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『神童マノリト、お前は廃墟に座する常春の王』感想

仲村つばき著、廃墟シリーズの6冊目です。

これまでは現在のイルバスという国の成り立ち、そして現在の玉座を預かる3人の王についてそれぞれ描いてきた本作ですが、いよいよ役者が出揃ってきたという感じでお話も大きくうねる巻になっていました。
女王ベアトリスが助成する隣国ニカヤでのお話。

もともとは王の権威が強かったイルバスも、革命が起こって以来ここ60年ほどで随分市民に歩み寄った国になっている印象なのですが、ニカヤで国民の参加する議会を見たエスメの感想がとても興味深かったです。イルバスに対する悪感情が募っていく時勢柄、ギャレットは議会にベアトリスを参加させていないくらいなのですが、エスメは寧ろ紛糾する議会を活気があるとか風通しがよいというふうに感じていて、地元の人たちのなかですくすくと育ったエスメらしさを感じました。王杖とは思えないほど視点が市民側だなと。

ベアトリスとは国政をになう女性同士であるということで、ギャレットとは元は生活に困っていたような貧しい家の出であるという点で共通言語を持っている部分もあって、エスメは赤の陣営とは結構相性がいいんだなと思いました。かわいがってもらってる感じ。

今回は主人公たちが全員ニカヤの宮廷に入っていて、市勢を描くには視点が足りないので、サブキャラクターとしてシーラという困窮していた元スリの女の子が活躍しました。群像劇的にいろいろな立場の人たちの話が錯綜して、ますます面白かったです。

マノリトは本作内でやっと6歳から7歳になるかならないかというところで、王であるには優しすぎる性質が少し心配でもありましたが、とても責任感が強く聡明な人でした。数が多くはありませんが、いざ言葉を発すると重みとあたたかみがあって人柄が感じられました。

今回一番印象的だったシーンは、シュロとマノリトが再会したときにエスメが

「人というのは、不安でいないと安心できない生き物なんですね」

と悟るところです。め、めちゃくちゃわかる……!!

私は性格的に、結構いつも楽観的に構えているほうなのですが、とにかくいつも心配している人って本当にいるんですよね! とにかく自分を不安で不満のある状態にしていないではいられない人……。それって苦しい状態じゃないのかと昔は心配になることもあったんですけど、最近は、本人がそうしたいのだからあるがままが最善なのだろうと思うようになりました。
とくに、私みたいな鈍感なオプティミストでは気が付かないような、慎重で思慮深い意見というのは多くの場合、そういった人から生まれてきます。悪いことばかりでもないし、それこそが本人にとって自然の状態ということはよくあることだと思います。

この言葉は本当に含蓄があって、「人間は自分の思いたいように現実を受け止める」という意味でも理解できます。シュロがベアトリスを悪者にして、マノリトにとって自分は必要とされていると思いたかったように、現状は「何か」のせいで悪い状態になっていて、それを取り除き本来の状態に戻せば自分たちは幸せになれるはずなのに、と思うのは本当によくある話。現状を受け止めて、より自分の進みたい方向に進めるように己の行動を選択するべきなんですけど、人間は、それが正しくできなくて他人や社会のせいにする。
もしくは「足る」を知って、現状にあるものに感謝して大切にするということだってできるはずなのに、それがなかなかできない。人は「不安でいないと安心できない生き物」だから。
私は今回、この台詞ひとつで、「めちゃめちゃ面白い小説だな!」ってしびれまくっちゃいました。

サミュエルの病状や、アルバートの状況も気になるところです。赤の王冠の手がせまるなかひとり城に残ったクローディア、めちゃめちゃ頼もしくて笑っちゃいました。

「留守を守るのは女の役目です」

っていう台詞もかっこいい! 勇ましい。

そしていよいよ登場するイルバスの3人の王のいとこ、カミラ。めちゃくちゃ自由だし、イルバスの宮廷で育ったはずなのにすごく現代的な考え方を持っている女性で登場シーンからもう面白い。ショートカットっていうのがまた素敵。
カミラの侍女ブリジットの

「奥さまのお姿を見たならば、すぐにイルバス中の女が髪を切るでしょう」

の台詞、めちゃめちゃイケてると思いました。
奥さまの挿絵が出たら髪切ります。(もともと短髪)

あとサミュエルと離れた状態のエスメが、手紙の返事が来なくてちょっと寂しがってる様子が見られたり、サミュエルの胸中を憶測で言われてちょっとドギマギしていたりして、めちゃめちゃ可愛かったですね。最高。

次巻が待てません! 楽しみ!


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