



こうした混乱の中、消費者行動は新型コロナウイルス流行が収束/終息後も、それまでの「ノーマル」な生活には戻らないかもしれない。米国人は今後も安全のため、家で過ごす時間が増えるだろう。生活の構造が根本から再形成されることになる。例えば、今住んでいる地域での暮らしを考え直し、田舎に引っ越す人が増え、都市化のトレンドが逆行するかもしれない。

こうした大きな変化により、マーケティング側は顧客に対するこれまでの考えや、顧客とのコミュニケーション方法を再考する必要がある。今後は、オムニチャネルのマーケティング戦略が生き残りに欠かせないものとなる。また、遠隔勤務や「おうち経済」が広まり一般化することで、人々の生活や仕事、買い物の場所は変化する。それによって消費者に対しても新たな形でアプローチすることが必要とされるようになる。





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企業は今後、常に変化する新たなマーケティング環境の中で機敏に行動し、イノベーションを起こし、実験をいとわない心構えを持つことが必要となる。

210526日経

コロナ禍からの回復を見込む各社だが、経営者の声を見渡すと慎重な声が目立つ。再度の緊急事態宣言の影響をもろに受ける業種だけでなく、製造業でも生産や販売面でのリスクが散見される。各社は足元の需要回復に一喜一憂せずに対策も同時に進める考えだ。
慎重な声が多いのが交通や外食だ。ワタミの渡辺美樹会長は「営業損益ゼロを目指すがコロナの感染状況が現状のままなら難しい」、JR東日本の深沢祐二社長は「鉄道利用はコロナ前には戻らない」と想定する。
今期の黒字転換を見込むANAホールディングスの片野坂真哉社長は「カギを握るのはワクチンの迅速な接種」と指摘する。
製造業も「半導体不足や原材料高などのビジネスリスクに直面している」(日産自動車の内田誠社長)。自動車各社では半導体不足による台数影響について、日産が25万台、マツダが10万台、三菱自動車が4万台と見込んでいる。日本電産も今期に最高益を見込みつつも「コロナの感染拡大の状況や顧客の半導体不足の影響を考慮し、(業績予想を)少し保守的に設定した」(永守重信会長)という。
こうした中、各社は収益体質を強固にする手を緩めない。住友商事は「収益の下振れ耐性が弱い事業には徹底的にメスを入れる」(兵頭誠之社長)と構造改革を続ける。JR東は「ワーケーション関連など新しい働き方に合わせたサービスを進める」(深沢社長)。ANAも旅客需要が下振れした場合は貨物便の増便も検討する考えだ。
210604NewsPicks
【独自路線】中小企業ならではの戦い方。「成長」ではないビジネスの勝ち筋
210611NewsPicks
デザイン思考だけじゃ「企業変革」はできないのか
210615NewsPicks
【金言】イチローの言葉に隠れた「個の時代を生き抜くヒント」

210616日経

変異株の登場で新型コロナウイルスの終息の見通しが立たない中、英米や中国を中心に世界経済が回復局面に入りつつある。一方で経済回復が実感できない国もあり二極化が進む。国内でも所得層や雇用形態で経済回復の実感に大きな格差が生じ、見事なまでにK字現象が鮮明だ。
英オックスフォード・エコノミクスによれば、米国の所得上位層と下位層の格差は一段と拡大しているという。新型コロナによって職を失う人々が厳しい生活を強いられる一方で、株価は史上最高値を更新し、高級品の消費が旺盛になっているのはその象徴だろう。
こうした現象は企業経営にも大きな影響をもたらしている。高級時計や宝飾品の売れ行きが好調で、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの売り上げは急伸。今やネスレを上回り欧州企業最大の時価総額だ。
翻ってわが国ではどうか。この2月に約30年ぶりに日経平均株価は3万円の大台をつけたものの、その後は欧米諸国に比べ伸び悩む。背景にはワクチン接種の遅れが指摘されているが、それだけではない。PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている企業が圧倒的に多いことが理由の一つといっていい。
PBRが1倍を下回る理由は、株主から預かった資本を有効に活用できていないこと、投資家が将来の企業価値の向上に確信を持てないことの2つだろう。生産性が低く将来に期待が持てない、と市場が警告しているわけだ。
もちろん全ての上場企業の評価が厳しいわけではない。個々の株価でもK字現象が鮮明だ。時価総額上位にはトヨタ自動車やソフトバンクグループ、ソニーグループなどが並ぶ。金融や電力、鉄鋼が上位を独占していた平成初期とは様変わりだ。また、平成の30年間に企業価値を高めた上位企業にはニトリホールディングス、日本電産、ピジョン、ユニ・チャームなどが名をつらねる。
ここに市場が示唆する企業経営のヒントがある。そのキーワードは独自性の重視(自ら考え抜き他社を参考にしない)、スピード感ある意思決定(フラットな組織)、自由闊達な風土(心理的安全性の確保)などではなかろうか。こうした企業文化が築けるか、市場は冷徹に見つめている。
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