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The Monkeesを再評価する - Part 10:サードアルバム “Headquarters”

1967年2月から自分達で音楽制作が出来る様になり、シングル「The Girl I Knew Somewhere」とお蔵入りにはなったが「All of Your Toy」をレコーディングしたモンキーズは、そのままチップ・ダグラスをプロデューサーに据えた体制で3枚目のアルバムの制作に入った。


このアルバムは、ピーター・トークがキーボードやギターを弾く時のベースとしてプロデューサーてあるチップ・ダグラス、ジェリー・イエスター(チップ・ダグラスの友人)、ジョン・ロンドン(マイク・ネスミスの友人)がベースを受け持つことを除いて、モンキーズの4人が自分達の演奏でレコーディングしたアルバムである。

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シングル「The Girl I Knew Somewhere」では主にミッキー・ドレンツのドラムの未熟さや全く背景の違う4人が初めてガレージバンドのように集まって試す段階だったことが要因でかなりのセッションとレコーディングの日数を重ねる結果となったが、その後のアルバム収録曲については意外とレコーディング日数は多くない。

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また、これまで日本の音楽評論家がこぞって『Headquarters』での演奏は素人バンドの様に下手と評論してきているが、筆者は強く意を唱えたい。
これまでのバブルガムポップな作り物を捨て、フォーク、カントリー、ヒッピーなどがミックスされた1967年2〜3月当時の南カリフォルニアのカウンターカルチャーに職業作家のハイクオリティな楽曲も取り入れ、シンプルなバンドサウンドに昇華した奇跡的にクリエイティブな傑作と思う。



このサードアルバムは1967年5月22日にリリース。
ビルボードウィークリーチャートの推移は以下の通り。

6月10日週付け 197位(この1週間前まで自身のセカンドアルバムが1位)
6月17日週付け 6位
6月24日週付け 1位(初登場)


しかし、1位を取った6月24日週付けでビートルズのサージェント・ペパーズが初登場8位、翌7月1日週付けでペパーズが1位となり、4人の努力の結晶であった『Headquarters』はビートルズの圧倒的な革新性に対してなす術なく2位に陥落してしまうのであった。時代は大きく変わりつつあった。


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サードアルバム『Headquarters』の収録曲と自分なりの解説を以下に記す。
各曲に関するトピックスや歴史的意義についても付記する。


A-1 "You Told Me"
* 作詞作曲:マイク・ネスミス
* ボーカル:マイク・ネスミス
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク、マイク・ネスミス
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* バンジョー:ピーター・トーク
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* ツィター:ミッキー・ドレンツ
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:ハンク・シカロ

マイク作のキャッチーなメロディによるカントリーロック。
ボーカルもマイクで、とても張って艶のあるボーカルを聴かせてくれる。

ピーターがニューヨーク時代からの得意楽器である5弦バンジョーを載せてカントリーフレーバー満載のアレンジになっている。

マイクはこの頃からグレッチの12弦ギターを愛用していて、これによってギター1本でも煌びやかな音をバンドに提供している。

ピーターがバンジョーを弾くことで、ベースはプロデューサーのチップ・ダグラスが受け持っている。
チップ・ダグラスのベースはこの時代にしてはかなりブンブン鳴らすプレイスタイルで、ポール・マッカートニーのスタイルを良く研究していると思われる。演奏をタイトにするのに貢献している。

オープニングに1、2、3、4と喋っているのは、ビートルズの「Taxman」のパロディ。そしてベースラインも「Taxman」のそれに結構似せている。


A-2 "I'll Spend My Life with You"
* 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
* ボーカル:ミッキー・ドレンツ
* コーラス:ピーター・トーク
* 12弦アコースティックギター:ピーター・トーク
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* ギター:ミッキードレンツ
* スティールギター:マイク・ネスミス
* オルガン:ピーター・トーク
* チェレスタ:ピーター・トーク
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:ハンク・シカロ

この曲は元々セカンドアルバムの頃にレッキング・クルーによってレコーディングされていたがボツにしていた。
モンキーズのプロジェクトの発足当初から貢献してきているボイス&ハートによる佳作。

