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生きるということ

 大晦日はコメダ珈琲にこもって、卒論と格闘中。とてもはかばかしいとは言えない卒論だが、いったんそれは横に置いて昨日見に行ったウィムウェンダース監督の『PERFECT DAYS』について振り返るとでもしよう。
 東京国際映画祭でオープニング作品を飾った本作だが、それだけで気になって鑑賞を決めた。どうやらトイレの清掃員の話らしいということだけ知っていた。映画を見たら、トイレの清掃員として働く男性の日常だった。
 正直映画の製作した側が一体この作品をどんな想いで作ったとかどんな意味を込めたとか、映画を見ただけでは私にはわからなかった。だからこの先につづるのは私がこの映画をどう受け取ったか、主人公である平山の日々を見て何を考えたかである。

 【以下ネタバレあり??】


 ナレーションやテロップはないものの、映画はまるでドキュメンタリーかのように映った。トイレ掃除を生業とする平山の一日のルーティーンが描かれる。まず外で落ち葉を掃く音を聞きながら目を覚ます。歯を磨いて、髭をそり、植物に水を与える。制服に着替えると、玄関前にきれいに並べられた持ち物を一つひとつポケットに閉まっていき、最後には缶コーヒーを買うための小銭をつかむ。そのまま家を出て、空を見て微笑みを浮かべて自販機で缶コーヒーを買う。(ルーティーンの一連の流れの中で家の鍵を閉める描写がないことにえぇと思っていたが、描かれるないことに意味はあるのかないのか。)そこから(どうやら自作の)掃除道具を満載した軽自動車に乗って、東京のトイレを巡っていく。丁寧にトイレ掃除をして、神社の境内でサンドイッチを食べ木漏れ日を見つめる。仕事が終われば銭湯へ行き、浅草駅の地下にある居酒屋に自転車で行く。店員さんには「おかえり」と声をかけられ、そこでお酒を飲む。家に変えれば本を読みながら眠りにつき、翌朝を迎える。オフの日にもコインランドリーや写真屋さん、古本屋、そしてママのお店いに行くというルーティーンをたどる。

 毎日同じ日々を繰り返すことに成長はあるのか、前進はあるのか。毎日が同じであることは私は怖い。今のままの自分でいることが嫌だから、変化を求めてしまう。新しいことを始めてみたり、人と会う約束を取り付けてみたり。何かしら予定を入れようとする。当然社会人になればこの平山が送る日々に少し近づくのかもしれないが、そんな日々を送ることが私は嫌だと感じていた。生きる意味を求めすぎると、これから社会人になるに向けて、同じ日をくりかえることって生きる意味あるのかなという煩悶としてしまう。仕事をただ淡々とこなすことを日々の真ん中においてしまうと生きるために仕事をしているのか仕事をするために生きているのかわからなくなりそう。後者は仕事にやりがいというか、自分のライフワークとしての価値を見出していることを前提とすればいい。私が仕事に対してそうはいかない気がする。だから前者になるのだが、それならば生きる先にもう一つ目的が欲しいなと考えてしまう。ただ同じ日々を繰り返すために仕事をするのか、と。まるでその日常に幸せはないと感じてしまう。

 しかし、この映画を見ていると、ルーティーンをこなす日々の中でも必ず変化がある。例えばある日通っているママのお店に元旦那が表れて川沿いに影踏みをすることになったり、家出をした姪が突然に訪ねてきたり。同じ日は二度とは繰り返さないのだ。だから少し変わる日々を間違い探しのようになぞるのも少し楽しいのかもしれないなと思ったり。繰り返す日常があるから、私が求める変化や成長、そして非日常があるかもしれないと思ったり。

 朝、仕事のために家を出て微笑むことがルーティーンの中に組み込まれているかのように、毎日空を見て笑っていた平山。難しいことで頭を悩ますのはやめて、彼のように私も日々微笑もう。日々の幸せ探しを特技にしたいな。

 平和ボケしているというか、自分の考え方ってどこか贅沢というか甘えだなと感じることもある。だから、やっぱりこんなことを考えず真面目に毎日を生きるのみなのかもしれないが。


 この映画では平山という男についてかなりの部分が明かされなかった。過去が明かされぬまま映画はただただ現在進行形の今に焦点を当てて進んでいく。ただ多分彼は苦しい過去を持つことを匂わせてくる。

 まったく的はずれな感想かもしれないけど、人間関係ってそんなもんだよなって。他人の過去ってたいていは知りえないもので。その人が語れば知り得るけど、知ったそれはほんの一部に過ぎずほんの一面的なもの。

 ところで人について知ることって難しいなと最近思う。人を知るということはその人の今の価値観や考え方を知ることなのか、その人の過去から今にかけてを知ることなのか、はたまた接することで表面化している性格を知ることなのか。

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