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『妖精の庭 秘密の花園』感想

一原みう著『妖精の庭 秘密の花園』を読みました。
こちらも作家さんのSpaceでのおすすめで手に取ったのだと思います。どういう意図のおすすめだったかすっかり忘れてしまって、どういう話なのかあらすじも確認せずに読み始めたら、ちょっと特殊な作りの話で、意外な面白さを感じました。

人の幸・不幸はその人自身の認識に因るものであって、世間から見てどうとか、倫理や常識といった尺度で測れるものではないということを繰り返し述べている作品なのですが、主人公たちがいわゆる身分違いの恋をしていて、しかもお互いに別の配偶者を持っている状況が少女小説にしては特殊に感じました。

そもそも第一章では当初、主人公エレオノーラはコンスタンチンに恋をしていて、ヴェローニカと出会うところから関係性が始まっていくので、「これはどこへ向かう小説なんだろう?」と着地点が見えないままに進んでいきます。そのあたりは先が見えずに結構もやもやしたのですが、そのぶん第二章で前半の謎かけが解けてみるとそれが気持ちよかったです。テーマに見合っていて幻想的な世界設定も美しく、とても印象的な小説だと思いました。

状況設定が難しいにも関わらず、人の幸福を描いていて、テーマ性の強さと作者の作品にかける挑戦的な意欲を強く感じました。

それぞれ別の配偶者と結婚した状態でエレオノーラとミハイルが再会したところで、どうにもならなくない!? と思う読者もいれば、その前にコンスタンチンが語っていたとおり、愛する人が世界に存在しているだけで幸福であるという真実をより印象深く感じる読者もいる作品だろうと思いました。
あるいは、再会したからには主人公たちは愛人関係に発展するのかもしれないし、離婚してでも想いを遂げるのかどうかとか、想像の余地がたくさんある作品だと感じます。

妖精の伝説が色濃く残っている土地で、元々キリスト教が根付いた土地ではなかったみたいな描写もあったので、厳格なカトリックのように結婚の誓いを交わした相手だけにこだわらなくてもいいという考え方もあるといえばあるような気もします。私としては、やっぱり単なる不倫の話だとは感じないんですよね。やっぱり精神的な愛についての作品だという印象が特に強いからだと思います。

それでもやっぱり精神的な愛や充足だけではなく、世俗的な幸福も主役カップルに手に入れてほしいと感じる読者もいるであろうとは思いますけど、だからこそこの小説は彼らの人生の最も美しい場面で幕を閉じているのだろうなと思いました。彼らの幸せは、彼らの秘密の花園のなかに。


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