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池袋西武の買収から考える「見えない世論」

池袋西武の買収計画

池袋駅の東口がゴタゴタしているらしい。
西武百貨店のことだ。
ちなみに、西口にあるのは、東武百貨店。なんともまぎらわしい。

さて、その西武百貨店だが、フォートレスとヨドバシカメラの連合軍に買収されるらしい。フォートレスというのはアメリカの投資ファンド。僕がゴールドマンサックスで金利トレーダーをしていた時代に、彼らのマクロファンド(2015年に閉鎖)と金利の取引をして、”かわいがられた”記憶がある。

どうやら、この買収がよく思われていないらしい。
豊島区の区長がこんなことを言っている。

・行政として『1階にはこういう店が入るべきだ』などと申し上げる立場でない。
・地元としては、ヨドバシと西武池袋本店が組み合わさることで街の魅力が増すようなことを望んでいる
・西武池袋本店は池袋の顔であり、区と一緒に文化をつくってきたパートナー。文化の街づくりを継承していただけるか

申し上げる立場でないと言いながらも、「1階にはこういう店が入るべきだ」と言いたそうな雰囲気が伝わってくる。これは、1階にヨドバシカメラが出店することへの牽制だ。

商店会の声なども聞くと、「地元としては、家電量販店はこれ以上池袋にいらない」ということらしい。

ルイヴィトンも反対しているそうだ。目の前が家電量販店になってしまうと、雰囲気が損なわれると。集客してくれていたルイヴィトンが出ていくと大打撃になってしまうという周りの声も大きいようだ。

いろんな話をまとめると、こういうことらしい。

「文化」を守るために、これまで通り、ルイヴィトンのような店が軒を連ねて、ショッピングを楽しめる街であってほしい。
そのためには、ヨドバシカメラのような家電量販店には入って欲しくない。
これが、「地元の声」だ。

この話だけ聞くと、ヨドバシカメラが悪者に見えてくるのだが、、、

消費者の声という世論

さて、西武が買収されたのはどうしてだろうか?
それは、儲からなかったからだ。
一方の買収する側のヨドバシカメラ連合軍は、こう考えている。
自分たちが出店すればまだまだ儲けることができる!

これは、「お金儲けを企む連合軍」VS「地元の声という世論」のような構図に見える。
しかし、そんなことはない。お金儲けもまた世論なのである。それはお金儲けをする側が世論であるということではなく、お金儲けする人たちは消費者の声に耳を済ましているということだ。

ヨドバシカメラが出店して儲かる(と考えている)のは、多くの人がお金を払うから。お金を払うというのは、ある意味、その人がその店を必要としているという意思表示になっている。
誰かが言っていたように「家電量販店はこれ以上、池袋にはいらない」のであれば、ヨドバシカメラがもうかるはずがない。消費によってお金を払う行為は、投票行動のようなもので、多くの人から人気がある店が増えていく。

ルイヴィトンが入っている池袋本店は「文化」ということだが、このルイヴィトンにしても、消費という投票行動の積み重ねによって出店しているに過ぎない。
日本にはルイヴィトンが58店舗ほどある。本場のフランスには17店舗のみ。日本の人口がフランスの2倍であることを勘案しても、大量出店していることは間違いない。フランスの文化を日本に伝えようとしているわけではなく、日本人がお金を払うという投票行動によって、彼らを求めているのだ。

ヨドバシカメラが出店するのもそれと同じで、多くの人に求められている。
もちろん、彼らの目論見通りに、消費者がお金を払うとは限らない。もしかすると、出店しても儲からないかもしれない。
その場合は、世論がヨドバシカメラを求めていなかったことを示している。消費によって形成される世論によって、彼らは撤退をよぎなくされることになる。

と、ここまで、ヨドバシカメラ側を守ることを書いてきたが、「地元の声」の気持ちも分からなくもない。ルイヴィトンが言うように、家電量販店が入ってがやがやすると雰囲気が損なわれる。それよりも、昔からある百貨店の中をショッピングを楽しみたい。

