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Lewis Taylorの青いソウル

Marvin Gaye → Prince →  …D'angelo?

 R&Bの正史としては70年代にMarvin Gayeが居て、80年代にPrinceが居て、90年代にD'angeloが居た、ということになっており、自分としても全く異論はないのだけど、当然有象無象のアーティストの中には彼らに匹敵する作品を残しながら時の流れに埋もれてしまった人たちもいる。以前記事を書いたRahsaan Pattersonはその一人だが、イギリスの白人R&BアーティストであるLewis Taylorもまたその一人だ。

サイケデリック

 ネットでLewis Taylorについての記述をいくつかあたってみると、主な影響源としてBrian WilsonとMarvin Gayeを挙げているようだ。これは彼の音源の印象とそのまま合致する。ざっくり言えばハーモニーやコード進行の複雑なアプローチはBrian由来、リズムセクションやヴォーカリゼーション、セクシュアルな楽曲のムードはMarvin由来といった感じ。
 Wikipediaによれば、マルチ・プレイヤーである彼の音楽キャリアのスタートは80年代に始まり、サイケデリックバンドのツアー・ギタリストだった。またSheriff Jack名義で一度デビューしており、86年と87年に計2枚のアルバムを残している。その後96年にLewis TaylorとしてR&Bのスタイリングを纏って再デビューとなった。おそらくこの再デビュー時のライブ映像がYouTube上にあるのだが、見事にサイケデリックなギター・プレイを披露しており一見の価値がある。

孤独にトリップしたネオ・ソウル

 Lewisより1年前にデビューし、いきなりR&Bシーンを塗り替えてしまったアメリカ南部の青年D'angeloはMarvin GayeとPrinceとニューヨークのヒップホップを溶け合わせ、『Brown Suger』でのちにネオ・ソウルと呼ばれるスタイルを作り上げた。一方のLewisはBrian WilsonとMarvin Gayeとトリップ・ホップのムードを縫い合わせ96年に『Lewis Taylor』をリリースした。彼の音楽は素晴らしかった。複雑な和声とメロディに彩られながら、クールな都会のビートを備え、歌声はMarvin Gayeのあからさまなパスティーシュでありながら本物の欲望を感じさせた。しかし彼のスタイルにジャンル名が与えられることは無かった。
 そしてD'とLewisはどちらも00年に2ndアルバムをリリースしている。『Voodoo』はR&Bシーンのみならず音楽史を塗り替える正真正銘の金字塔となった。『Lewis Ⅱ』は1stからビートがより磨き上げられ、捻りを効かせたポップ・ファンクと世にも美しいバラッドが収められたこちらも本物の傑作アルバムだった。(ちなみにこの時Lewisは、D'のVoodooセッションのためにアメリカに呼ばれたのだが、約束の日程になってもD'が現れず、そのままイギリスに帰ったそうだ。。。。!!)2023年に暮らす我々は『Lewis Ⅱ』が『Voodoo』になれなかったことを知っている。

ヨーロッパ / 教会 / ソウル・バラッド

 しかしLewisが完全に見過ごされていたというわけではない。あのDavid Bowieは「ヨーロッパの感性を備えた、最もエキサイティングなソウル・ミュージック」とLewisの音楽を讃えている。Bowieの言葉を証明する楽曲として「Satisfied」を挙げたい。この2ndアルバムに収められたあまりにも美しいソウル・バラッドからは、驚くことにチェンバロが聞こえてくる。アメリカ南部ではなくヨーロッパの教会に接近したソウル・ミュージックなのだ(!)。ポップ・ソングとしてはあまりに長いメロディ・ラインが寄る辺なく彷徨いながら高みに昇っていく。ソウルフルだが、熱狂よりも静寂を感じさせる。


2023年にLewis Taylorを聴く

 2022年、Lewisは18年ぶりのアルバム『Numb』をリリースしている。ブランクにも関わらず、深いブルーを思わせる異端のソウル音楽に変わりはない。2023年の今、音楽シーンを少し見渡せばJacob CollierやDaniel Caesar、いわんやFrank Oceanが居るのだ。確かにLewisの異形の音楽はフォーミュラにはならなかった。しかしそのブルーな美の魂はそこここでこだましている。ブルーで狂おしい夜にはLewis Taylorで決まりだ。


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