『Headquarters』ではとにかく自演に拘っているが、楽曲は外部のものも積極的に取り入れている。テレビ番組を連日撮影し続けている過密スケジュールの中で音楽制作をしているので、良質な曲を自分達で作詞作曲している時間はあまり無い状態であり、従って外部作家の曲を取り入れるのは必然的な選択だったであろう。

12弦のアコースティックギターによる華麗なアルペジオはピーター。
そしてオルガンとチェレスタもピーターが弾いている。
その間ベースはチップ・ダグラスが担当。
マイクがスティールギターを頑張っている。
そしてミッキーの抑えたムーディーなボーカルも素晴らしい。

レッキング・クルーによる初期バージョンより遥かにまとまった仕上がりになっている。


"A-3 "Forget That Girl"
* 作詞作曲:チップ・ダグラス(Douglas Farthing Hatlelid名義)
* ボーカル:デイビー・ジョーンズ
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク、チップ・ダグラス
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* エレキピアノ:ピーター・トーク
* マラカス:デイビー・ジョーンズ
* ベース:チップ・ダグラス
* アコースティックギター:不明
* エンジニア:ハンク・シカロ

プロデューサーであるチップ・ダグラスの作。
イントロからピーターのオルガンによるアレンジが効いている。
全体的にはチップ・ダグラスが一時期いたタートルズの雰囲気にも近いかもしれない。
甘い詞にはデイビーの甘いボーカルが合う。
こういうジャジーなポップスは英国勢にはなかなか作れないかったろうと思う。こういう良曲を出せるところがまたモンキーズの魅力でもある。


"A-4 "Band 6"
* 作詞作曲:ミッキー、デイビー、マイク、ピーター
* 語り:ミッキー・ドレンツ、チップ・ダグラス
* ギター:ピーター・トーク
* スティールギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* エンジニア:ハンク・シカロ

41秒だけのセッション時のお遊び。
チップ・ダグラスがレコーディング卓にいて、マイクがスティールギター、ピーターがギターを弾いているので、ベースは居ない。

冒頭わざと下手な音出しをしているが、チップの言葉の後にワーナーブラザーズのアニメ「ルーニーチューンズ」(バックスバニーで有名)のような曲で突っ走る。モンキーズらしいユーモラスな遊び。


A-5 "You Just May Be the One"
* 作詞作曲:マイク・ネスミス
* ボーカル:マイク・ネスミス
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク、チップ・ダグラス
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* アコースティックギター:マイク・ネスミス
* ベース:ピーター・トーク
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* エンジニア:ハンク・シカロ

マイク作によるカントリーロック。
元々はファーストアルバム時にグレン・キャンベル(ギター)を含むレッキング・クルーでマイクのプロデュースでレコーディングされ、この初期バージョンはテレビ番組でも数回使われていた。
初期バージョンはボーカルラインというか歌い回しが多少異なる。

本作でのバージョンはピーターがベースを弾き、チップ・ダグラスはコーラス以外はサポートしていない、正真正銘4人による演奏である。

正直言ってレッキングクルーの初期バージョンより遥かに良いタイトな演奏をしている。イントロのベースも初期バージョンより気持ちが良い。
マイクが基本的にコード弾きで凝ったアレンジをしない分、ピーターのベースラインが効果的に動く。チップ・ダグラスもベースプレイヤーなので、この辺りしっかりバランスを取ってミックスしている。ここは必聴だろう。

オーソドックスなブルースのスリーコードでありながら素直な4/4拍子ではないところがカントリー的にはちょっとひねくれている。
ブリッジのコード進行がいかにもマイク・ネスミスらしい。


"A-6 "Shades of Gray"
* 作詞作曲:バリー・マン&シンシア・ウェイル
* ボーカル:デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク
* ピアノ:ピーター・トーク
* スティールギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* タンバリン、マラカス:デイビー・ジョーンズ
* ベース:ジェリー・イエスター
* チェロ:フレデリック・セイカラ
* フレンチホルン:ヴィンセント・デロサ
* エンジニア:ハンク・シカロ

このアルバムのベストトラックのひとつと言える傑作。

バリー・マン&シンシア・ウェイルのソングライターコンビは、ブリルビルディングの職業作家で、キャロル・キング&ゲリー・ゴフィンなどと同様にドン・カーシュナーのアルドン・ミュージックの作家。
アニマルズの「We Gotta Get Out of This Place」などのヒット作がある。
80年代にはリンダ・ロンスタッド&ジェームス・イングラムの「Somewhere Out There」のヒットでも有名。

