2019月モカ_190204_0006

月曜モカ子の私的モチーフvol.201「ハロー2月」(2019.02.04 アーカイヴ)

ハロー2月、ハロー、New Life。
季節の分け目の節分を終え、立春の本日、わたしも新しい春を迎えています。実は1月の末で長らくお世話になった銀座のお店を上がることになり、
作家活動を始める以前からつまり15年ほどもやっていた夜のバイト生活に終止符を打つことにした。

                         
「一陽来復(いちようらいふく)」という言葉があります。これは早稲田の穴八幡宮などではお金の融通を意味するものとしてお守りが配られたりすることから本来の意味を知らない人も多いと思うのだけど、本来は「少しづつ陽の光が戻ってくる」ことを意味して、病院の待合室なんかで目にすることも多い。
もともと、一年で一番陽が短いとされる「冬至」を境に、少しづつ陽が長くなることから、1日1日陽の光を取り戻していくように、陰から陽へ、物事が転じていくことをあらわす「一陽来復」まさに今こんな気持ち。

                          
最終出勤日の前日、朝方家に帰ったら、玄関に花束があった。末妹がサプライズで立ち寄ってくれていたのだ。
添えられたカードにはタイトルが付いていた。
「Hello new Life」
言葉は、「長い月夜の生活おつかれさまでした」「これからは太陽の光をたくさん浴びて、美しく月を輝かせてください」といった風に続いていた。

                          
輝くべき時が来たのだ。

                          
背中を押すように眩しいオレンジ色の花たち。

                           
月の光に照らされながらたくさんのことを学んだけれど、留学と修行はもう終わり。♪Mama~oh oh oh~~~
アイ、ガット、ゴウ。

これからは1本の道をまっすぐ歩いていく。
芸術家ではない状態について考えるCPUはもう割かない。

                          
まず髪を染めた。長年わたしを担当してくれている愛郎さんは、本当はアーティストたちの撮影用の髪を手がけたりするくらいアーティな人で、これまではザギンの品格を損なってはいけないから、思い切ったカラーなどはしなかったけれど、昨日わたしはこう言った。「もう、何かにそぐわないとかを考えなくていい人生の状態にしたから、愛郎さんがいいと思う感じにやってください」
そんなわけでわたしの前髪はちょっと変わった金髪のグラデーションになり、
「また愛郎さん、攻めたカラーしてるし!!」と、そういうのが好きな後輩が集まってきた。

                          
カラーのアシスタントをしてくれた男の子は年末、美容室全店で初開催されたのヘアメイクコンテストに応募していて、かなりロックで破綻した、わかる人いるかな、昔アメアパが出していたfree magazine「バイス」に載ってそうな、尖ったな写真を投稿していた、撮影は愛郎さんがフィルムで撮ったらしい。「あれどうだった?」そうたずねると彼は「聞かないでください」と小声で笑った。「この美容室の打ち出している、ブランドカラーにそぐわないって落ちちゃいました」「そっか。じゃあ次回のコンテストからは似たような写真ばかりが並ぶことになるね」わたしは答えた。

                          
その帰り道、ある画廊に吸い込まれるように入った。中に飾られている手塚治虫の「火の鳥」があまりに素晴らしく、ガラス越しに立ち尽くしていたら、中から店長さんが手招きしてくれたから。
「昔からここに画廊があったことは知っていたんですけど」
そう言うと「いや実はね、ここでは**しか取り扱ってなかったの。好きなその画家の絵しか置いてなかったの」その画家の名前は、割と絵に詳しいわたしでも知らなかった(そして覚えられなかった)。
「あ、でもスタイルを変えたんですね」
彼女は言った。
「わたしね、煙草の煙を吸うだけで気を失うくらいひどいアレルギーを持っていてね、体が弱いんだけどね、先日わたくしごとだけど無事に66歳の誕生日を迎えたの。それでよくここまで生きてこられたって思ったら、一つの節目だなって思ってね」
「え! そうなんですね。実はわたしも1月末に人生の節目を迎えて、それで今日、神社の豆まきに参加してから髪を切りに来たんです」
「わあ!偶然」
そんなやり取りをして話していると彼女がこう言った。
「ねえ、よかったら、友達になりませんか」

                          
よかったら、友達になりませんか、なんて言葉、もう何年聞いていないだろう。
もしかしたらこんな風に改まって友達を作ったことなどないかもしれない。
わたしは即答した。
「いいですね、ぜひ、友達になりましょう」

                          
“火の鳥”は版画で、当然版画でもかなりの値段がした。けれど彼女はこう言った。
「もし本当に欲しかったら。いいのよ、毎月、少しづつ払えるだけで」
「少しづつっていっても・・・」
「あ、そうそう、だから数千円ずつでもいいよ」

こんな「信頼」大前提の提案って、ここしばらく誰にもされていない気がする。

                          
友達になった彼女はこう言った。
「昔ね、在日中国人や韓国人の被爆者が長らく座敷牢に入れられたって話を聞いたことがあってね、その時に、いつどんな時も、不遇な思いをしている人たちがこの世にいることを忘れず、その人たちのためにできることをする方向に生きていくって、決めたのね」

                          
思い切って何かと決別すると、
思いもよらない何かが、現れる。

                          
もうわたしの進んでいく一本道に、誰もとやかく言わないで。正しいとか間違ってるとかちゃんとしろとか、ちゃんとできていないとか、当たるとか当たらないとか売れろとか売れないとか、いい年してとか、まだ若いんだからとか、普通にしろとか、普通にしろとか、普通にしろとか、
なのにとびきり抜きん出たことをしろとか、そういうの。
でもそう願うわたしがそう言わせているのを知っている。

                          
それらを断絶する勇気がなかっただけだろう。これまでのわたしに。

                          
大事な人たちほど、近しい人たちほど愛ゆえにとやかく言うから。大事な人たちの想いをなるべく全部感謝を込めて掬いたい、だから、ちゃんとしながら、ちゃんとして、そして抜きん出る。相反するベクトルのものを結合しようと奮闘しているうちに、わたしは冬至を迎えてしまった。
体調が陰の底。

これって結局、大事な人たちが望んでくれたり期待してくれたりしていることから、一番遠い着地点だよね。

                          
なので「一陽来復」
少しづつ陽の光を呼び起こすために。

わたしはもう誰の言うことも聞かない。
月の下で十分修行はしたと思っているから。

                          
だからわたし、昨日、初めて会った彼女と、友達になります。それから近郷画伯と絵本を作り、
春には愛郎さんに染めてもらった髪型で、
敬愛するカメラマンと一緒に写真を撮ります。着地点のまだ見えぬ写真集を作る。被写体はわたし。

                           
これら全く執筆と無関係に見えることを、わたし、書き記して本にする。
多分それは、ちゃんと全国の本屋に並ぶだろう。これら全部がつながった時、
一世を風靡できるのかもしれない。

                           
ハロー2月。

                          
予想もつかないことが毎日起きるけど、それに全部乗っかって、生きていく。予想もつかないことの先にしか、革命はないから。

                      <イラスト=MihoKingo>

ーーーー                          
☆モチーフとは動機、理由、主題という意味のフランス語の単語です。

☆このページを通じて繋がってくださっているあなた! あなたの「いいね!」はわたしの励みになっています、いつもありがとう!

がんこエッセイの経費に充てたいのでサポート大変ありがたいです!