伸びたゴムを温めると縮む

グー・ジュール効果(Gough-Joule Effect)について

1)一般的な物質の熱と膨張率と弾性率の関係

ほとんどの物質は温度が高くなれば体積が増えます。
温度が高くなれば原子や分子の運動エネルギーが増加します。
運動エネルギーの増加によって原子や分子の振動が大きくなります。
振動が大きくなった時、隣り合う原子や分子の間が窮屈になるので広がります。
こんな理由で温度が高くなると体積が増えます。
体積が増えると原子・分子間に働く凝集しようとする力が距離が広くなるので小さくなります。凝集力が小さくなった固体は柔らかくなります。

基本的に温度が高くなるほど物質は柔らかくなります。

2)グー・ジュール効果を示すゴム

ゴムにもいろいろ種類があるのですが、グー・ジュール効果を示すゴムは輪ゴムのようなよく伸びる柔軟なゴムが多いです。

そのようなゴムでも基本的に温度があがれば体積も増える傾向があります。
しかしながら、ぎゅーって引っ張った輪ゴムを温めると縮む挙動を示します。これをグー(Gough)さんが見つけ、物理化学的な理論として説明したのがジュール(Joule)さんというわけです。

If an elastic band is first stretched and then subjected to heating, it will shrink rather than expand.
wikipediaより
ゴムを引っ張ってから温めた時縮んだ。

ゴムを引っ張ることで何が起こったか。
ゴムのようなポリマーの安定的な構造はポリマーの鎖がランダムな構造で折れ曲がっている状態になります。タンパク質のように鎖中の構造の中で結合を作るような官能基を含んでいる場合α-ヘリックスなどの構造を作った方がエネルギー的に安定です。

3)ギブスの自由エネルギー

ギブスの自由エネルギーの式は

画像3

温度一定として

画像2

エネルギー的に安定な変化とは、ΔG≦0を満たすような変化で自然に(自発的に)発生する安定的な変化。
ΔHはエンタルピー変化を意味し、分子間結合のような相互作用を形成するような変化はエンタルピーを低下させるため、自然に発生します。
ΔSはエントロピー変化(系の乱雑さの変化)を意味し、より乱雑になる状態程値として大きくなり、自然に発生します。

相互作用による結合を形成してエネルギー的に安定させる状態(ΔH≦0)
より乱雑な状態になる事でエントロピー的に安定させる状態(ΔS≧0)

ゴムを引っ張ると引っ張った方向に鎖が伸び揃います。鎖は伸びた状態から乱雑な状態になろうとしますからゴムは常に元の状態に戻ろうとする力が発生します。我々はその力を利用して輪ゴムを袋の封止等に使用しているわけです。

Goughの発見した伸びたゴムを温めると縮むという現象は、差が伸び揃った状態はエントロピーが低い状態にありますから、温度を上げることで分子の運動を増して、乱雑性を増やそうとする動き→揃った鎖をもとに戻そうとする動きによるものです。

同じことを別の視点から話しますが、ゴムは柔らかいが分子量の大きなポリマーをちょっとだけ架橋させたような状態をしています。引っ張った状態というのは架橋点が引き延ばされて互いに引き合っている状態を指します。その状態で温度を上げて分子の運動性が増すということは、引き合ったポリマー鎖が大きく運動する事になります。ポリマー鎖の運動が大きくなるほど末端の架橋点間距離は狭くなるため引っ張った方向に縮みます。長縄跳びを回すには縄がピンと張るような距離では縄は回せない(縄は運動できない)のと同じイメージです。この効果によって温度の上昇に伴ってゴムの硬さ・弾性率が上昇する挙動が見られます。

画像3



架橋したエラストマーの熱力学特性測定を行うと意図せずこれに近いデータが得られることがあります。架橋ブタジエン配合について1軸引っ張りモードでDMA測定を行ったときTgよりも十分大きな温度帯で貯蔵弾性率(E')の値が上昇する傾向があります。高温処理で架橋構造が増えていないのならば弾性率の上昇はGough-Joule効果によるものと考えられます。
測定したことは無いのですが、エボナイト棒のような架橋が極端に多いゴムでは架橋点間の距離がそもそも短く、変形し難いのでこの効果は観察し辛いかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?