真夜中2時、京都で

東京から京都行きの終電に、恋人と乗った。

「これ、貸してあげる」とカメラを首にかけてもらって

新しいおもちゃを与えられた子供の気分で30万するらしいカメラをいじっていたら、レンズを素手で触ってしまい、「なんでそういうことするの。撮る写真全部に指紋ついちゃうよ」と呆れられてしまった。

カメラのレンズは素手で触ってはいけないという常識を私は全く知らなかったし、ちなみに帰りの新幹線ではトイレに立つ時にカメラを床に落としてしまい、また恋人をかなりイラつかせてしまった。

人の大事な物を無責任に扱うと、よくない。

同じ日本でも、知り合いがきっと誰もいない土地に来ると開放的な気分になる。一年前の冬の寒さをとっくに忘れている私たちにとって10月深夜の京都は十分寒くて、「寒いね、冬ってもっと寒くなるのかな」とか言いながら歩いてホテルに向かった。

ホテルについてから、恋人は私がつけた指紋を取るために紙だか何かで丁寧にレンズを拭いていた。ごめんねとか言わずに、アホの子のふりをして部屋のベットではしゃぐなどして待っていた。

しばらくして、タクシーで、伏見稲荷神社に向かった。

多分、大人のほとんどは伏見稲荷神社に行ったことがあるんだろうけど

私は一度も行ったことがなかった。

しかも真夜中の伏見稲荷神社は、えんじ色と、ライトアップされた光と、星空で、想像以上の美しさに興奮した。

首を上に向けて、目を細めると、視界が星空だけになる。

東京生まれ、東京育ち、親戚も皆東京の私にとって、

一面の星空は金で買えない奇跡の景色だった。

23年間生きてきて、満天の星空を何回見たことがあるか。正確に数えてないけどおそらく一桁で、もしかしたら片手で数えられてしまう可能性もある。

何より、狐の銅像がたくさんあり、どれも凛としていて美しかった。

私は狐ばかりカメラで撮った。

いろんな角度から何枚も時間をかけて。

忘れたくないと思って。

恋人から与えられたおもちゃで必死に

これだけは残したいと

何枚もとった。

数週間後に恋人から送られてきた「京都旅行の写真」のデータに狐の写真が一枚もなくて「全部ブレブレだったよ。暗すぎたんだね」と言われた。

私にはあんなに輝いて見えていたのに

真夜中の京都は暗すぎて、写真は全部ブレブレだった。

結局一番残したかった写真は一枚も残せず、京都の旅は終わりました。


スマホでも撮っておけば良かったな。







日々…健気に頑張っております…