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花火の格差の裏にあるジャイアニズム

先日の隅田川花火大会。
東京の夜空が華やかに彩られた。我が家からは、かなりに綺麗に見えた。テレビ越しではあるのだが。
コロナ明けで4年ぶりの開催ということもあり、会場の隅田川は、ものすごく混雑していたそうだ。

その数日後のびわ湖の花火大会。こちらも、4年ぶりの開催となったらしいのだが、ネット上をざわつかせていた。
大会主催者が地元の住民以外、無料で花火を見にくることに自粛を呼びかけたそうだ。無料では見させないということで、花火会場を囲むように、2キロにわたって4メートルのフェンスを設置した。

その結果、花火を楽しみにやってきた人たちは、フェンスの隙間からのぞいたり、あきらめて帰ったりするしかなかった。一方で、2万5千円のエグゼクティブシートで花火を鑑賞する優雅な人たちの様子も紹介され、格差社会だと批判するメディアもあった。

「格差社会」だと断罪するのは簡単だが、ここにはもっと深い問題が潜んでいると思うのだ。

花火大会は儲かるのか?

隅田川の花火大会でも、実は有料席があるそうだ。
前回2019年と今回2023年で比べてみた。

2019年
5万円(22名)x 100
1万円(5名)x 2050
6千円(1名)x 1850
合計 3660万円

2023年
8万円(22名)x 100
2万円(5名)x 2050
6千円(1名)x 2350
合計 6310万円

有料席の数が増え、席の価格が値上がりしていることは一目瞭然だ。合計の収入を比べると
実に7割以上も増えている。

どれだけ金儲けしたいのだろうかと思うが、そうではない。
厳密にいうとこれは有料席ではなく、市民から協賛を募っている。協賛してお金を支払うことと引き換えに、観覧席の入場券がもらえる。

こうした花火大会にお金がかかっていないはずがない。実施に向けて多くの人たちが働いているのだから、彼らに支払うお金が必要にある。それは、協賛金によって成り立っているそうだ。

では、どうして市民から集める協賛金が7割も増えたのだろうか。
主に次の二つの理由が考えられそうだ。

一つは、交通整理。コロナ明けで混雑が予想されて、安全配慮のために多くに人を雇う必要がある。
2001年に明石市の花火大会で発生した歩道橋事故では、小さい子を中心に11名が亡くなった。
それ以来、花火大会などでの警備体制は厳しくなった。
「見るだけなのだから、主催者に負担をかけてないだろう」と思われがちだが、そんなことはない。安全に見られるように多くの人が働いている。

もう一つは、最近流行りの賃上げにも関係していると思う。
「賃金が上がらないのは、お金をため込んでいる企業が悪い。彼らにもっと払わせればいいのだ」という声も聞かれる。
しかし、儲けている企業だけではない。お金のない企業は、従業員のために余計な費用をカットしないといけない。企業の売り上げにつながらなさそうな地元花火大会への協賛金を減らされても、なんら不思議ではない。
企業からの協賛金が減っているから、市民からの協賛金を増やす(実質的に有料席の収入を増やす)ことが必要になっているという状況だだろう。

賃上げに必要なこと

みんなの年収が増えるために必要なことがある。
それは、みんなが1年間に使うお金を増やすことだ。
当たり前だが、
【みんなが支払ったお金の合計】=【みんなが受け取ったお金の合計】
という等式が成り立っている。
このみんなには、個人だけでなく企業なども含まれる。
お金を企業がためこんでいるお金を吐き出してもらえば、一時的には賃金が上がる人もいるだろう。しかし、長続きするはずがない。
全員がお金を使う量を増やさずに、お金を受け取る量を増やせるはずがない。
自著でも書いたが、お金を使うということは、財布から財布の移動でしかないのだ。信用創造でお金が増えるという説明があるが、それも貸し借りが増えているということ。全体のお金が増えることはない。

自分だけなら、お金を増やすことができる。年収が増やして、使うお金を増やさなければいい。しかし、全員が同時に行うことはできない。どこか(誰か)に歪みがでてくる。
花火大会の有料化はその一例なのだ。企業が賃金を上げようとすれば、協賛金が減る。お金を支払わない人を締め出して、有料化する必要が出てくる。
賃金が上がった人は、有料でも構わないだろう。賃金が上がらない人は、そのお金は支払えない。その結果として、格差が生じることになる。

ジャイアニズムが生んだ夜空の格差

これまでの話をまとめると、全国的に花火大会の有料化が進んでいるのは、ジャイアニズムのせいだと言えるのではないだろうか。
ジャイアニズムとは、ドラえもんにでてくるジャイアンがよく言うセリフ。
「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」

人々が賃金を上げることをお願いして、企業は儲けにつながらない支出を削れば、花火大会にはお金を払わなくなる。まさしく、ジャイアンの「俺のものは俺のもの」精神だ。

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