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【宝塚/雪組】『BONNIE & CLYDE』 彩風・夢白コンビはお似合い?

※本記事は再投稿です
2023年2月6日(月)~3月1日(水)に、名古屋の御園座にて『BONNIE & CLYDE』が上演された。

『BONNIE & CLYDE』は、2009年にサンディエゴにて初演、2011年にブロードウェイにて上演され、人気を博したミュージカル。日本では2012年に、青山劇場と新歌舞伎座で上演された。

本作は、脚本はイヴァン・メンチェル、作詞はドン・ブラック、作曲はフランク・ワイルドホーンが手掛け、潤色・演出は宝塚歌劇の座付き演出家・大野 拓史が務めた。
宝塚歌劇にしては珍しい色彩の少ない舞台装置と、軽快な音楽で1930年代のアメリカの世界観を表現。

今作は、宝塚歌劇団雪組の彩風咲奈・夢白あやのトップコンビプレお披露目公演である。2人を筆頭に、和希そら、野々花ひまりら実力のあるメンバーが顔を揃えた。

『BONNIE & CLYDE』のあらすじ

1930年代、世界恐慌下のアメリカ。

女優を夢見るボニー(夢白あや)と、窃盗罪で逮捕され脱獄したクライド(彩風咲奈)は、吹き溜まりが集う街・西ダラスで運命の出会いを果たす。

「どんなことをやってでも、この世界で成功してみせる」と語るクラウドに、ボニーは自身の夢を重ねて意気投合。2人はあっという間に恋に落ちるが、クライドの悪行は徐々にエスカレートしていく。

再逮捕されたクライドの脱獄を手伝ったボニーも、クライドが向かう悪の道に染まっていく。脱獄後も、警察に追われながら「2人で死ねるなら怖くない」と強盗・窃盗・殺人の罪を重ねていく2人。

彼らの行動は、鬱屈したアメリカの人々の注目の的となり、やがて英雄的存在と称賛する人まで現れる。しかし、警察の追跡はすぐそこまで迫っていた…。

伝説のギャングカップルの愛と罪に満ちた物語が、宝塚歌劇団の世界で描かれる。

雪組版『BONNIE & CLYDE』における雪組生の魅力

ここからは、雪組版『BONNIE & CLYDE』における雪組生の魅力を、以下の3つに分けてご紹介しよう。

  • 彩風咲奈の舞台は不安定!?

  • 夢白あや 新ヒロインのお通りだ

  • 雪組生の実力は?

彩風咲奈の舞台は不安定!?

主人公クライド・バロウを演じたのは彩風咲奈。
クライドの野望に満ちた男性像が、彩風の三白眼から妖しいほどに溢れている。

鬱屈した世界から飛び出したいというクライドの野望が、ボニーを巻き込むことになるが、クライドの持つ危なげな魅力はボニーを狂わせる説得力がある。

舞台を降りると、クライドとは正反対で優等生な印象の彩風だからこそ、その演技力に脱帽だ。

クライドの生き方はギャンブル性が高く、賞賛されるものではないが、関わった人間が魅了されてしまう”何か”がある男性であることは間違いない。その目に見えない”魅力”を、色気と無謀さ、時折見せる繊細さで、彩風が絶妙に表現していた。

下級生時代から安定した実力を見せてきたが、彼女の舞台での持ち味は暴走する危うさにある。
『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』のダントン役や『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』のジョルジュ役など、不器用なりに必死に生きる姿を演じるのがうまいのだ。

舞台では不安定な魅力を醸せるところが母性本能をくすぐる。これは彩風咲奈の魅力だろう。

夢白あや 新ヒロインのお通りだ

クライドの恋人ボニー・パーカーを演じたのは夢白あや。
トップ娘役お披露目公演とは思えない、堂々したオーラで観客を魅了した。

外国の女性は成熟するのが早く、日本の女性よりも色気があり、男を転がす余裕がある。実は宝塚歌劇において、このジャンルが苦手な娘役は多い。

「清く、正しく、美しく」という教えのもと多感な時期を過ごし、劇団ではソプラノで歌い上げる歌唱を求められる。だからこそ、清純な役どころはお手のものだが、魅惑的な色気を出すのが苦手な娘役が多いのだろう。

そのため、お色気担当は学年が上がって芸歴に磨きがかかった娘役、もしくは男役が務める。そんな中、研究科6年目(入団6年目)にしてボニーを演じ切った夢白は、宝塚のトップ娘役としては「新しい」のではないだろうか。

