山崎賢人に似た美青年の舞台を観に行った話

何年か前の冬、コウと言う名の美青年が舞台に出ると言うので、1人で観に行った。


黒い立方体の中の、半分が舞台で、残りの半分の空間に観客は押し込まれた。

蒸気のような埃の粒子たちが空気の流れをなぞり、きらきらしていた、これだけたくさんの人が押し込まれているというのに、静かだった。



きっと宙に漂う埃の粒子たちが、立方体の中で生まれた音を吸収し、光に還元していたんだろう。私もそんな発光体になれたらいいのに。

空中のあらゆる音を吸収し、発光して、その光でコウを照らせたら、素敵だと思った。世界から美しい音たちが消えて無くなってしまう代わりに美しい光を生みだす。コウだけを照らす、美しい光を生みだす。


コウはその光を受けてさらに輝く、さらに高く飛ぶ。コウは、着物を着ていて、舞台の上で聞いたことのない声を出した。空間に舞う粒子よりももっと上の方にあるなにかを見ながら色んな表情を魅せた。


知らないコウだ、と思ったがきっとこれが本当の、素直なコウなんだろう、と思った。コウは、舞台の上でしか息が吸えないんだ。いつも苦しそうな目をしていたのは、コウが人魚だったからではなくて、コウが役者だったからなんだ、舞台の上で、コウはどんな鳥よりも高く飛んでいた。

冬だったけど、外で氷になりきれなかった雨が降っていた。

室内に滲み込んだ湿気は雨を感じさせたが、私はちゃんとコウの匂いを感じていた。

雨は日常の匂いを塗り潰すのに、好きな人の匂いに体は正常に反応し取り込む

雨の日は誰かの活字に突き刺されてぶら下がったまま、何かぼーっと考え事をしたい。

黒い絵の具を、何で薄めたら綺麗な水色になるんだろうか、雨は匂いを塗りつぶすのに、好きな人の匂いだけは、私はこんなにも感じ取れるんだ。


日々…健気に頑張っております…