モンキーズはドン・カーシュナーは追い出したが、ブリルビルディングの作家の曲を有効活用することで楽曲のクオリティを維持した。また、作家達もモンキーズに曲を提供することで作詞作曲を子供向けのポップスからよりアーティステックな方向へと進化させていった。

元々この曲はThe Will-O-Bees というフォークロックトリオが1966年にシングルとして発表していた。アップテンポな軽いノリのバージョンで、モンキーズのこのバージョンのようなバラードではなかった。


モンキーズはこの曲をピアノを主体としたバラードに仕上げた。
特に繰り返される印象的なピアノイントロのメロディを作ったのはピーター・トークだ。
マイク・ネスミスのスティールギターがこの曲に瑞々しさを与えている。

素晴らしいのは楽器面だけではない。ボーカルとコーラスの組み立てもとても良く組み立てられている。
比較的低めのキーに設定して、1番の8小節を艶のあるデイビーのボーカルで導入し、2番の8小節をピーターが受け持つ。
そして、ブリッジを2人がユニゾンで歌い、サビに入る。
サビは曲中3回登場するが、1回目はユニゾンから2声へ、2回目は2声から3声へ、3回目は3声から4声へ、と曲が進行するにつれてコーラスが厚くなるアレンジで盛り上げていく。

歌詞は、若かった頃は単純だったが今は白も黒も光も闇も無く灰色の影があるだけだというティーンエイジャーの苦悩の様な甘酸っぱさを思わせる内容。
このように文学的で詩的なものを発表できる様になったモンキーズは、これまでのドン・カーシュナーのバブルガムポップスとは完全に異なった方向に向かったことをこの曲で示したと言えるだろう。

ベースのジェリー・イエスターはチップ・ダグラスのMFQ(モダン・フォーク・カルテット)のバンドメンバー。


A-7 "I Can't Get Her Off My Mind"
* 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
* ボーカル:デイビー・ジョーンズ
* コーラス:ミッキー・ドレンツ
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* タックピアノ:ピーター・トーク
* パーカッション:デイビー・ジョーンズ
* ベース:ジェリー・イエスター
* エンジニア:ハンク・シカロ

この曲も元々はファーストアルバム時にレッキング・クルーによってレコーディングしてデイビーのボーカルも入れたが、ボツになっている。
デイビーが得意なミュージカル風の曲で、レッキングクルーのバージョンにはなかったタックピアノをメインに据えた全く違ったアレンジになっている。
ここでもピーター・トークのキーボードアレンジ力が大きく貢献している。


"B-1 "For Pete’s Sake"
* 作詞作曲:ジョセフ・リチャーズ、ピーター・トーク
* ボーカル:ミッキー・ドレンツ
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク
* ギター:ピーター・トーク
* オルガン:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:(クレジット無し)

初めてリリースされたピーター・トーク作の楽曲。
B面1曲目を飾る素晴らしいトラックである。

共作者であるジョセフ・リチャーズ(ジョー・リチャーズとも呼ばれる)の情報はほとんど見つからない。

モンキーズ・ショーのセカンドシーズンのエンデイング曲に毎週使われた。
The Whoが「My Generation」という曲をヒットさせるなど、60年代は今のジェネレーション(世代)はこれまでの常識にとらわれずもっと自由であるというヒッピー的なメッセージが色濃く現れた歌詞が歌われている。

ピーターがギターで弾くイントロはコードがD9というユニークさ。
しかも、曲のキーとしてはAなのだがサビまでほぼD9のみで進んでいく。
そして、ソウルとロックをミックスさせたようなエネルギッシュなミッキー・ドレンツのボーカルがハマる。
レコーディングも終盤の3月末でかなり慣れてきたのか、ミッキーのドラミングも素晴らしい。
マイク・ネスミスが珍しくオルガンを弾いていて、コード弾きのシンプルなものだがD9での怪しげな雰囲気をより一層盛り上げている。


