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お母さんがファミコンのカセットを買ってきたときの話

小学生にとってゲーム機とかソフトって宝物みたいなキラキラしたもんじゃなくて、実際はもっと目が血走るような生々しい”資産”じゃないですか。格差、ヒエラルキー、持つ者と持たざる者ですよ。ファミコンのカセットなんて誕生日とかお正月みたいな特別なときにお母さんにお願いしてやっと買ってもらってたような持たざる者のおれはスーパーマリオをやらせてもらうために金持ちの息子で陰湿な性格の宮川くんに媚びへつらってたわけですから。靴も舐める勢いですよ。地主と小作人みたいなもんですから。いまだに小作人みたいな人生ですけどね。まあとにかくあの頃のファミコンへの執着は異常で、寝ても覚めても新しいカセットを買ってもらう空想や画策ばかりしてましたから。もう必死ですよ。病気です病気。悪い病気。そんなときに、お母さんが何かの用事で泊まりがけで東京に出かけたことがあって、おみやげとして頼んでもいないのにファミコンのカセットを買ってきてくれたんですよ。留守番させて申し訳なかったからって。そのときお母さんが買ってきてくれたのが「バンゲリングベイ」という発売されたばかりのカセットで、これはのちにファミコン初期を代表するクソゲーとして誰もが知るところとなるんですけど、当然そんなものとは知らないおれは労せずしていきなり新しいカセットが手に入ったことが嬉しくて、ウォーって狂喜しながらさっそくやってみたんですけど、まあそりゃ歴史に残るほどのクソゲーなわけですから、めちゃめちゃつまんないんですよ。エッ?つまんないファミコンなんてあるの?ってびっくりしちゃった。2人プレイモードもあったからお姉ちゃん呼んできて2人でやってみたんだけど、こんな思いするぐらいならやらなきゃよかったって思うくらいつまんなくて。でもこれはお母さんがおれのためにせっかく買ってきてくれたカセットなんだから、すぐに飽きたと思わせないようにもうちょっとやらなきゃと、もう苦痛だったんだけどしかたなく繰り返しやってたらお母さんが部屋に来て、息子が夢中になって自分が買ってあげたゲームをやってると思ってにこにこしながら「どう?おもしろい?」って聞いてきたから、つい「いや~、なんか…もっと違うのがよかったな…ハハッ」て言ってしまったんですよね。お母さんは少し悲しそうな顔で「あら~、あんまりおもしろくなかった?ごめんねえ、お母さんよくわかんないから店員さんに『一番新しいやつください』って言って買ってきちゃったんだよ。先に聞いておけばよかったね…」と謝ってたんだけど、おれはそのとき言ってしまった言葉を30年以上経ったいまでも後悔してるんです。

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