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KANさんの想い出~⑦ロックボンソワとコロナ

「KANのロックボンソワ」を聴き始めて2か月経たない頃、こんなことがあった。2022年12月3日深夜の放送、いつもはKANさんの声で始まる番組が、女性の声、正確にはSTVラジオの内山佳子アナウンサーの声で始まった。なんと、KANさんは新型コロナに罹患してしまい、番組に出られなくなってしまったとのこと。番組の本編は、SING LIKE TALKINGの佐藤竹善さんをゲストに迎えた事前録音の準備があったので、それを無編集で放送することになり、オープニング以外はKANさんの声が聞こえる番組となったが、やはり、リスナーとしては調子が狂う。BAND LIVE TOUR「25歳」も、東京での2公演は延期になってしまったようだ。この2公演が延期になったことが、のちに大きな意味を持つことになろうとは、まだ誰も気づいていなかった。

そして、クリスマス前に、私も新型コロナに罹患してしまった。大事には至らなかったが、自宅で5日間ほど療養することになった。クリスマスイブも一人で部屋に閉じ籠って、寝ている以外はスマホを見たり音楽を聴いたりしていた。この年はイブが土曜日だったので、やることもないなか、「ロックボンソワ」を楽しみにしていたら、クリスマスイブ恒例の特番『チャリティーミュージックソン』があり、ロックボンソワはお休みだった。12月はコロナでのアクシデントに続き、ロックボンソワがない日は、どこか物足りなく感じるようになっていた。

年が明け、あっという間に、あの日がやってきた。「1月行く、2月逃げる、3月去る」なんて言い方があると、むかし、仕事の先輩に言われたことがあるけれど、まさにこの年もそんな感じだった。
「KAN、メッケル憩室がんを公表」というニュースを最初に聞いたのは、テレビだったか、ネットニュースだったか。私が詳しいことを知ることになったのは、3月18日深夜(19日0時から)の「ロックボンソワ」だった。

「今日は、わたくしKAN、とても重大な発表があります。というのは、今日18日の正午、私のオフィシャルサイトでは文字で公表しましたので、それを見ていただいている方はもうご存じかと思いますけれど・・・結論から言いますと、ちょっと深刻な病気が見つかってしまいました。それは、癌です。」
冷静かつ淡々と、しかし、はっきりと力のある声で、KANさん自身の言葉で発表した。このあと、4月からの弦楽四重奏によるコンサートツアーがすべて中止となること、去年の10月20日に、腹痛がして、その痛みが2週間以上続いたので、近所の医院で胃カメラを飲んでみたけれど、特に悪いところは見つからなかったこと、それでも痛みが治まらないのでCTスキャンをしてみたら、おへその横に何らかの影が見つかったので大きな病院に紹介状を書いてもらい、12月21日に大病院でいろいろな検査、PET検査、大腸内視鏡をしたが異常なく、依然としておへその横の影がなんだかわからなかったこと、結局、一度腹腔鏡手術をして疑わしい組織を取って病理検査をして癌ということがわかったこと、その癌は非常に珍しいケースでメッケル憩室癌という癌だったこと、などを理路整然と話した。そのため、スケジュールが入っていた3月12日のビートルズのイベントまでは仕事をして、その後は治療を最優先する、と発表した。

続けて、4月からのツアーを楽しみにしていた皆さんには申し訳ないが中止とさせていただくけれど、この「ロックボンソワ」と大阪のFM局で根本要さんと放送している「Wabi-Sabiナイト」だけは、関係者にご理解いただいて番組を継続させていただく、と話した。そして、
「この後も、よほどのことがない限りは途切れずに『ロックボンソワ』は続けていきたいと思うし、それが僕の日々の楽しみになるし、ぜひこれからも変わらず聴いていただきたいと思います。よろしくお願いします。とにかく、いいことだけをイメージしながら、確実に治す方向で進んでいきますので、熱心に聴いていただいている皆さんも、決して泣かないでください。ま、KANさんだったら大丈夫だよ、っていう風にみんなが思っていてくれることがとても大きなエネルギーになる、と思ってます。よろしくお願いします。」と明るく話した。

癌といっても、今は不治の病ではない。医療の進歩は目覚ましく、かつては治らなかった癌も治る時代だ。私の周りにも、かなり難易度の高い部位に癌が発見されたものの、手術を何度かし、何年かの闘病生活の末、見事に治癒し、その後10年以上経っても元気にしている人が何人もいる。KANさんの口調から察するに、決して楽観視してはいけないけれど、治療を着実に進めていけば、またライブをするくらいに復帰できるものだろう、と私は判断した。実際、発表の翌週以降、4月8日の放送まで毎週「元気です!ここで話してるってことは元気ってことです」「復帰に向けて頑張っている」と話していたので、安心していた。むしろ、安心しきっていた。

(写真)KANさんの13thアルバム「Gleam & Squeeze」より

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