"B-2 "Mr. Webster"
* 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
* ボーカル:ミッキー・ドレンツ
* コーラス:デイビー・ジョーンズ
* ギター:ミッキー・ドレンツ
* スティールギター:マイク・ネスミス
* ピアノ:ピーター・トーク
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* ベース:ジョン・ロンドン
* エンジニア:ハンク・シカロ

この曲もセカンドアルバムの時期にレッキングクルーで録音されているがボツになっている。

ベースはマイクの友人であるジョン・ロンドン。マイクがモンキーズを脱退した後に作るファースト・ナショナル・バンドのベーシストにもなる人物。

ドラムが無い曲で、ミッキー・ドレンツはギターを弾いている。
マイク・ネスミスのシンプルなスティールギターにエコーを効かせたミッキーのダブルボーカルが加わり、幻想的な雰囲気を作り出している。


B-3 "Sunny Girlfriend"
* 作詞作曲:マイク・ネスミス
* ボーカル:マイク・ネスミス
* コーラス:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ
* ギター:ピーター・トーク
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* アコースティックギター:マイク・ネスミス
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* シェイカー:ミッキー・ドレンツ
* ベース:ジョン・ロンドン
* エンジニア:ハンク・シカロ

またもマイク・ネスミス作によるカントリーロックの佳作。
ベースをマイクの友人ジョン・ロンドンに任せ、ピーターが6弦、マイクが12弦とそれぞれギターを弾いている。
跳ねるようなビートが素晴らしい。ジョン・ロンドンとマイク・ネスミスの息があっている効果と言えるが、ミッキーのドラミングもなかなか素晴らしい。


"B-4 "Zilch"
* 作詞作曲:ミッキー、デイビー、マイク、ピーター
* 語り:ピーター、デイビー、ミッキー、マイク
* エンジニア:ハンク・シカロ

A面でお遊びトラックがあったのに呼応するように、これはB面でのお遊びトラック。
4人は意味の無い別々の言葉を繰り返し喋り覆い被せていくだけのもの。


"B-5 "No Time"
* 作詞作曲:ハンク・シカロ(実際はモンキーズ4人の作)
* ボーカル:ミッキー・ドレンツ
* コーラス:デイビー・ジョーンズ、他不明
* ギター:マイク・ネスミス、他不明
* アコースティックギター:マイク・ネスミス
* ピアノ:ピーター・トーク
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* タンバリン:デイビー・ジョーンズ
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:ハンク・シカロ

スリーコードのエネルギッシュなロックンロール。
モンキーズ4人の作で、ピーターによると元々はミッキーとマイクが素案を作っていたらしい。
しかし、レコードでは作者はハンク・シカロとなっている。
ハンク・シカロはこのアルバムの全ての曲(と思われる)でエンジニアを務めている人物で、彼の貢献へのお礼としてモンキーズが作者名を彼名義にしたもの。おそらくかなりの金額の印税が彼に送られたことと思われる。

トリビアとして、ミッキーがブレイクで "Rock on, George, for Ringo one time" と言っているが、これはビートルズの「Honey Don’t」でリンゴ・スターがジョージ・ハリスンのギターソロの前に "Oh, rock on, George, one time for me" と言っているものを引用している。
また、"Andy, you're a dandy, you don't seem to make no sense" (アンディ、君はダンディで、意味わかんない奴だ)という歌詞のアンディとはアンディ・ウォーホルを意味しているらしい。


B-6 "Early Morning Blues and Greens"
* 作詞作曲:ダイアン・ヒルデブランド、ジャック・ケラー
* ボーカル:デイビー・ジョーンズ
* コーラス:ピーター・トーク
* 12弦ギター:マイク・ネスミス
* エレキピアノ:ピーター・トーク
* オルガン:ピーター・トーク
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* キハーダ、マラカス:デイビー・ジョーンズ
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:ハンク・シカロ

作者のダイアン・ヒルデブランドとジャック・ケラーは、セカンドアルバムでピーター・トークのリードボーカル曲「Your Auntie Grizelda」を書いたコンビ。
2人はコンビで活動していたわけではなく、ジャック・ケラーはドン・カーシュナー配下のブリルビルディングの作家兼プロデューサー、ダイアン・ヒルデブランドはブリルビルディングではなくモンキーズの為に設立された会社スクリーンジェムズの作家である。

