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今年のはじめに、山梨県北杜市にあるgallery traxに出かけたときのこと。このギャラリーを立ち上げたひとりである木村二郎さんのデザインする椅子の展示販売会が開催されておりそれを目的としてささやかな旅に出る。
彼はもうすでに亡くなっているのだが、彼のデザインが、設計図が残されており、それをかつてのお弟子さんをはじめとする方々が今なお再現できるために今回受注販売をしているのだということをそのとき知る。

木村二郎という人とこのgallery traxの歩みをまとめた書籍がちょうど発売されており、その本も販売されていたので買って帰り読んだところによると、今では世界的に著名なクリエイターとなった多くの方々が、まだ無名だった時代にこのgallery traxで展示をしていた。この場を運営していた二郎さんや悦子さんがどのような人で、どうしてそのような場所を作り、どうしてそのようなクリエイターたちが集うようになったのかは詳細にこの書籍に記録されている。その物語が素直に心に染み渡っていく。今この時代に、コミューンのように開かれた場所が、それもギャラリーという場所が存在し、存続していることが奇跡にように感じる。

書籍の冒頭では坂口恭平さんが寄稿している。自身の鬱状態により生きるのもしんどい時期もあるそうだが、目の前のやりたいことをただやることで生きることができたと述べ、そしてその“目の前のやりたいことをやる”ということをしていればなぜだか食べるのには困らないだろうという確信もあったという。結果として本当に食べていけるかどうかは状況にもよるし、実際のところ本人の持ち得る才能に依拠するところも大きいのは事実だろうが、このような心持ちで何かに取り組み、生きていくことができた、という事実を作った人がいるというそのことに、ただ深く深く勇気づけられる人は多いに違いない。

生きていくのは難しいと心のどこかで思っている、それでも、目の前のやりたいことをやってみればいいんだという思考は、生きることを幾分か簡単に思わせるおまじないのようである。


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