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「たかまつななVS田原総一朗」プロレスに乱入する観客と主権者教育

「この国から出ていけ!」

正月早々、ものすごいシーンに出くわした。
僕のすぐ隣にいる晴れ着姿の女性が、白髪の男性に怒鳴られていたのだ。

といっても、これは「朝まで生テレビ」の番組の中での話(筆者は、今回初めて、パネリストとして参加した)。
「日本は立て直せる?」という質問に、「×」と書いたフリップを掲げるたかまつななさんに対して、司会の田原総一朗さんが「この国から出て行け」と激昂したのだ。
すぐにネットニュースにも取り上げられて、田原さんに批判が集まった。

さらに、ひろゆき氏のTwitterでも取り上げられて、田原さんは大炎上した。

日本の問題点を指摘する若い人が出て来ると『だったらこの国から出て行け!』という人達。それを見た金持ちや海外でも稼げる頭脳労働者が静かに日本から出て行っているので、海外在住日本人が増え続けてます(コロナ禍除く)

ひろゆき氏 twitter より

初詣にきた振袖姿の女性が絡まれているのなら、助けなければいけないし、絡んでいる人は非難されるべきだろう。
しかし「朝まで生テレビ」という言論プロレスの中では、たかまつさんは、おいしいシチュエーションなのだ。「田原さん、うまいなあ」と思って傍観していた。

夜中3時か4時になって、こたつに入ってうつらうつらしながら「朝生」を見ていた視聴者は、「出ていけ!」という怒鳴り声で目を覚まし、その後のたかまつさんの発言に注目したはずだ。

ところが、プロレスのリングがテレビの中からSNSに移動して、状況が変わったのだ。

ダンプ松本を攻撃する観客たち

少し野暮な話になるが、このプロレスの構図を説明させて欲しい。

以前から、田原さんは、たかまつさんを応援していた。毎月田原さんが開いている「田原カフェ」というイベントでも、昨年11月にたかまつさんをゲストに呼んで、「主権者教育の必要性」について議論していた。

実際に日本は『社会は変えられる』と思う若者が2割くらいで、これは先進国の中でもものすごく低い数字なんですね。企業や政治を見ても、年功序列で変な慣習とかが残ってたりとか、非効率だと感じているのに惰性で続いていることが多いと思うので、私は若者に権限を委譲したりとか、若者がどんどん社会を変えていくことが必要だと思って。そのために私は、やっぱり教育が必要だと思うんですね

「朝まで生テレビ」でのたかまつさんの発言

今回、朝生でたかまつさんが呼ばれたのも、もちろん、その話をしてほしいと思ったからだろう。たかまつさんに注目をあてるために、あえて番組の中で、たかまつなな(若者代表)VS田原総一朗(大人代表)というプロレスしてみせた。

その田原氏に対してひろゆき氏がSNS上で批判するのだが、これもまたプロレスの範囲内だ(ひろゆき氏がどう思っているかは別として)。

日経テレ東大学でひろゆき氏を起用した高橋弘樹さんが、昨年10月の「田原カフェ」のゲストとして登壇された際に、「どんなに正しいものをつくっても見てくれなきゃ意味がない」とおっしゃっていた。人が興味をもってなんぼだから、ひろゆき氏を起用しているという話だった。田原さんもその話に同意されていた。

今回の話を、昔流行った女子プロレスに例えるならば、長与千種(たかまつなな)VS悪役のダンプ松本(田原総一朗)という対立関係に、ライオネス飛鳥(ひろゆき)が乱入してきて注目を集めたという構図になる。
(筆者の女子プロレスの知識は付け焼き刃なので、間違っていたら教えて欲しい)

対立する構図を作ることで、観客がたかまつさんを応援する。たかまつさんの主張する主権者教育の必要性が知れ渡ることになる。そのはずだった。

ところが、SNSというリングには誰でも上がってこれてしまう。観客はたかまつさんを応援するのではなく、田原さんを一斉に攻撃し始めたのだ。
ネットニュースでも田原さんの発言ばかりが切り取られて、肝心のたかまつさんの主張があまり伝わらなかった。

おいおい、ダンプ松本を攻撃してどないするねん。主役を引き立たせるためにあえて悪役を買って出たんだぞと、言いたくなる。

ネット社会に生きていると、批判を好物にする人が多いことにしばしばうんざりする。
もちろん必要な批判もあるが、建設的な話につながらなければ意味がない。それこそが、主権者教育が足りていない現代社会を表していると思うのだ。

ネット批判と主権者教育

社会学者の宮台真司さんもよくおっしゃっているが、一人ひとりが社会の一員だということは頭ではわかっていても、実感しにくい世の中になっている。
日本財団が6カ国の18歳に行った意識調査がある(おそらく、たかまつさんもこのアンケート結果について言及しているのだと思う)。
「自分の行動で、国や社会を変えられると思うか」という質問に対して、YESと答えたのは、日本はわずか26.9%で、ダントツの最下位。他の5カ国(アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド)は50を超えていて、インドでは78.9%に達した。
日本では、社会とは所与のものであって、自分で変えられるものではないという教育を受けてきた。

その結果、社会の制度、仕組みに問題があると思ったときに、自分で変えようとしたり、建設的な意見を出したりするのではなく、不平不満をつぶやいて誰かを批判することが多くなっているのだと思う。

実はこの半年ぐらい、炎上などが怖くなり、言いたいことがあっても、SNSで黙っていることが多かったんです。でも、朝生に出て、若者の声が届いてないし、打席に立たないでどうするんだと思ったので頑張ります。田原総一朗さんは「たかまつさんは言うべきことを言う人だ」といつも言って下さります

たかまつななさん twitter より

そうした不平不満は、政治家や官僚に対してだけでなく、たかまつさんのように日本を良くしようとしている若者にも向けられてしまっているのが現状だ。

社会の問題を自分ごととして引き取って考える人が増えれば、不平不満を言うだけの人は減って、建設的な議論は増えるだろう。

まさに、今の日本に必要なのは主権者教育なのだと思う。

本当は、僕自身が「朝まで生テレビで話したかったこと」を書きたかったのですが、それは次回にでも。


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