奇妙な「Your Auntie Grizelda」と全く異なり、この曲は目立たないがユニークな佳作になっている。
この幻想的な雰囲気を作っているのはやはりピーター・トークのエレキピアノによるアルペジオと時折挟むピーターの大胆なオルガンだろう。
小節の頭でデイビー・ジョーンズが鳴らずキハーダも幻想的な雰囲気作りに貢献している。
デイビーの落ち着いた低音ボーカルがまた神秘的に響く。やはり上手い。


B-7 "Randy Scouse Git"
* 作詞作曲:ミッキー・ドレンツ
* ボーカル:ミッキー・ドレンツ
* コーラス:デイビー・ジョーンズ、ピーター・トーク、マイク・ネスミス
* ギター:マイク・ネスミス
* ピアノ:ピーター・トーク
* オルガン:ピーター・トーク
* ドラム:ミッキー・ドレンツ
* ティンパニー:ミッキー・ドレンツ
* パーカッション:デイビー・ジョーンズ
* ベース:チップ・ダグラス
* エンジニア:ハンク・シカロ

アルバム最後の曲は珍しいミッキー・ドレンツの作詞作曲。
これが素晴らしいクオリティ。
イギリスでは 「Alternate Title」という別名のタイトルでシングルカットされ全英2位になっている。

タイトルである「Randy Souse Git」とはイギリスのスラングでどうやら「リバプール出身の好色なバカ者」という意味。Randyは好色、Souseはリバプール人、Gitはバカ・間抜けを意味する。
曲中にRandy Souse Gitという言葉は出てこない。
なので、イギリスでシングルにしようという話になった際に、このタイトルではマズイだろうということで「Alternate Title」(別名という意味)というタイトルに変更された。

歌詞はこのアルバムの制作の前にプロモーションでイギリスを訪問した時のミッキーの体験がベースになっているらしい。

1967年2月、人気絶頂のモンキーズのミッキーとマイク(と奥さんのフィリス)はプロモーションでイギリスを訪問。この滞在中にビートルズに招待されてロンドンでのスニークパーティーに参加している。
ここでジョン・レノンからモンキーズはビートルズというよりマルクス兄弟に近いと揶揄われたりもしているのだが、とにかくモンキーズがビートルズのパーティーに参加した。
このパーティーでの経験がこの曲の歌詞になっている。

歌詞の中で「The four kings of EMI are sitting stately on the floor」(4人のEMIの王は我が物顔で床に座っている)というのはビートルズを意味している。
そして、ミッキーがこのパーティーで出会ったある女の子に相手にされないことを嘆いているのが歌詞の大まかなテーマだ。
この「ある女の子」は、イギリスの有名な音楽番組 Top of The Pops のディスクガール(MCの女の子のようなものか)であるサマンサ・ジャストのことである。ちなみに、サマンサはこの翌年1968年7月にミッキー・ドレンツと結婚することになる。(1975年に離婚。)

ティンパニーがとても面白い使われ方をしている。
こういう使われ方をした曲はかなり珍しいのでは無いだろうか。
ミッキー・ドレンツは、この頃には先鋭的なミュージシャンに変貌していた。
この頃からモンキーズの写真を撮り始めた有名な音楽写真家ヘンリー・ディルツも、自身の写真集の中で同様のコメントを残している。


*          *          *          *          *


ここにモンキーズの完全なる自主的な音楽制作が達成され、また当時としては先鋭的なカントリーロックや佳作を作り上げた。
この功績は大いに評価されるべきであろう。

しかしながら、サージェント・ペパーズに一瞬でチャートを落とされ、またカリフォルニアでもヒッピー文化などを背景により自由な音楽が地下から脈々と生まれてくるような時代に入っていき、モンキーズの次のアルバムは番組制作との多忙さも相まってミッキーがドラムを外れるという大胆な施策を打ってよりタイトな演奏でのレコーディングになる。


続く。



次回は少し趣向を変えて、この当時の南カリフォルニア音楽シーンにおいてモンキーズ、とりわけピーター・トークがどのような役割や位置付けであったかを解説していこうと思います。
ひょっとすると、英語文献のそのまま和訳になるかもしれません。(笑)
考え中。。。


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