しかし、これは、かなりわがままな話だと思う。

雰囲気の価値

突然だが、僕はお腹を壊しやすい。
「やばい、漏れそう」
というときに、近くのコンビニに駆け込むことがよくある。
いつからか、コンビニがトイレを貸してくれるようになり、相当助かっている。
利用した後は、黙って出ていくことはせず、必ず何かを買うようにしている。使わせてもらった恩義を感じているからだ。

百貨店でショッピングを楽しむのもそれと似ていると思う。いわゆるウィンドウショッピングで雰囲気だけ楽しむのではなく、恩義を感じた方がいいのではないだろうか。何も買わずに時間を潰す客だけがデパートを利用するなら、デパートは潰れてしまう。
ヨドバシカメラが入ると、雰囲気が損なわれるとヴィトンが文句を言っているが、雰囲気はタダでは維持できないのだ。
区長の主張もそれと同じだ。「文化の街づくりを継承」というが、雰囲気にタダ乗りしようとしているだけではないだろうか。本当にそれが文化であり、守りたいのであれば、補助金を出すべきだろう。

「地元の声」というが、地元に住む人たちや地元にやってくるお客さんたちが、雰囲気だけタダ乗りして、西武百貨店に十分なお金を落とさなかった。消費しないという投票行動によって現状が決定されたのであって、ヨドバシに買収された西武百貨店を非難することではなさそうな気がする。

これは、池袋という特定の街の話ではなく、自分たちの住んでいる街にしても、同じことが言えると思う。

消滅する書店、入場料をとる書店

例えば、街の書店を、憩いの場のように感じているのは、僕だけではないだろう。

学校、会社からの帰り道、「何か面白い新刊は出てないかな?」と思いながら、書店にふらっと入る。
「こんな本が売れてんの?」という半信半疑の気持ちで、話題の本を手に取ってみる。ページをめくると意外に面白い。家でゆっくり読んでみたい。
こういう出会いが書店にはある。その本をレジに持っていって購入する。

ところが現代では、書店で買わないという選択肢もある。Kindleで少し安く売られている電子書籍を買うこともできるし、メルカリで中古品を安く買うこともできる。同じ価格でも、家まで無料で迅速に配送してくれるアマゾンで購入することもある。
書店で本を物色するだけで、買わない人たち。そういう行動をしている人が実際どれくらいいるのか、詳しくはわからないが、書店の売り上げが減り、書店数が減り続けているのは事実だ。

これは地方でなく都心部も同じだ。六本木の書店もめっきり減った。
ブックファーストも、青山ブックセンターも撤退した。
青山ブックセンターのあとには、「文喫」という書店が入ったのだが、ここは入場料をとる(平日1650円、休日2530円)。

六本木文喫の喫茶スペース

多くのイスやテーブルが置かれていて、本棚からとってきた本を好きなだけ読めし、冷たい緑茶やアイスコーヒーは飲み放題だ。
書店という立てつけだが、書店の雰囲気でくつろげるスペースだという説明の方が近い。

先月書いた花火の記事の中でも「無料へのリスペクト」について書いたが、お客さんが雰囲気の良さが無料だと思って、店のことを考えないでいると、消滅する店は増えていく。
そうなると、この文喫のように雰囲気に対してお金を取る仕組みを考えないといけなくなってなる。(僕はお金を取ることを批判しているわけではない。文喫は居心地がいいので大好きだ)

無料のものは、利用できて当たり前だと思いがちだが、それを提供している人たちのことを考えることも重要だ。


ここまで読んでくださった皆さんに一つ大事なお願いです。

コンビニでトイレを借りたら、商品を買ってください。
最近、トイレを貸してくれないコンビニも増えてきている気がしていて、、、
おなかのゆるい僕にとっては切実なんですよ。

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