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「火星のねずみ」3

火星での入国手続きは比較的スムーズにいった。私は大きな建物の中をねずみに連れられてせこせこと移動し(ねずみの歩く速度は私よりもはやかった)入国審査場へとたどり着いた。

ゲートには馬面の面接官がいて、ガラスを挟んだ向こうのカウンターから私とねずみをじっと見つめているのだった。

「ここから先へ入ると二度と戻れませんが、よろしいですね?」

入国審査官はとても綺麗な目をしていた。その茶色の眼にひきこまれるようにして「はい」と頷くと、審査官は優しく目を細めて書類に何かを書き込んだのだった。

「これであなたも、誰でもないものになりました。」

そう言いながら彼が渡してくれた小さな紙には『追放者』という文字が書かれていた。

これは私が追放者として火星でどのように暮らしたかを記した日記である。

つづく

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