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日経平均最高値更新 そのウラで密かに進行していること

今週、日経平均が史上最高値を更新して3万9000円を超えたらしい。

カール・ルイス、覚えてますか?

これまでの最高値3万8915円87銭を記録したのは、1989年12月29日。
遠い昔の話である。
どれくらい昔かというと、カール・ルイスが活躍していた時代にまで遡る。
1988年のソウルオリンピックでは、陸上100mと走り幅跳びでアメリカの英雄、カール・ルイスが二冠に輝いた。

陸上100m決勝は、ベン・ジョンソンとカール・ルイスの一騎打ちだった。
ゴールテープを先に切ったのはベン・ジョンソン。9秒79という人類初の9秒7台の到達に世界中が沸いたが、試合後にドーピングが発覚し、金メダルはカール・ルイスが獲得した。

その後、世界記録は何度か更新され、2009年にはウサイン・ボルトが世界記録を一気に9秒58まで更新した。テレビで見ていただけなのに、歴史的瞬間に立ち会えた気がした。

話がそれてしまった。日経平均の話をしていたのだ。

記録が更新された瞬間というのは、他人事であっても嬉しい。日本経済の話は自分にも関係することだから、なおのこと嬉しいはずだ。
しかし、なぜだろう。まったく、他人事のように感じてしまうのだ。

経済ニュースの内容が空々しく聞こえる。
「日経平均が、バブル期の最高値を更新した」
「今回はバブルのときとは違って、しっかりと日本経済が実力をつけている」

え?
バブル期のよりも、状態がいいってこと??

自分の認識に不安を覚えて、インスタグラム(https://www.instagram.com/tauchimnb/)で聞いてみた。

日経平均株価史上最高値更新らしいですが、景気が良くなってる実感ありますか?

実感ある182票(7%)
実感ない2454票(93%) 

圧倒的に実感がない人が多い。もしかすると、金融機関で働いている人は認識が違うのかとも思い、アンケート時に金融機関勤務かどうかも聞いていた。金融機関勤務の人に限ると、以下のような結果になった。

実感ある(金融機関勤務)62票(12%)
実感ない(金融機関勤務)441票(88%)

実感ない人が多いことには変わりないが、実感ある人と答えた人の割合はさっきより増えている。

これは僕の体感だが、金融機関で働く人の中でも、”市場関係者”(金融市場をつぶさに見ている人たち)に聞くと、この割合はもっと高くなると思う。

僕も、ゴールドマンで働いていたときは、トレーディングデスクで取引をしていたから、”市場関係者”というくくりだった。

今でも、たまに昔からの知人である”市場関係者”たちに会って、景況感を聞くのだが、大きく認識が違うのだ。


日経エコーチェンバー

たとえば、「これだけ賃金があがっているから、日本の利上げは近い」という話をちらほら聞く。
驚いた僕は「えっ、賃金って上がっているの?」と聞き返すのだが、向こうはむこうで驚いた声を上げる。
「知らないの?上がっているよ」

春闘などで実際に賃金が上がっている人たちもいるらしい。しかし、それが大部分の声なのだろうか?

会社に所属していない僕が感じていないだけかと思って、これもインスタグラム(https://www.instagram.com/tauchimnb/)でアンケートをとってみた。

収入は増えていますか?

増えてる(700票)26%
増えてない(2041票)74%

なぜ、市場関係者と世間では、こうも認識とずれるのだろうか。

日経エコーチェンバーのせいなのではないかと仮説を立ててみた。

エコーチェンバーとは、自分と似た意見や思想を持った人々の集まる空間内でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や思想が肯定されることによって、それらが世の中一般においても正しく、間違いないものであると信じ込んでしまう現象。

wikipediaより

これが日経新聞を読んでいる市場関係者の中で起きているのではないか。
この先の話は、くれぐれも、僕の仮説でしかない。

日経平均を計算している日経新聞にとって、日経平均は景気の指標、経済の成長を表す指標でないといけない。
「日経平均が上がっていますが、実体経済は悪くなっています」という記事は書きにくいだろう。おのずと実体経済がよくなっているという記事に偏る。

市場関係者たちは、そういう記事を目にする。さらに、周りにいる客も、自分の保有している株価が上昇して個人資産が増えていれば、景気のいい話をするだろう。

市場関係者たちが、景気についての取材を受ければ、疑いなく「景気は確実にいいですよ」と答えるようになる。

まさにエコーチェンバーである。

そして、政府も実体経済をよくすることよりも日経平均を上げさえすればいいと考える。
「日経平均は実体経済を表していない」なんて記事が、日経新聞に載ることはなさそうだからだ。
事実、日経平均がどれだけ上昇させたかが政権の成果を表す指標になっていたりするのだ。

しかしである。
株を個人で保有しているのは全体の12%程度。日経エコーチェンバーの内側にいると、その外側にいる人には気づきにくい。
その結果、世間の景況感とは必然的にずれてしまうのではないだろうか。

そして、そのウラで深刻な事態が進んでいる。

貯金ゼロの単身世帯は2021年から2023年にかけて、33.2%から36%に増加し、貯金ゼロの二人以上の世帯は22.0%から24.7%に増えている。
(金融広報中央委員会の調査に基づく)

日経平均が最高値を更新しているあいだに、貧困層の割合も増えていたのだ。

ケーキを食べればいいじゃない?

はやりの新NISAによって、投資しやすい環境が整っている。
それ自体は悪いことではないが、マリーアントワネットの言葉を、僕は連想してしまう。

パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない

(本当はマリー・アントワネットの言葉ではないという説もある)

そもそも、多くの人が投資を始める理由は、老後への不安からだ。
「将来、十分な年金をもらえない。2000万円足りなくなる」
と言われ始めた頃から、投資ブームが始まった。

ピケティの話もあった。労働分配の成長よりも資本分配の成長の方が大きいから、貧富の差は拡大する。つまり投資をしている人の方が有利になる。
そういった話を踏まえると、新NISAに政府の別の意図を感じてしまう。

「社会保障だと不十分だから、自己責任でお金を増やしてね」

そうは言っても、賃金はなかなか増えない。すると、政府はこんなことをささやくのだ。

「労働分配が少ないなら、資本分配をもらったらいいじゃない」

しかし、フランス革命時の庶民がケーキを食べられなかったように、貯金ゼロでは投資することはできない。結果的にますます格差は拡大していく。

日経平均だけ見ていては、そのことに気づくはずがない。

経済は、経世済民の略。
「世の中を治め、民衆を苦しみから救済すること」の意味だったはず。
日経平均のことではないはずだ。


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