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✴︎アーカイヴ✴︎「時雨美人伝」第3回【「かぐらむら」97号より】

どうも。「時雨こぼれ話」で三上於菟吉さんを掘り下げている流れで、本編の方のアーカイヴもご紹介いたします。
「桃果子の時雨美人伝」は毎回結構な熱量で書いておりまして、どれが一番どうというのはないのだが、第2回と第3回は<前編><後編>というように2回に分ける形で、長谷川時雨&三上於菟吉夫妻について、斬り込んでみました。男女の愛について書くーーしかもこれほど激しい夫婦について書くーーというのはかなりのエネルギーが必要でした。笑。
もともと「かぐらむら」で連載が始まる段階で「(100号で休刊が決まっているので)全6回という連載で、長谷川時雨という人間をどう切り取っていくのか」を話し合うにあたり、編集長から「ごく普通に時系列に切り取った伝記のような形にはしないでほしい。せっかくだから中島桃果子という作家の独創的な視点から、彼女の人生を見つめ直すようにしてほしい」
というお話があった。

これがまた、言葉で言うのは簡単だけれども実行するのは結構難しい。
長谷川時雨という女性を語るにあたり「女人芸術」これはもう絶対欠かせないモチーフであるが、それすらも包み込んでしまう大きなモチーフが三上於菟吉との出会い、そして共に歩んだ人生である。
長谷川時雨という人間がおそらく普通の人間より流されにくく、所信の強い人間であった、けれどその女性が、全ての人生プランを変更して寄り添うという決断をするような相手に出会ってしまったこと、そうさせた三上於菟吉との出会い。つまり単純な言葉になるが「出会いこそが人を変える」ということ。三上於菟吉の存在しない長谷川時雨の人生はまた全く違ったものになっていたであろうと思うと、この出会いを語らずして長谷川時雨の人生は語れないのである。

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(↑本文はこちら)
なんていうのかな、三上於菟吉にとっても長谷川時雨と出会ったことで、作家・三上於菟吉が誕生したと思うし、彼があそこまで売れたのは時雨ありだと思うのだが、たとえば三上於菟吉は、時雨と出会わずとも生涯作家を志したであろうし、あれだけの才能があればどこかで花開いた(もしかしたら純文学としても!?)であろうと思う。
そうなると、そこに女あり、酒あり、文学ありという暮らしは、あまり変わらず、そばにいたのが違う女だった、というような感じもするし、やはり「雪之丞変化」は生まれたであろうと思うだが、
時雨さんの場合は、そこが女性の持つ、感性が己を形成、みたいな特性もあいまってだけれど、三上於菟吉と共に歩まない人生の選択だったらもしかしたらもっと芝居に戻っていたかもしれない、だとしたらば「女人芸術」というものも生まれていないかもしれない? と思うのだ。

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なぜなら「女人芸術」が生まれた背景には、三上於菟吉を支えるにあたりセーブした自身の活動や、なのに繰り返される浮気など、忸怩たる思い含むいろいろの衝動の蓄積が大きなバネでありエネルギー玉となって、それが一気に「いい方に」羽ばたいた形であったからである。
三上と出会わず、たとえばある程度名のある文士と恋愛をしながら実家を支え、仁を育てるたりする暮らしだった場合どうか?
割とちょこちょこ好きな表現をする時間などもあり、雑誌を作ろうとまでは思わなかったかもしれない。とはいえこれはただの「タラレバ」話であって、そうではない人生を選んで歩いた人に「もし」は必要ない。

第2回では2人の生涯を変えた「出会いという運命」について書いた。
第2回 長谷川時雨と三上於菟吉
「太陽と太陽の結婚<前編>」(春光の下に) 

第3回では「ふたりを繋ぎとめるもの」にテーマを据えて、
直木三十五の短いエッセイや、時雨本人の日記などをベースに、ふたりの愛の内側に踏み込んで書いてみた。「こぼれ話」の方では愛人、羽根田芙蓉の話題がそろそろ始まるところだが、本編はそれよりも8年ほど前に遡り、時雨が死を見つめていた時間に焦点をあてている。
この頃日記に綴られていた浮気の相手は片山廣子と言われており、これはおそらく互いに大人の関係であって、その後の羽根田芙蓉の方が正式に囲ったので大ごとなのであるが、その頃には時雨さんはある意味達観したところにいて、当時のこの浮気の方が、彼女に死を見つめさせた。

■ 第3回 長谷川時雨と三上於菟吉 
「太陽と太陽の結婚〈後編〉」(「ふたりを繋ぎとめるもの/文学者の日記」)

(「時雨美人伝」第2回 全文はこちらから⬇︎)

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なお、この「かぐらむら」を毎回読んでレビューを書いてくださったお知り合いの方がいます。せっかくなので、末尾に添えます。
※以前のアーカイヴにも添付いたしました、遡って読んでいただけます!

<↓ラズベリーさんによる「時雨美人伝」レビュー>

【✴︎アーカイヴ✴︎第4回】に続く!
【時雨こぼれ話】も引きつづきお楽しみに!

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