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白砂・白壁・白玉

 車を運転するとき、僕はいつも確率の問題を思い出す。「白玉が999個、赤玉が1個入った袋から、玉を1つ取り出して戻す操作をn回行うとき、赤玉を1回も取り出さない確率を求めよ」というものだ。この簡単な問題が教えてくれるのは、1回の操作ではごく低確率でしか発生しない事象であっても、操作を反復すればするほど、発生させないでいるのは難しくなるということだ。引き当てるのが「赤玉」ならなんともないが、これが「交通事故」ともなると命に関わる。

 そういうわけで、僕は車の運転をできるだけ避けるようにしている。nの値が小さければ小さいほど事故を起こす確率も小さくなるのだから、運転技術に自信がない僕としては当然の判断だ。

 だから、友達に「車を運転したいから旅行に行こう」と誘われたとき、初めは正気の沙汰ではないと思った。何が楽しくてロシアンルーレットの試行回数をわざわざ増やさなければいけないのか。しかしよく考えると、レンタカーの料金を4人で割って旅行に行くのは確かにコスパが良いし、行き先が鳥取というのも面白そうだ。そしてなにより、集まっているメンバーはみんな僕より運転が上手い。これは自分だけで行くより安全かもしれない。

 ということで誘いに乗っかって、鳥取・岡山に行ってきた。結果的に事故もなく、ただ楽しいだけの旅行となった。写真は少なめだが、せっかくなので文章を添えて記録を残しておこうと思う。写真だけでも見てもらえると幸いである。

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【1日目】
・鳥取港海鮮市場かろいち

市場らしい市場。そういえば日本海側の漁港に来るのは初めてかも。
冬の鳥取といえば松葉ガニ。当然のことながら学生に手が届く価格帯ではない。
鳥取は生姜も有名らしい。PRのために生姜焼きが無料で振る舞われていたので、ありがたく頂くことにした。学生はこういうのでよいのだ。
渾身の自虐ネタ「スタバは無いがスナバはある」は、関連商品が魚市場に置かれるほどの鉄板ギャグになっているようだ。

・昼食(カニ丼)

1300円なのでカニたっぷりとはいかないが、とても美味しかった。ちなみに隣の暇そうなラーメン屋は豚骨ラーメンが売りらしい。魚市場で豚骨魂を貫く店主に敬意を表したい。

・砂の美術館

砂丘の砂を用いて制作した彫刻が展示されている。約1年半ごとにテーマが変更され、作品が全て作り直されるらしい。今期のテーマは「エジプト」とのこと。
作品名『アブ・シンベル大神殿』。作品には実在する遺跡や彫刻を忠実に再現したものと、出来事や風景をテーマにデザインされたものがあり、この像は前者。左から2番目の上半身が崩れているのも、もちろんわざとである。石の質感を砂だけで再現してしまう技術力に驚愕した。
作品名『カデシュの戦い』。こちらは想像に基づいて制作されたもの。強弓を引くラムセス2世(オジマンディアスとも呼ばれる)の筋肉がたくましい。本当に左利きだったのか、あるいはデザインの都合なのか。
『古代エジプトの風景 死者の書』。余談だがほんの数日前、砂の美術館のテーマを知らずに、古代エジプトの死生観に着想を得た文章を書いた。あまりのタイミングの良さに未来予知を疑いたくなる。

・プリン専門店 Totto PURIN.

砂に見立てた粉末状のカラメルをふりかけて食べる「砂プリン」が有名らしい。残念ながら写真を撮り忘れていたので、画像はAIに生成してもらった。この画像はどことなく不気味だが、本物はとてもかわいらしく、とろとろで美味しいので、興味がある人は検索してほしい。

・鳥取砂丘ビジターセンター
・鳥取砂丘

運よく日が沈むタイミングで砂丘を見ることができた。ハリウッド映画の1シーンのような風景に感激。
映画もクライマックスの雰囲気。ここで俳優がビショビショになりながら叫び、その名演が話題になったりならなかったりしそう。

・夕食(回転寿司チェーン店)
・三朝温泉
・就寝

【2日目】
・岡山県倉敷市 倉敷美観地区

紡績で発展した倉敷は、白壁の街並みが美しい地域。この辺りから完全に写真を撮り忘れている。真相は君自身の目で確かめろ!(攻略本風)
「語らい座 大原本邸」。倉敷の発展からクラレ創立にまで関わる豪商、大原家の邸宅が保存されている。紅葉が見える離れ座敷が目玉。写真が傾いているのはご愛敬。
大原本邸入り口には、歴代当主のありがたいお言葉がぶら下げられている(画像はパンフレットより)。言葉の強さから “圧” を感じる。途中からアニメ『葬送のフリーレン』の次回予告にしか見えなくなった。

・大原美術館

大原家が収集したコレクションが展示されている。モネ、ピカソ、ルノワール、ルソーなどなど、有名どころの作品が並んでいた。芸術のパワーと富豪のパワーを同時に感じられる場所。
展示作品の1つ、エル・グレコの『受胎告知』。友達が「天使とマリアの距離感が近い」と言っていて、確かにそうだなと思った。盲点。

・昼食(蕎麦、ままかり寿司)

ままかり寿司は岡山の郷土料理(画像はフリー素材)。隣の家からご飯を借りたくなるほど美味しいことが名前の由来だそう。「それにしては味付け薄めでは?」と思うのは無粋か。

・夕食(ファミレス)
・帰宅(無事生還!)

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 以上。とにかく今は、合計600km超の道程を無事に走り終えることができて安心している。ドライブなんてふざけた趣味だと思っていたが、意外と悪くないかもしれないと考えを改めた。自分の袋に入っている白玉の数を信じて、運転という行為にもう少しだけ親しんでみるのもいいかもしれない。もちろん、赤玉を引かない範囲で、だけど。