弁当屋でおっさんに先を越された話

ほっともっとに弁当を買いに行ったんですけど、車で駐車場に入るときに、たまたますぐ後ろを走ってた車もおれのあとに続いてほっともっとに入ってきたんですね。で、おれが店の入り口近くの駐車スペースに車をバックで停めようとしてたら、あとから入ってきたその車が店の入り口からはちょっと離れてるけど数台分並んで空いてる停めやすそうなスペースにけっこうな勢いで頭から突っ込んでるところだったんですよ。「あ、こいつ、車を素早く停めておれより先に店に入ろうとしてるな」って思って。注文してからまあまあ待たされるじゃないですか弁当屋って。だからまあできれば先に入りたいっていう気持ちはわかりますけどね。で、案の定そいつは車を停めると間髪入れずに降りてきて、若干の早歩きで店に向かって歩き出したんですよ。やりやがったな…と思ったんですけど、おれはまだバックで停めてる途中だったから諦めたんですよ。これってちょっと腹立つじゃないですか。腹立ったんですよ。あのおっさん、あとから駐車場に入ってきたくせに、先に入ったおれのことを出し抜いたわけですから。若干の早歩きで入店していったんですから。この”若干”が実に絶妙なんですよね。やっぱりちょっとバツが悪いんでしょうね。露骨な早歩きではないんですよ。バレないように平静を装った早歩き。あれはね、ラーメン二郎品川店に向かうジロリアンの歩き方と同じですよ。港南口から10分以上かかりますからね、品川店。のんびり向かってるこの瞬間にも二郎の行列がどんどん長くなってるんじゃないかって、気もそぞろになるんですよ。だから自然と次の一歩が早くなるんです。でも急いでるのを人に悟られたらちょっと恥ずかしいじゃないですか。ああ、あの人めっちゃ二郎食いたいんだナって思われちゃうじゃないですか。だから顔だけは冷静な、バレそうでバレないちょっとバレる早歩きになるんですよ。そういうとこも腹立つじゃないですか。おれはダメなんですよ。すぐ他人の目を気にして、浅ましい、品がないと思われちゃうような行動ができない見栄っ張りの偽善者のカッコつけ野郎なんで。だからほっともっとでおっさんがスパートかけてきたとわかったら、できればおっさんより先に店に入ってギャフンと言わしたいっていう気持ちが頭をもたげるんですけど、自分も同類だとは思われたくないんですよ。ほんとは悔しいと思ってるくせに、意に介してないフリしちゃうんですよ。入店競争を制したおっさんに対して、「こんなことにマジになっちゃってどうすんの」っていう上から目線で自分の中のしょうもない何かを守ろうとしちゃうんですよ。もうすべてが悔しいですよね。完全なる勝者になりたいですよ。

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