また、彼女の鋭い目線やパンチのある歌声、スタイルの良さは、彩風との並びをより洗練させる。まさにベストな相手役と言えるだろう。

ただ、ひとつ要求するとすれば、ボニーの中にある「彼がいない世界では生きられない」という健気さが、もっと強調されると切なさが倍増するのでは…と思う。

夢白ボニーは気高さがメインだったため、観客は「格好良い女性」として彼女を見るだろう。だが、ボニーの行動はすべてクライドへの愛が軸なのだ。
誰よりも「恋に生きたい」という乙女心がある。その乙女心が協調されると、より共感できる役になったのではないだろうか。

彼女の舞台が素晴らしかったために、ついつい欲求が増えてしまう…どうかお許しください。

雪組生の実力は?

クライドの兄・バックを演じたのは、和希そら。
和希の持ち味である、陰のある空気感がバックにぴったりだ。抜け感が色っぽく、低音で響く歌声の艶は相変わらず耳に心地よい。
悪行に魅せられながらも、真っ当に生きなければならないと葛藤する様を、繊細に演じて役に深みを与えている。

バックの妻・ブランチを演じたのは、野々花ひまり。
メインキャラクターの中で最も共感できる役作りで、応援したくなる健気さを滲ませた。
パンチのある歌声と、洋画を見ているようなセリフ回し・立ち居振る舞いも印象的だ。キリシタンでありながらも犯罪者の夫を見捨てられない愛の深さは、観客の胸を打った。

今回印象に残ったのは、クライドとボニーの幼少期を演じた夢翔みわ・愛陽みち。
夢翔みわは、伸びのあるビブラートが美しく、少年らしいやんちゃな表情がクライドのその後を彷彿とさせる。
愛陽みちは声優のような特徴的な歌声と、無邪気な子供らしい振る舞いでボニーの幼少期を的確に演じた。

雪組版『BONNIE & CLYDE』の見どころ

雪組版『BONNIE & CLYDE』の見どころは、以下の通りだ。

  • フランクワイルドホーンの名曲の数々

  • クライド(彩風咲奈)とボニー(夢白あや) 品のあるアダルトな2人

楽曲の素晴らしさと、主演2人の洗練された空気感はこの舞台に良く映える。それでは、詳しく見ていこう。

フランクワイルドホーンの名曲の数々

なんといっても、楽曲の素晴らしさ。特に、1幕ラストにクライドとボニーが歌う「This World Will Remember Us」は、2人がギャングの世界へ踏み込んでいく様を、テンポ感のあるメロディーで表現。
観客もクライドとボニーと共にギャングの世界に引き込まれてしまいそうな、高揚感のある曲だ。

個人的に好きなのは、ボニーが2人の幸せが長く続かないことを悟りながら歌う「Dyin’ Ain’t So Bad」。繊細な楽曲が、ボニーのクライドへの一途な愛と切なさをより増長させる。
普段は見せない弱さも見せつつ、逞しさも見事に表現されていて胸を打つ。

クライド(彩風咲奈)とボニー(夢白あや) 品のあるアダルトな2人

彩風クライドの気だるげな佇まいと、夢白ボニーの凛とした立ち振る舞いが非常にリアルで、夢々しい宝塚歌劇ではなく、洋画を見ているような感覚さえ生まれる。

また今作はアダルトな世界観で、宝塚歌劇では珍しく娘役からのキスシーンも多い。アダルトなのに美しく、品さえも感じられるのは、彩風と夢白の計算され尽くした、美しい所作から生まれるものだろう。宝塚歌劇ならではの『BONNIE & CLYDE』であった。

【まとめ】雪組版『BONNIE & CLYDE』は少年マンガ×少女マンガ

世界恐慌と禁酒法に見舞われてたこの時代。密造酒で金を稼ぐマフィアに媚びを売る富裕層がはびこり、市民の中には、国に対する不信感が芽生えていた。
そんな中で、富裕層の象徴・銀行で強盗を行うクライドとボニーは、市民にとって痛快で応援したくなる存在だったのだろう。

彼らの行動は犯罪で、賞賛されるべきものではない。だが、彼らの行動は当時のアメリカ人の想いの発露だったはずだ。そのスリルのある世界観は、見るものをハラハラドキドキさせる。

まさに少年マンガと少女マンガが融合した、魅力的な作品だ。

宝塚歌劇のファンは女性が大半だが、この作品は幅広い層に届くのではないだろうか。今後の彩風咲奈・夢白あや率いる雪組の舞台は必見だ。

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