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KAN「君が好き胸が痛い」における「GIRL TO LOVE」の主題を考える

アルバム「ゆっくり風呂につかりたい」以来、買っていなかったKANさんの楽曲。昨年11月にKANさんがいなくなってから、いるうちに買っておけばよかった、と思い、少しずつアルバムを買いはじめている。亡くなる直前に、本人がサブスク解禁を決断したという話は知っていたが、むかしながらにCDを買うことが、KANさんの追悼というか、カタチがないと不安な昔ながらのファンのあり方かな、なんて思い、CDを買うことにした。

最初に買ったCDは、「弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば」という、2014年10月から2015年6月にかけて行われた単身弾き語りツアーをライブレコーディングしたアルバム。全国28公演中、 5公演からの選り抜き音源である。これを最初に買った理由は、私がお小遣いで初めて買った楽曲である「東京ライフ」の弾き語りライブ・ヴァージョンが収録されているから、というのが大きな理由。このアルバムについては、いろいろな視点から書きたいことがあるが、まずはこの1点から。

このアルバム、全15曲から構成されているが、私がKANさんの現役ファンだった時代の曲は「東京ライフ」「愛は勝つ」「君が好き胸が痛い」の3曲のみ。「愛は勝つ」は言わずと知れた大ヒット曲だし、「東京ライフ」はこれまで何度か発売されたベスト盤でも必ずと言っていいほど取り上げられている名曲だと思うが、「君が好き胸が痛い」はこの曲の初出であるアルバム「野球選手が夢だった」のラスト曲ということ以外、あまり取り上げられることが多いとは言えない曲という印象。これまでのライブでどんな曲を取り上げていたのか、ライブに行ったことがない私にはわからないが、この曲が取り上げられることは決して多くはなかったのではないかな、と思う。

「君が好き胸が痛い」は、15曲で構成されるこのアルバムの最後に収録されている。福島県いわき市のいわきアリオス・小ホールでのライブ音源。ラストに持ってきていることから、すべてのセットリストが終わった後の、アンコール曲として演奏されることを想定した曲であり、ライブの構成を考えたうえでのラストの曲という位置づけと思われる。このアルバムを初めて聴いたとき、一曲目からラストのこの「君が好き胸が痛い」までを通しで聴き、この曲の最後に「あれっ?」と思うところがあった。それは「野球選手が夢だった」収録時のヴァージョンは、歌い終わった後のエピローグとして、アルバム「GIRL TO LOVE」のタイトル曲である「GIRL TO LOVE」のメロディ(主題)が流れるのだが、このライブ盤ではそれがないのだ。

「GIRL TO LOVE」は3rdアルバムで1988年6月発売だから、1990年7月発売の5thアルバムである「野球選手が夢だった」まで、約2年の間隔がある。これだけの時間をおいて、「GIRL TO LOVE」のメロディ(主題)を「君が好き胸が痛い」で改めてエピローグとして流した意図は何なのか。それは、おそらくKANさんがずっと片思いだった人に対する継続する思いに他ならないと考える。KANさんは、アルバム「ゆっくり風呂につかりたい」の頃まで、8年間片思いの人がいて、ずっとその人のことを想い曲を作っていたらしい。そして「TOKYO MAN」の頃には、その人は曲の中からはいなくなった、とのことだ。

ということは、こう考えることはできないだろうか。「GIRL TO LOVE」のメロディはその彼女への想いであり、テーマ(主題)であった。その思いはずっと続き、「君が好き胸が痛い」でも続いており、このエピローグのメロディは彼女への継続的な想いというメッセージになっていた。その後、彼女をあきらめることになり、それから20年以上経って「弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば」に収録された「君が好き胸が痛い」のエピローグにはこの主題は出てこない。すなわち、彼女へのメッセージという意味はもう、この曲には含まれていない。

ちなみに、「GIRL TO LOVE」はアルバムタイトル曲であるにもかかわらず、これまでKANさんのベストアルバムに登場することもなかったし、オリジナル楽曲185作品から121の歌詞を厳選したという歌詞集「KAN詞集 きむらの和歌詞」にも登場しない。これは、もう、確信犯的にこの曲を除外しているんじゃないのか、なんて邪推を持ってしまう。おそらく、彼女のことが完全に吹っ切れた、気持ちを切り替えたのだろう。

たぶん、当時の私は、この片思いのKANさんの曲が好きだったんだと思う。それを乗り越えたKANさんの曲は、当時の私には合わなかった。けれど、それから30年経って、また、当時とは違う部分で共感を得て、改めてKANさんの曲を好きになったように思う。

そんな、私のファン歴30数年のブランクを感じさせる、1曲でした。



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